第68話 プロ

「これはちょっとやばいんじゃ……」

 隊長の怒りのオーラを肌で感じ取った康生は追わず弱音を吐く。

『確かにこれはよくある怒らせてはいけいものを怒らせてしまった。というパターンですね』

 AIも呑気に危険を宣告する。

「それよりまた撃ってきたら頼むよ」

 康生はAIに再度、銃の軌道予測を頼む。

『頼まれた所申し訳ないのですが、恐らくもう予測をする必要がないかと思われます』

「え?」

 AIの言葉に康生は疑問の声をあげる。

 その直後康生の目の前にいた隊長がゆっくりと手を鎧越しに胸においた。

「手加減はしないからな」

 瞬間、隊長の鎧が白い光を発する。

「あ、あれってもしかして……」

『はい。ドラゴンと戦う時に時雨さんがやっていたものと同じようですね』

 武装機械。

 鎧に埋め込んだ機械を起動させることで一時的に戦闘能力を増大させるもの。

 時雨さんが着ていたからもしやと思っていた康生だが、やはり隊長は武装機械を装備していた。

「それでは行こうか」

 そう呟くと同時に隊長の姿が康生から見て少しぼやけた。

 かと思ったら次の瞬間には隊長は康生の目の前に移動していた。


 パンッ。


 驚く隙を与えないまま康生に向かった至近距離で銃を放つ。

「くっ!」

 幸いにもAIが視界に弾道を表示させてくれたおかげでギリギリながら避けることが出来た。

「これでもダメですか」

 弾が外れたことをそれほど残念と思っていないようだった隊長は、再度その場から移動する。

 先ほど同様康生には隊長の姿がぼやけて見えるだけでどこに移動したのか全く検討が付かない。

『後ろです』

 しかしAIの声により康生を隊長の居場所を知る。

 だが悠長に振り返る時間すらない。

 そう考えた康生はあらかじめ飛ぶ態勢を準備していたおかげですぐさまジャンプすることが出来た。

 ゆうに2mほどジャンプした康生の真下では先ほどと同じように銃が放たれる。しかも今度は一発だけではなく三発も放たれていた。

「あぶねっ」

 三発の弾はそれぞれ真ん中、右、左、と康生があらかじめ避けるであろう位置全てを狙っていた。

 それを確認した康生は冷や汗をかく。

 真下を確認すると同時に康生と隊長の視線が合う。

「煙もない空中に逃げてどうするつもりなんだ?」

 視線が合うと同時に銃口が康生に向く。

 言葉を放つと同時に弾を放つ。

 まさにプロ。隊長と呼ばれている男だ。

「くそっ!」

 もう靴の力を使い果たしてしまった康生は空中を移動することが出来ない。

 そんな康生に向かってメガネ越しに弾道が表示される。

 それはしっかりと康生の心臓を狙っていた。

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