第4話 準備運動
(――さてどうしようか)
ひとまず今の状況を確認する。
前方には異形の形をした生物がおよそ十体程度。そこはAIの言っていた通りだ。そして背後には少女が一人。
荷物は少女に預けておいたので今は身軽な格好でいつでも戦える。だがそれは相手が普通の人の場合だ。なにせ目の前の存在は見たこともない生き物なのでどうすればいいか全く分からない。
だから情報が全くない中で無闇に突撃するのは悪手だ。
ここは一旦様子見するのが先決だな。
「えーと……確か筆箱に入っていたはず…………あった!」
筆箱を漁っていた
『ご主人様。そんなゆっくりしていると敵に倒されますよ?』
人前で緊張しているのがバレたのかAIがケチを入れてくる。
「分かってるよ!もう『消しゴム』出したからいいだろ!」
『わざわざ報告はいいですから早くして下さいご主人様』
「くっ〜!」
いちいち癪にさわる事を言うAIに、再度言い返そうとしたが、寸前の所で思いとどまる。
視線の隅で目の前の生物達がこちらに向かっているのを目撃したからだ。
「キィッ!」
おまけに訳の分からない奇声付きで。
「お、お兄さん人間だよね?見たところ丸腰みたいだけど大丈夫なの?」
振り返ると少女は心配したようにこちらを見つめていた。
「安心しろ。あんな奴らすぐにやっつけてやる」
出来るだけ心配させないように答える。そして少女を安心させてあげるためにすぐさま行動を起こす。
「くらえ!『必殺消しゴム弾』」
手にした消しゴムを少しちぎりそのまま相手に向かって投げつける。
――『相変わらずダサい名前ですね』なんてうっすらと聞こえるが今は戦っている最中なので頭の中で排除する。
「ギィッ!!」
ダサい技名に反して、消しゴムが当たった奴の頭からは血の代わりのように黄色の液体が噴水のように飛び出てきた。
「うわっ!気持ち悪っ!?」
黄色い液体を見た康生は思わず後ずさる。
「キィ……」
そして康生に合わせるように奴らも後ずさる。恐らく康生の攻撃を恐れたのだろう。
「すごい……」
グロテスクな情景が広がっている中、康生の後ろに隠れている少女は感嘆の声を出す。
(よくこんなグロイのを見て平気でいるな……)
少女の度胸に関心しつつも康生は足を踏みとどめる。なにせ今は少女が背後にいるのだ。格好悪い格好など見せられない。
「よーし!どんどん行くぞ!」
そうしてもう一度消しゴムを千切ろうと手を伸ばす。
『――気をつけて下さいご主人様!』
AIの声が一層強く聞こえた。
だからすぐに手を止め、目の前を注視する。
「なっ!あ、あれって……!」
だがその瞬間思わぬ光景に手に持っていた消しゴムを手から離してしまった。それほどまでに康生は動揺してしまっていた。
「「「「キィィ!」」」」
生物達が一斉に奇声を発すると同時に口から火の玉を吐き出した。
ゴォゴォと燃え上がりながらいくつもの火の玉は一寸狂わず康生の方へと向かってくる。
「そんなのありかよ!」
少女を抱え寸前のところで地面に倒れ込む。
すぐに顔をあげると火の玉は全て真っ直ぐ飛んで行き建物の残骸に当たって消滅した。
「――おいおい。まるでゲームの世界じゃないかよ」
『でもこれで納得しました』
完全にビビッてしまった康生を放っておきAIは分析結果を報告する。
『十年の間にここまで崩壊したのはきっと奴らのせいなのでしょう』
そしてそんなAIの態度がまた康生を奮い立たせる。
情報を手に入れた。だからもう恐れることはないのだと。
「――あの魔法を使うには少しの時間が掛かる」
だから康生もまた冷静に分析をすることが出来るのだ。
「でも、あの魔法以外にも何か厄介な魔法を使ってきたりしたら……」
考える時は声に出して考えるとよい。昔父さんから言われたことだ。
その教えに乗っ取り康生は頭と口を動かし奴らを倒す方法を考える。
「――それは大丈夫だよ」
「え?」
「あいつら、さっきの魔法以外は使えないから」
口にしていた言葉を聞いていたのか、少女は康生にそっと耳打ちする。
そんな少女の言葉に一瞬だけ疑いの思考が巡るが。
――少女の真剣な目を見てすぐにやめた。
そうして必要な情報が揃い、康生はそっと立ち上がる。
その口元にはうっすらと笑みを浮かべて。
「安心しろ。今からすぐにあいつら全員倒してやる」
そう少女に伝え、康生は異形の生物達に向かって突撃していった。
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