第3話 正義のヒーロー

「きゃーーーー!」

 あちこちに瓦礫の残骸が残っている場所で、一人の少女が悲鳴をあげながら走っている。

 桃色のドレスを羽織い走る少女姿は、ひどくこの場所と不釣り合いのように感じられる。

「キィ、キィ!」

 そんな少女の背後からは沢山の足音と共に奇声が聞こえる。

 奇声を発しているのは先頭で追いかけている――異形の形をした生物だ。

 その生物は全身を緑色で覆っており、背には羽が二本生えている。羽の下部分からはしっぽのようなものまでも生えており、人間のそれとは全く違う存在だった。そしてその生物に続く奴らもまた同じような見た目をしていた。

 まさに異質な形をした生物。しかしそれもそのはず、その者達はこことは違う世界から来た生き物なのだから。

 違う世界、つまり異世界からやってきた存在であり、こちらの世界でいわゆる魔物と呼ばれる存在なのである。

「だからあなた達がいくら止めようとも私はもう決めたのよ!」

 魔物達の奇声に反応するように少女は答える。

「キィ、キィキィッ!」

「だからもう戻らないってば!」

 いくら少女が口で言おうと、魔物の集団は止まろうとはしない。

(――もうダメ。このままじゃ追いつかれちゃう……っ!)

 少女と魔物達の間がじわじわと縮まるを感じた少女は最後の力を振り絞る。

「誰か、助けてー!」

 少女は大きな声で叫ぶ。

 誰かにこの声が届くのを信じて。


「そこまでだっ!」


 その瞬間、少女の思いに答えるように声が響く。

 少女も魔物達も、突然響いたその声に思わず足を止める。

 そして声のする方を向くとそこには一人の少年が立っていた。




「――A、AI?」

『はい、なんでしょうかご主人様?」

「あの生き物ってご存じか?」

『全く、やはりヒキニート様は頭が悪いらしいですね。生き物のことすら分からないなんて』

「えっ!嘘!?あんな生き物日本に居たっけ!?」

『日本どころか世界中探してもいるわけないじゃないですか。ヒキニート様は馬鹿なんですか?』

「やっぱり存在しなんじゃねぇかよ!だったら早くそう言えよ!」

『なんでもかんでも人に聞こうとする。そんなんじゃ生きる価値なんてものは得られないですよ?』

「ぐっ!痛い所をついてくるな……」

 突然現れたにも関わらずなにやら独り言(AIの声はイヤホン越しに聞いている為周りの人には聞こえない)をしゃべりだした人――村木康生むらきこうせいにやばい奴でも見るかのような冷たい視線が集まる。

 当然そんな視線を向けられていることにすぐに気がつく。

(やばっ!俺なんか変な人みたいな目で見られてるじゃん!)

 折角格好良く登場したのはいいが、やばい奴認定された康生はその身を隠したくなるほどの恥ずかしさに見舞われる。

『どうしたのですかヒキニート様?もしかして久しぶりに人にあって怖がっています?』

 そんな中でもAIはいつもの調子で話しかけてくるものだからたまったものだ。

「あの連中を人と呼んでいいのかは少しだけ疑問だけどな」

 それでも、こうして登場してしまった以上はいくら恥ずかしくて逃げ出したくても少女を助けないといけない。――その少女の視線すらも冷たいものになってしまっているが。

「あー!もう!とりあえずそこの女の子!今助けてやるから待ってろ!」

「あっ、は、はい」

 指を指された少女は少しだけ戸惑いながらも返事を返す。そこでようやく自分が置かれている状況を思い出したようだ。

「――どうせこんな光景になったのもあの生物が関係してそうだし、状況把握の為にも頑張ろうか」

『そうですねご主人様。情報収集は大切なことですので頑張ってください』

「おう、任しとけ!」

 鞄を探りながら康生は少女の元へと駆けつける。

「さて!十年の修行の成果を見せてやろうか!」

 威勢よく声を上げた康生は、早速鞄から筆箱を取り出した。

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