絶望マンドラゴラのパンデミック・シミュレーション

ちびまるフォイ

植物も人も最低限必要なものは同じ

ぼこっ。


アスファルトを突き抜けて1匹のマンドラゴラが生えた。


サイズはそこいらの植物のサイズとは似つかない、

およそ人の身の丈もあるほどに大きい。


パッと見では人間が腕組みをして目を閉じているように見えるが、

頭には植物の葉がついて足はアスファルトの地下深くに根付いている。


『見てください! これが今話題のマンドラゴラです!』


突如、道路に現れたマンドラゴラはSNSを通じて大人気。

物珍しさにやってきた人たちが写真を取りまくった。


「おいさわるなって!!」


その中で話題をさらうためか若者が人垣をおしのけてマンドラゴラに接近。

マンドラゴラに蹴りを入れたとたん、これまで目をつむっていたマンドラゴラがカッと目を見開いた。



「 ギィヤァァァァァァァーーーーーッ!!!! 」



すさまじい絶叫をあげる。


近くにいた若者はもちろん取り囲んでいた取材陣。

集まっていたやじうま達の命を一瞬で刈り取ってしまった。


叫んだあとのマンドラゴラは再び目を閉じて元通り。


ただしその周りには目を開けたままの死体の山が転がっていた。


『みなさん、マンドラゴラは危険です!

 けして近づかないでください!!!』


マンドラゴラの周囲には接近禁止令がしかれて半径数十メートルには近づけなくなった。

通例では引っこ抜かない限り悲鳴をあげないはずだった。


衝撃を与えただけで悲鳴をあげるとなれば話は別。

それはもう触れたら爆発する爆弾のようなものだ。


「マンドラゴラに絶対傷つけるなよ」

「わかってる」


1匹のマンドラゴラの悲鳴で殺されたあまたの死体が片付けられてもなお、

マンドラゴラみたさに人が遠めから集まっていた。


集まりが悪くなるのはマンドラゴラが世界各地で確認されるようになってからだった。


『見てください! 高層ビルを傾けて地面からマンドラゴラが!』


『急に家の床から生えてきてねぇ、困りましたよまったく……』


『政府では核融合炉近くに出現したマンドラゴラの対策ついて苦慮しております』


たとえ地表が永久凍土でもコンクリートでもおかまいなしに

マンドラゴラは地面を突き破って地表に現れた。


近くに住んでいる人は引っ越しを余儀なくされ、

観光スポットであったはずのマンドラゴラは危険な有害植物になった。


「うちの学校にもマンドラゴラが生えたんですよ。

 なんとか刈り取れないんですか。このままじゃ困るんです」


「しかし……あれを処分しろというのも人道的にどうかと……」


「見た目はどうみても人間にしか見えないかもしれませんが植物ですよ。

 ブルドーザーでもチェーンソーでもいいから切っちゃってくださいよ!」


「そうは言ってもねぇ……」


見た目がどうみても成人した人間の女性。

耳栓しててももし悲鳴が漏れ聞こえたら命を落とすかもしれない。


誰もが望んで爆弾処理班になりたくはなかった。



マンドラゴラはますます生息域を拡大させていく。



道路はマンドラゴラのせいで車はもう通れなくなる。

水道管を突き破ってマンドラゴラが出てきて水の供給が滞る。

発電所の中枢機械の下から生えたマンドラゴラが電気をとめる。


もはや街では人間の人口よりもマンドラゴラのほうが多くなった。



接近禁止令もマンドラゴラの間をぬって歩くしかないこの状況のため空気化した。


「ああ! もう限界だ!!」

「おいやめろ!!!」


「 ギィヤァァァァァァァーーーーーッ!!!! 」


マンドラゴラに追いやられた人たちが強制排除しようとする。

本人はしっかり対策していても迷惑を被ったのは油断していた周囲の人たち。


いつどこで誰が勝手にマンドラゴラの悲鳴を誘発させるかわからない。

マンドラゴラのせいで視界は遮られて誰が何をしでかすかも見通せない。


誰もが大音量のイヤホンで自己防衛をするようになり声でのコミュニケーションは失われた。

マンドラゴラに覆われた地球は不気味に静まり返った。


『国民のみなさん聞いてください。勝手にマンドラゴラを処理しないでください。

 あなたの勝手な行動で他の人が死ぬことになります』


『我々、地球防衛軍では今マンドラゴラに対する枯葉剤の研究が完了しました。

 安心してください。人体には完全に無害です、人体に影響しない物質でできています』


『これをまけばマンドラゴラは枯れてなくなるでしょう。

 文字通りの根絶やしです。みなさん、地球をふたたび取り戻しましょう!』


字面だけで流れた地球枯葉剤計画はすぐに実行された。


地面を封鎖するほどに生えていたマンドラゴラは空からまかれた枯葉剤で

悲鳴をあげることなくどろどろに溶けてしまった。


地面は液状化したマンドラゴラで川のようにもなったが、

それも一時的ですぐに地面に吸収されて穴は空いているが元通りの地面が戻った。


「見ろ! マンドラゴラが消えているぞ!!」


マンドラゴラで追いやられた人たちは大喜びで支給された枯葉剤を使いマンドラゴラを処理する、

空から散布される枯葉剤が届かない場所には地元の人達が処理に向かう。


子どもたちは溶かした枯葉剤を水鉄砲に仕込んでゲーム感覚で人の形をした植物を溶かしていく。


「やったぁ! みろ、やっつけたぞ! これで10点だ!」


溶けたマンドラゴラたちは地面に浸透して消えてゆく。

すべてのマンドラゴラが処理されるのに10日もかからなかった。


「地球のみなさん、ご協力本当にありがとうございました。

 これで地球は元通り我々の手に戻りました、

 もうあの悪しきマンドラゴラは地球のどこにもいません。

 枯葉剤により地球の大地には生育できないようにしましたから!」


今度は字面ではなく、誰の耳にも届くように演説で行われた。

イヤホンつけっぱなし生活が長かったのか必要以上に大声だった。


あっという間に喉を摩耗した男は準備した水をひと飲みして喉を潤す。


「失礼。では続いて、人間に完全無害の枯葉剤についてお話をしましょう」


「だ、大臣……!」


「なにかね? まだ話の途中で遮らないでくれたまえ」


カメラマンが指差す先は大臣の脇腹だった。

服の上からでもわかるように不自然に横からふくらみが出ている。


「これは……!?」


大臣も驚いて上着を脱ぐと、見飽きたソレが体から生えていた。

サイズこそ縮小しているが白シャツの上からでも姿はわかる。


「まさか、液体化したマンドラゴラが地下水にまじって……!?」


大臣は自分の体から生えたマンドラゴラに恐怖し錯乱。

シャツを脱いだだけの衝撃をマンドラゴラに与えてしまった。



「 ギィヤァァァァァァァーーーーーッ!!!! 」



マンドラゴラの悲鳴が電波に乗ってお茶の間に届けられた。

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