第63話 時間

「そろそろ時間じゃな」

 都長は腕時計で時間を確認する。

 先ほど試合を始めると言ってもうすぐ約束の一時間が経とうとしていた。

 都長の目の前の広場は先ほどのように大勢の人が集まっていたが、中心にはさっきまでは無かった巨大な柵が設けられていた。

 広場の中心で四角く囲うように設置された柵は、恐らく試合会場だろう。

 広さはおよそ学校のグラウンドの三分の一ぐらいの大きさで、障害物などは何もないただの平べったい場所だった。

「やはりあのガキは逃げたか」

 時間が近づいても康生が現れないのを確認した都長は、隣で手錠につながれているエルに話しかける。

「いえ。康生は必ず来ます」

 しかしエルは都長に目をくれる事なくただひたすらに広場の向こう、時雨さんの家がある方向を目を向ける。

「ふんっ。その意地がいつまで持つかな?」

 気に入らない態度をする都長は今度は何もすることはなかった。

(私を送らなければいけないから?)

 エルは都長の反応を見て考えた。

 先ほどの都長と男がしていた話。

 送るとか送らないとかの話で、送ったら大量の食料が手に入るといっていた。

 その事から都長はエルをどこかに送ろうとしている。

 だからこそエルが気に入らない態度をとっても傷つけるような事はしない。

(でも送るってどこに……?)

 途中で話が途切れてしまったせいで、エルは話の全容をまだ理解出来ずにいた。

 それでも都長が何かよからぬことをしようとしている事はひしひしと伝わってきた。

(早く時雨と康生に教えてあげないと)

 そう思いながらもエルはじっと広場の先を見つめる。

「もうすぐ一時間じゃ。やはりあのガキはお前を裏切って逃げた……」

 再度都長がエルを煽るように話しかけた。

 しかしその瞬間、広場の先で声が響く。

「道を開けてくれ!」

 その瞬間エルはパッと顔を輝かせる。

 誰もが声のした方向を向くと、そこには人で溢れかえった場所に一つのひび割れが出来ていた。

 誰かを通すために出来たそのヒビからはやがて二つの人影が通る。

「本当に来るとは……」

 都長の隣では一人だけ違う鎧に身を包んだ隊長である男がその人影を見て小さく呟く。

「ふんっ」

 都長はこないのだと思っていたわけなので、その人影を見てさらに気分を害する。

「エルっ!」

 一つの小さな人影が名前を呼びながら走ってくる。

「無事かっ!?」

 心配そうにこちらを見る人影にエルは笑顔で返す。

「えぇ!無事よ!」

 康生はそのまま柵の中に入り、エルに向かって駆け出す。

 しかし、

「さぁ、彼女を助けたければ私達を倒して嘘を証明してみなさい!」

 隊長である男を含む鎧に身を包んだ十名の兵士が立ちふさがる。

「勿論、嘘じゃない事を証明してやるさ!」

 立ちふさがる兵士達に康生は子供ながらにして果敢に立ち向かう。

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