第67話 メガネ

「よっと」

 煙幕の中から出てきた康生は無事に着地をする。

 当然正面には隊長をしっかりと見据えて。

「――銃相手に遠距離に移動していいんですか?」

 隊長が不敵に笑う。

 そう。今の康生の位置は隊長から大きく離れている。

 武器が拳グローブの康生ではこの状況は圧倒的不利なのだ。

「勿論勝てるからここにきた」

 しかし康生はそんな隊長に言葉に自信満々の様子で答える。

 そんな様子を見た隊長は少しだけ警戒しつつも銃口をしっかり康生に向ける。

「その自信はもしかしてそのメガネにでもあるんですか?」

 銃口を構えながら隊長が問う。

「それは秘密です」

 にっこりと微笑みながら康生はメガネをくいっとあげる。

 今の煙幕の中でつけたそのメガネを隊長は明らかに警戒する。

『それじゃあ行きますよ』

「頼む」

 そろそろ戦闘の始まりを予感したAIに康生は短く返事を返す。

「じゃあその余裕の正体を見せてもらいましょう」

 AIの予想通り隊長は指に力を入れる。


 パンッ!


 康生めがけて発射された弾は間違いなく康生を狙って飛んでいく。


『右横』


 シュン。


 しかしそれは康生に当たることなく背後をかする。

 見ると康生は体を横にして弾を避けていた。


 パンッ!パンッ!


 隊長は何も言うことをせずに今度は二発一気に弾を放つ。

『横』


 シュッ、シュンッ。


 しかし次も康生は体に横こに向けることで弾を避けた。

「これは一体……」

 隊長はいよいよ訝しげな目で康生を見つめる。

 流石に銃の弾を避けられることは予想していなかったようで、少しだけ動揺しているようだ。

「上手くいってるよ。ありかどうAI」

『まだ戦いは終わっていません。油断しないで下さいご主人様』

 AIに少し叱られた康生は謝るようにして気を引き締める。

 ――康生が銃の弾を避けられている理由というのはAIが康生のメガネごしに弾が発射される弾道を予測し、どう避ければいいか瞬時に康生に指示をしていたわけなのである。だからこそ康生は指示に従うだけで弾を避けることが出来たのだ。

「何をしているっ!早く当てんか!お前の射撃は百発百中じゃないのか!?」

 背後ではそんな隊長を見かねた都長が声をあげる。

「分かっています。だから少しだけ黙って下さい」

 隊長は珍しく感情が表に出ているようだった。

「もう手加減はしない。本気でいく」

 そして再度目を閉じ気合いを入れているようだった。

「隙ありっ!」

 その隙を見て康生は麻痺針を飛ばす。

 狙い違わず隊長に向かった麻痺針は皮膚に刺さるようにしっかりと顔に向かった。

 しかし、

「邪魔だ」

 その一声で針は銃の腹ではじかれた。

「私を怒らせた罪は重いぞ?」

 ゆっくりと目をあけた隊長は怒りのオーラで康生を睨むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る