第100話 英雄譚
「あっ!康生おかえり〜!」
「待ってたぞ康生」
上代琉生と出会ってから、康生は一人街の中を歩く気が失せたので仕方なく広場へと戻った。
そこで出迎えてくれたのは時雨さんとエルだった。
どうやら康生が返ってくるのをじっと待っていてくれたようだ。
「ただいま。そ、それよりあれは何やってるの?」
広場に戻って早々、康生は広場中心で行われていることに目をやってエル達に訪ねる。
「あ、あれはね……」
エルは戸惑うように、そして時雨さんは呆れ顔になる。
「――そこで康生さんは大砲の弾を蹴り飛ばした!しかもその後距離が離れている大砲の所まで一っ飛びし、なんと拳一つで大砲をかち割った!」
エルが答えるよりも先に康生の耳に大きな隊長の声が聞こえる。
「拳が一つ振り下ろされるとなんと大砲はひとかたまりもなく砕け散った!」
隊長は自ら拳を振り下ろし当時の再現をしようとする。
「どうやら康生の英雄譚を披露しているようだ」 エルの言葉を受け継ぐように時雨さんが答える。
「お、俺の英雄譚……」
見ると広場の中央では隊長三人がおり、皆自分達が見た戦闘の様子を語っているようだった。それも主に康生についてのことを。
「あっ!康生さん!」
すると中央にいた隊長の一人が康生を発見し声をあげる。
隊長の声につられて回りの人たちも皆康生へと視線をずらす。
「丁度よかった!今あなたの話をしてたんですよ!どうぞこっちに来て一緒に話しましょう!」
すると隊長の一人が康生を手招きする。
「い、いや俺はちょっと……」
しかしすぐに康生は遠慮する。
だがそんな事おかまいなしに隊長達、それに人々が声をかける。
「さあさあ康生さん!是非私たちに話しを聞かせてください!」
そう言いながら康生を広場の中央に移動させる道を作った。
「え、えっと……」
康生はどうしようかと困り果てた。
するとそのまま足を動かさずにいると背中から力が加えられた。
「さ、康生行こっ!」
「エ、エル?」
「早く行くぞ!」
「し、時雨さん?」
康生はそのままエルと時雨さんに背中を押され広場の中央へと移動させられた。
結局その後、宴会が終わるまで延々と康生の活躍が話され、康生はその実演として力を散々使わされたのだった。
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