第13話 反撃

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 ズキリと痛む肩を押さえながら康生は呼吸を整える。

 目の前には翼の女が地面に膝を付いていた。

(お、俺生きてるのか……?)

 今さらながら自分が生きていることを確認する。

 それだけさっきの事は偶然であり、奇跡でもあったのだ。

 そして翼の女もまるで何が起こったのか分かっていないようだった。

「…………」

 しかし自らの頬を流れる血を確認し、ようやく事態を把握したようだ。

「き、きっ、貴様っ!よくも私の顔に傷をつけてくれたなっ!!」

 瞬間、叫び声に反応するかのように空気の風が康生を襲う。

 それほどまでに傷をつけられた事が屈辱だったのだろう。翼の女は顔を真っ赤にして康生を睨みながら立ち上がった。

『ご主人様、何ボーッとしているのですか。早く荷物を』

「わ、分かった!」

 AIに急かされ康生は急いで荷物の元へと走り出す。

 そうだ一発でも攻撃を入れてしまった以上翼の女は容赦なく殺しにくる。だからわざわざ悠長に待ってはいられない。

 やられる前にやれ。

 多少意味は違うだろうが、これも父さんから教わった言葉だ。

 だから康生はいそいそと荷物を漁る。

 この状況を突破できる何かを探して。

「次は外しませんよ」

 当然、翼の女はそんな康生を見逃してくれるわけもなく、刀を拾ってすぐさま構える。

 そんな彼女から先程よりも強い殺気が肌にヒリヒリと伝わってくる。

 康生は必死に震える手足を抑えながら荷物を漁る。何か、確実にこの状況をどうにかできるアイテムを探すために。

「待ちなさい!」

 康生の背後で声が響く。

 みると少女が震える足で必死に立っていた。康生を庇うように。

「――どうやら先に死にたいようですね」

 翼の女に睨まれ少女は数歩後ずさる。それでも決して正面から逃げようとしない。

(何やってるんだ!俺があの子を守ってやらないと!その為の力を身につけたはずだろ!)

 そんな姿を見せられ康生は一層心に火を灯す。

「早くそこの人間を殺したいので、さっさと死んでもらいますね」

「ま、まっ……」

 もはや恐怖で声を出すこともできないほど少女は震えていた。

 しかしその足はしっかりと地面に踏みしめている。

 ――だからその少女の覚悟に答えなければいけない。それが生きる意味なのだから。

「はっ!」

 音を越えるかのような速さで刀が振り下ろされ少女は思わず目を閉じる。

 ……だがそれは少女の頭上に落とされることはなかった。

「――どうだ!これが真剣白羽取り!」

 少女の頭上から声が発せられる。

 その声を聞き少女はゆっくりと顔をあげる。

 すると少女の頭上で刀は止まっており、刀身を挟むように康生の両手が伸びていた。しかもその両手には何故か布が覆っていた。

「なっ、何っ……!」

 翼の女は刀を止められ少しの動揺を示すがすぐに刀に力を込める。

 だがしかし、

「戦いってのは純粋な力比べじゃないんだよっ!」

 力を込められた刀はピキリと鈍い音を発する。

 そしてその瞬間、刀は康生が持っている所から真っ二つに割れてしまった。

「なっ!?」

 そこでようやく初めて翼の女が大きく動揺する。

「へっ!どうだ!俺が作った特製の『鉄でもなんども溶かす液体』だ!」

 そう言って康生が離した両手の手のひらは少しだけ湿っていた。

『何度も言いますが相変わらずダサい名前ですね』

「う、うるさい!」

 相変わらずの名前でAIにツッコまれるが、康生はすぐに意識を切り替える。

 何故なら目の前の翼の女は今までになく動揺しているから。

 当然そんな隙は見逃さない。

「そしてそのまま煙玉!」

 手袋を取り外し懐から白い玉を出して地面に投げ捨てる。

 瞬間、玉から煙が噴き出て辺りを煙で覆う。

「そんな小細工……」

 白い煙に咄嗟に反応した翼の女はすぐに煙を払おうとする。

 だが、

「AIっ!」

『はい。熱反応からして上空に逃げようとしています。位置はこちら』

 いつの間にか康生はメガネを掛けており、視界が悪い中しっかりと翼の女の動きを視認していた。

「そこだっ!」

 かけ声と共に手に持っていた棘針付きの紐を投げる。

「なっ、なんだこれは!?」

 康生の狙い通り紐は翼の女の体を捕らえる。

『もう少しで上空にたどり着きます』

「了解」

 見ると翼の女はあと少しで煙の外に出ようとしていた。

「ごめんだけどちょっとだけ目を瞑っててね!」

「え?」

 突然の事に戸惑った少女だが、すぐに言うとおりに目を瞑る。

 少女が目を瞑ったことを確認した康生は、すぐさま小さな玉を投げる。

 瞬間、

 キィィィッ。

「ぐわーーっ!」

 辺り一帯に眩い閃光が広がる。しかもそれは翼の女の目の前で。

 当然そんな物を目の前で食らってしまったら目が焼け焦げてしまう。

 正直異世界人だからワンチャンそんな事にならない可能性もあったが、いくら異世界人でも強い光を浴びれば少しはよろめく。

 それが人と同じような体をしているのなら尚更だ。

「よしっ!今の内に逃げるぞ!」

「えっ?あっ!」


 そうして康生は少女をその手に抱えて全速力で走り出した。

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