第50話 いざ
「解決って言ったって一体どうするつもりなんだ?」
再度、今度は康生に向かって時雨さんが尋ねる。
「それは……」
康生は皆に説明しようと口を開く。
しかしそれよりも先にAIが言葉を発した。
『今ここで説明するよりも、あの観衆の前で説明する方がいいと思いますが』
なんて言われるが康生自身、あの暴動の前で話す勇気なんてない。
だからこそすぐさま否定しようとしたが、それよりも先に時雨さんが動きだす。
「確かに、今は説明してもらっている余裕すらない。よし、じゃあすぐに頼んでいいか康生?」
「え、えぇ?」
早速行動に動こうとしている時雨さんに康生は思わず戸惑いの声をあげる。
『チキるのですかご主人様?』
「え?」
『十年間の意味を思い出して下さい』
AIにそんな事を言われて康生は思わず心の中で毒ずく。AIの言葉はいつだって正論であり、それでいて康生の事をしっかりと考えてくれているから何も言い返すことが出来ない。
だからこそ康生はいつもAIに背中を押されている。
今もまたいつものように。
「――分かりました。俺やります」
康生は決意を新たにする。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
だが決意を折るかのように後ろで立っていた男は口を開いた。
「そんな子供の言葉を信じていいんですか?」
そんなとはひどいな、と康生は少し思ってしまったが、それも仕方がない事かとすぐに考えた。
だってこの男にとって、というか俺はまだ子供であって、さらに素性がよく分からない子供なのだ。
そんな子供がいきなりこの暴動をどうにかするなどと言っても信用ならないのも納得できる。
でもそれでも信じてほしいと思い康生はなんとか良い言い方を考える。
「――信じてくれないか?」
しかし康生よりも先に時雨さんが口を開く。
何も言葉で飾る事をせずに時雨さんは真っ直ぐ男を見つめる。
始めは男も何か言い返そう口を動かそうとしていたが、じっと時雨さんに見つめられることによりやがて観念したかのようにため息を吐く。
「……時雨さんがそうまで言うなら信じますよ」
「ありがとう」
やはりここでも時雨さんの部下からの信頼が伝わってきた。
同時にそんな人に今康生は信頼されている事を自覚し、さらに責任が重くのしかかる。
(本当にこの暴動を止めることが出来るのか?)
康生に今更ながら不安がこみ上げてきた。
「――大丈夫。康生だったらいけるよ」
そんな康生にエルがそっと声をかける。
「だから頑張って」
康生の不安を読みとってか、エルが笑顔で微笑みかけてきた。
「分かったよ」
エルの言葉で康生は再度決意を固めていざ暴動の先頭へと時雨さんと共に向かった。
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