こんな寒い夜だから

ritsuca

第1話

 珍しくスマホが鳴っている音がした。

 まぁ、ほっといていいだろ。

 それが昨夜の話。


「きよよ。なんでお前さん、昨夜の電話出なかったよ。」

「あ、そういえばなんかスマホ鳴ってるなって思いました。あれいちろー先輩だったんですか?」

「ん? それ、俺にかけてなかったか?」

「「え?」」

「俺もなんか鳴ってるなーとは思ったんだけど、ちょうどぬか床混ぜてて。手洗わないと電話とれないなと思ってるうちに切れた。で、寝る前に見てみたら、お前の名前があったんだけど、どうせ今日も会うだろうしいいかと思って」

「俺も音がしたなーとは思ったんですけど、ちょうど布団に入ったところで。ほっといていいだろ、って思って履歴も見てませんでした」

「お前ら俺に対する扱い雑すぎない!?」

「だっていちろー先輩、毎日絶対どこかで会いますし」

「俺、留守電入れてくれてない人には基本的に同じ対応だから。ボスだったらかけ直すかもしれないけど」

「きよ、お前さん俺の扱いやっぱり雑じゃないかね?」

「うーん、でもいま履歴みてるんですけど、いちろー先輩からの着信ないですよ? 昨夜でしたよね?」

「うん?」

「あれ? ちょいちょいちょい待て。俺何回かかけたんだけどじゃぁあれは一体だれに……ぁ」

「お、誰にかけてたんだよ」

「…………さん」

「「はい?」」

「知子さんにかけてた……何回も……やばい、俺イタ電男って思われてるんじゃ……やばい……」

「あー、そういえば今朝『あんた今日はいちろーくんに会うの?』って訊かれましたね、朝飯の時」

「ほう、それで、なんて?」

「なんかものすごい笑顔で『よろしく伝えておいてね』って言われました」

「うわああああ死んだもう死んだもう無理今日のゼミ休むううううう」

「おい、ゼミは関係ないだろう、ゼミは。大体お前のとこ、俺のとこより厳しいだろうが」

「もう生きてられないもう俺は死んだ……」

「えーと、御愁傷様です?」

「安心しろ、骨は散骨してやる」

「そこは拾ってくれよ!」

「それだけ言い返せれば元気だな。で、」

「「なんでそんなに何回もかけたんだ?」です?」

「それはその……」

「「それは?」」

「…………ったから……」

「「声が小さい」です」

「寒かったからだよ! 昨夜があまりにも!」

「……きよ、どう思う、これ」

「とりあえずねーちゃんに伝えておきますね?」

「やめてくれええええええ!」


 そんな冬の入口。

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