第51話 上る階段

「食料を寄越せー!」

「食べ物をくれー!」

 道を覆い尽くすように人が溢れかえる中、康生は時雨さんと共に暴動集団の先頭に立つ。

 そこでは大きな盾を持った部隊が必死に暴動を止めていた。

 一体これからどうすれば……。

 康生は心の中でひたすらに自分の考えをまとめていた。

「時雨隊長!例の物を持ってきました!」

 そんな中、背後から声が聞こえる。それと同時にガラガラと何かが近づく音が聞こえてくる。

「あぁご苦労」

 時雨さんは振り返るなり、背後へと下がる。

(一体何が……?)

 気になった康生は思考を止めて背後を振り返る。

 するとそこにはちょうと時雨さんの肩ぐらいの高さの台が運ばれていた。

「よし、じゃあ早速やるぞ康生」

 時雨さんはそう言うと、台を暴動集団の先頭を持っていく。そして台についている階段に足をかける。

「もしかして……」

 康生は小さな声で呟く。

 だが時雨さんは康生に返事を返すわけでもなく手を差し伸べる。

「はやく行くぞ」

 その瞬間康生の予想は確信に変わる。

 恐らく……というか絶対に今からその台の上に立って話さなければならないのだろう。

 だがもう怖じ気付くことはやめた。

 だから康生はすぐに時雨さんの手をとる。

「はい、わかりました!」

 康生は未だ何を言うのか決まってはいない。

 でも、それでも康生は階段を上る。

 皆の期待に応えるために。

 自身の生きる価値を少しでも皆に認めてもらうために。

(そうだ。俺は十年間頑張ってきたんだ)

 足を進めながら康生は十年間の事を思い出す。

 十年間。地下室に引きこもって必死に生きる価値のある人間になる為に様々な特技や技能、知識を身につけた。

 何より十年間も生き延びた。

 生き延びたのは両親のおかげでもあるが父さんが言っていた。

 ――「時には人に頼る事は大事だ。だがその分だけお前は何を成し遂げないといけない。それをよく覚えておけ」

 この十年間両親には頼りっぱなしだった。

 だから両親、特に母さんに教えられた食料に関しての知識を今康生は使わなければいけない。

 その分を成し遂げないといけないのだ。

「じゃあ行くぞ康生」

 とうとう階段を登りきり、そこから暴動集団が一望できた。

 何人かの者は康生達に気づくが、ほとんどの者は暴動に集中していた気づいていなかった。

 このままじゃ何か言っても聞いてもらえない。

(どうすれば……)

 必死に頭を回転させる康生の横で時雨さんが手を握ってきた。

「――帰ったらまた誉めてくれないか?」

「え?」

 始め何を言っているか分からなかったが、康生はすぐに時雨さんの意図に気づく。

「分かりました」

 康生が返事をすると時雨さんは軽く微笑み、握っていた手を離す。

 そしてそのまま大きく息を吸い込む。

「皆の者ー!!話しを聞いてくれ!!!」

 時雨さんは大声で叫ぶのだった。

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