第11話 少女の目的
「――待って!」
呆然と立ち尽くす康生の目の前に突然少女が立ちふさがった。
「邪魔だからどいて下さいお嬢様」
しかし翼の女は少女の行動に対し表情も変えずに淡々と告げる。
「いいえ、私は退きません!」
だが少女も決して負けずに、そこから一歩も動くことはなかった。
(――どうして)
そんな中、康生は少女の行動が全く理解できずぎて混乱していた。どうして俺みたいな奴を庇うのか、と。
しかもどうせ一人前に現れたかといっても、あの攻撃は簡単に体を貫通して康生まで届いてしまう。
だからこそ、康生は少女の行動に疑問を抱けずにはいられなかった。
「お、おい逃げろよ!」
咄嗟に康生は少女に声をかける。
だが少女はもはや康生の声すら聞こえない様子であった。
息づかいは明らかに荒く、ただ立っているだけなのに肩で息をしている。しかもその華奢な体はさっきからブルフルと震えていた。
それが尚更少女の心情を伝え、目の前の翼の女の恐怖を物語っている。
「――私は……私の目的を達成するためまで死ぬわけにはいきません!」
しかしそれでも少女は高らかに宣言する。その顔はまるで何か一大決心をしたかのような、覚悟が現れた顔だ。
(目的の達成……)
康生の中で少女の言葉が響く。それと同時に少女に今までにない興味が沸いた。
少女は恐れているにも関わらず、それに刃向かうように宣言した。一体何が少女をそこまで奮い立たせるのか。何が少女を突き動かすのか。
生きる価値を得るという漠然とした目的しか持っていない康生に、少女の姿はひどく綺麗に見えた。
「――目的、ですか」
翼の女もそんな少女の姿に目を細める。
そして辺りに沈黙が訪れ、電流が流れる音だけが聞こえるだけになった。
少女はそんな中で必死に自分を奮い立たせようとしている。そのためか細く綺麗な少女の手からは爪をたてていることにより血が流れ出ていた。
やがてその緊張は康生にまで伝わり、康生自身も身を強ばらせて少女を見守っていた。
「――そ、それは」
そうしてやっと少女は口を開く。
ゆっくりだが、それでも必死に声に出そうと力を入れる。
「わ、私達と、この世界の人々で、ゆ、友好関係を築いて平和な世界にする事です!」
と少女はついに言い切った。
だがそれと同時に翼の女の表情が大きく変化する。
それは少女が頑張ったことへの労りの表情ではなく――怒りの表情だった。
「まさかお嬢様がそんな事を考えていたなんて私は全く知りませんでした……」
静かに、だが明らかに強く叱責するようにしゃべる。
「だから……」
お願い。きっと少女はそう言おうとしたのだろう。
だからこそ翼の女はそれより先に口を開く。
「ダメです」
きっぱりと、一言で少女の言葉を否定する。
「忘れたのですか?我々は人間達に何人も殺された。現に今だってその人間に何人もやられたではないですか?お嬢様は我々を殺した種族と笑って手をつなげると言うのですが?」
だが一言では終わらなかったようで、まるでせき止めるものが無くなったかのように次から次へと言葉を浴びせられる。
しかもその言葉は全て少女の心に突き刺さる。まるで本当に言葉のナイフが存在するかのように、少女の心は傷つけられる。
「どのみちそんな馬鹿な事は絶対に達成されるわけがありません。先程言った言葉は私達の相違です。きっと人間も同じ事を言うでしょう」
「で、でも……」
ようやく少女が口を開くが、もうすでに翼の女は少女の言葉を聞くを無いのか電気を纏わせた剣を構えなおしていた。
「や、やめなさい!」
それに気付いた少女は慌てて呼びかける。
しかし翼の女はその手を止めようとすることはない。
「そのような考えを持っているのならばあなたはもう反逆者です。なのでもうあなたの命令を聞くことは出来ません」
「そ、そんな……」
突然見放された少女は顔面蒼白になりその場に倒れ込む。
「ではこれでお別れですね」
そんな少女には目もくれず翼の女は剣を少女めがけ振りかぶる。
その剣が振り下ろされると同時に、少女の体が貫かれ全身に電気が回り焼け焦げになる。
翼の女には頭にはその光景がはっきりと見えていた。
だが、
「やめろっ!」
倒れ込んだ少女の前に今度は康生が立ちふさがったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます