第10話 初めての殺意
「はぁっ!」
気合いの入ったかけ声と共に美しい刀身をした刀が康生の腹めがけて吸い込まれていく。
「あぶっ!」
だが寸前の所で後ろに跳んだ事によりその刀は空を斬ることになった。
もし康生があと少し、コンマ一秒でも後ろに飛ぶのが遅かったらその体は綺麗に二つに分かれていたであろう。
まさに危機一髪。
だがそんな事で安心してはいられない。
「ふんっ!」
もはや初撃を外すことを想定している様子で、翼の女はすぐさま二撃目を繰りだそうとしている。
「ちょ、ちょっと待って!」
すぐに声を掛けるが当然言葉の通り止まってくれるわけがない。
だが、そう言わずにはいられないほど康生は焦っていたのだ。
シュンッ。
刀身が頭上をかする。
最初に後ろに下がって避けたことで、今度は後ろに下がっても逃げられないように付きの斬撃を打ってきた。
だから咄嗟に康生は頭を下に下げる。
「ちっ」
頭上から舌打ちが聞こえてきた。
どうやら翼の女は相当に怒っていらっしゃるようだった。
(俺別になんかした覚えがないんだけどな……)
ともあれ、少女の話を聞いた限りでは、人と異世界人は戦争をしているようなので、これは当然といえば当然なのだ。
だが、康生はそんな事情は全く知らない。
知らないからこそ、康生は戦闘の準備など全くしてこなかったのだ。――していて最低限不良に絡まれた時に対処する手段だけだ。
さっきはなんとか勝てた康生だが、それはもはや偶々としか言えなかった。
それほどまでにこの敵は強敵であり、康生が抵抗する隙など全くなかった。
いや、そもそも康生は抵抗する気すら今はないのかもしれない。
何故なら――康生にとって殺し合いとは全く縁のない生活を送っていたからだ。さっきの生物とは違う。異世界人といっても人の形をしている以上、どうしても康生の中で躊躇いが生じてしまう。
現に今、攻撃をする隙があるというのに康生は全く動けずにいた。
「無駄に逃げ足だけいいわね」
そしてそんな隙はすぐになくなり翼の女は康生と距離を取る。
「はぁはぁはぁ…………」
もはや康生は返事をすることさえ出来ずにいた。
殺意にまみれた斬撃を先程から回避し続けていたのだ。体力やそれ以上に精神力が大きく消耗している。
「――じゃあそろそろ終わりにしましょうか」
翼の女はそっと剣を構える。
来る。康生は次に来る攻撃を回避しようと再度体に力を入れる。
だが次の瞬間、そんな康生の覚悟をへし折るような光景が広がる。
「『雷斬(らいぎり)』」
刀からビリビリッ、という音と共に光――否、電気が刀を覆い包む。
一体それは電圧に換算したらどのくらいになるか康生には全く想像がつかなかった。
それほどまでにその雷は荒れ狂っており、それこそ光の速さで刀を包んでいく。
「――これは本当に不味いんじゃないですかね」
やっとの事で口を動かすことが出来たが、それ以上はもう動くことすら出来ずにいた。
逃げようにも体が震えて動かない。その時すでに康生の体は恐怖に支配されていたのだ。
「覚悟は出来ましたか?」
刀身を康生に向ける。
それは真っ直ぐに康生を捉え、もう逃げることが出来ないと言っているようであった。
「っ…………」
そしてその返事は勿論答えることが出来なかった。
何も言えず立ち尽くす康生を見かねた翼の女は剣をそっと構える。
どうやらもう時間は残っていないらしい。
(――あぁ、どうせならもっと生きていたかったな)
もはや逃げる気力すら失った康生は呆然と立ち尽くす。
「――待って!」
しかしその瞬間、少女が大きな声をあげて康生の前に立ち塞がった。
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