第64話 リンチ
「さて隊長どうしますか?」
柵で囲まれたリングの中で隊長を含む十一人の大人達に囲まれた康生を前に一人の兵士が尋ねる。
「見たところ大した装備もしていない。先ほどの準備の時間は一体なんのために使ったのやら」
隊長は康生の姿をまじまじと見てため息をこぼす。
今の康生の格好は先ほどと同じ服装のままで兵士達のように鎧を着ているわけではない。武器といえば例の特製グローブを右手にはめているだけでそれ以外は武器らしい武器は持っておらず腰にポーチをつけているだけだ。
そんな格好で今から鎧を着込んだ兵士達と戦うなど大笑いもいい所だ。
そう思った兵士達はにやにやと笑みを浮かべている。
「まずは好きにさせてやろう。そしてそれから実力の違いをたたき込んでやる」
そう言うと隊長は一人前に出て康生の前に武器から手を放した状態で立つ。いわゆる無防備というやつだ。
「さあ、好きに攻撃してみろ」
完全に康生をなめている。
康生は背後にいるエルを一瞥し安全を確認する。
そして一度冷静になり目の前の隊長を睨む。
「どうなっても知らないからな」
一言言うと隊長は声を笑いをこらえるようにして攻撃を促す。
それを見て康生は一度と深い深呼吸をして拳を鎧に振りかぶる。
ガンッ。
鈍い音が響く。
確かに康生の攻撃は隊長の鎧に入った。
「――ふんっ」
しかし隊長どころか鎧にすら全くダメージが入っておらず隊長はあきれた表情を浮かべて鼻で笑っている。
「やはりお前はただのほら吹きのようだなっ」
「うわっ!」
隊長が腕を振り上げ、そのまま康生に落とす。
瞬間、約数十メートルほど康生が背後に吹っ飛ばされる。
そのまま康生は仰向けになって倒れる。
「あっけないな」
その場に倒れる康生を見て隊長は一言吐き捨てる。
「ま、まだだ……」
しかし康生は一生懸命立ち上がりまだまだ戦う姿勢を見せる。
「ふん、これ以上は俺がやる必要はない。後はお前達でやれ」
「はっ!」
隊長に命令され、背後に控えていた十人の兵士達は一気に康生を向きを変える。
「虚偽の罪しっかりとその身に刻み込んでやる」
兵士の一人がそう言うと同時に十人は一斉に康生に飛びかかる。
「やはりあの子供はただの子供でした」
「だからそうだと儂は言ったではないか」
リングの隅に移動し、隊長は都長と会話する。
「じゃあ早速時雨を処刑する準備を致します」
「あぁ。儂はこの娘を送る準備をす……」
とそこまで都長が言った瞬間、背後で大きな爆発音が響く。
「何事じゃっ!」
すぐに都長が反応し、爆発音のあった方向を確認する。
隊長もすぐさま背後を振り返り、煙が立ちこめるリングの中を見つめる。
しばらくの間、会場にいる者は皆何が起こったのか分からず放心していた。
ただ煙の中ではわずかに「うぉっ」と声が何度か響くのを隊長は聞き取る。
「まさか……」
そう呟いた瞬間、煙の中から一つの人影が現れる。
「これでようやく一対一ですね」
康生が笑顔で煙の中から出てきたのだった。
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