第14話 始まり

「はぁ……はぁ……はぁ……。と、とりあえずここまでくれば安心か?」

 息を整えながら康生は後方を確認する。

 後方の景色は回りと同じ殺風景な景色だったので少しだけ安心する。

「AI。どうだあいつは追ってきそうか?」

 姿が見えないだけでは安心できなかったのか、スマホを後方に掲げながら訪ねる。

『いえ、今のところ熱反応は全くありません。それに足音に羽の音も全く聞こえないので恐らくは大丈夫かと』

「そうか。それはよかった」

 AIの報告を聞き康生はその場に倒れ込む。

 よほど気負っていたからか、安全な事を知るや否やすぐに体の力が抜けてしまったようだ。

「あ、あの大丈夫ですか?」

 そんな康生の顔を少女が覗きこむ。

 少女自身は康生に抱えられながらここまで来たので疲れては全く無いようだった。それより少女はここまで自分を抱えて走ってきた康生の体力に驚いてすらいた。

「あ、あぁ、大丈夫。ちょっと走り疲れただけだから」

 そうしてしばらくその場で深呼吸を繰り返し、ようやく康生の様子は元に戻る。

「――にしても散々だっな。あんなに頑張ったのに否定されるなんて」

 瞬間、少女は先程の出来事を思い出したかのように顔を歪める。

 だがすぐに頭を振り表情を切り替える。

「いや、あんな反応をされるのは当たり前なんです。それこそあなたが賛同してくれていることこそが普通なら可笑しいんですよ?」

「そういうものなのか?」

 正直康生はこの世界についての知識にまだ疎い。それに本来人類が体験していたはずの戦争を体験していない。だからこそそういう意見が出来るのである。

 でもそれは康生だけであって、普通の人はここ数年で異世界人との戦争を体験している。それは目の前の少女自身でもある。

 すると少女は翼の女に言われたことを思い出したかのように苦笑いを浮かべる。

「確かに私達はお互い殺し合ってきました。でもそれはお互いの勘違いがあったからでもあるし、それぞれ混乱していたからでもあるんです」

 少女はゆっくりと自分の意見を整理するかのように語り綴る。

「――でもだからこそ私達は仲良くできるはずなんです。そのためにはお互いの事をもっと知らないといけない。だから私はこうして人間の国へと来たんです。人間の事を知るために」

 そういう少女の目には確かに決意を決めた瞳が写っていた。

「だったら俺は君のその目的に協力しよう」

 康生は再度ハッキリと自分の意志を口に出す。

「……いいんですか?」

「あぁ。そもそも俺が生きる意味はこの世で価値ある存在になることだ。だからそうなるためには君の目的を手伝うことがいいと俺は思った」

 とそこで一旦そこで区切り少女の目をじっと見据える。

「だから俺は君の為ではなく自分の為に君の目的に協力したい。――それでもいいかな?」

 最後は弱気になってしまったが、それでも俺は自分の意見をハッキリと述べる。

 自分勝手な事だからもしかしたら少女に愛想を尽かされてしまうおもしれない。それでも言わずずにはいられなかった。

「――別にいいですよ」

 だが少女の反応は思った以上にいいものだった。

「そもそも私も自分がこの世界の知識を得たいためにそうしたいですから。私もあなたと同じ自分勝手な理由ですよ」

 そういって少女はクスリと笑った。

 そうしてふと思い出したかのように少女は手を差し出してきた。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はエル・ミシュール。気軽にエルと呼んで下さい」

 だから康生もそれに応じる。

「俺は上村康生だ。気軽に康生と呼んでくれ」

 そうしてここに一人の人間と一人の異世界人が出会った。




「くそっ!逃げられたっ!」

 しばらく空中を飛び回っていたが目的の人物が見つからなかったことにより、地上に降りる。

「まさか私がしてやられるとは……忌々しい人間め……!」

 そう言って目を抑える。

 正直あれからしばらく経ったが未だに視力は落ちたままだ。

 もしかしたらこのまま一生こうなるかもしれない。

 それが尚更イライラさせる要因になった。

「ギィ…………」

 すると彼女の周りに倒れていた異世界生物が不意に意識を取り戻した。

「――あなた達、死んではいなかったのですね」

 そう声を掛けた瞬間、意識を取り戻した奴がすぐさま彼女に向かってひれ伏せた。

 まるで機械的、無意識的に。

「まぁ、いいでしょう。またいずれあの人間には合うでしょうし」

 それだけいって翼をはためかせて空へと消えていった。

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