激突の湖

 ゴングの水中機動性は、上空のヒューイが海竜以上だと興奮気味に伝えてくるほどだった。


 設定では水上ならば強力なビーム兵器も使用可能だけど、それは試すと大騒ぎになりそうなのでぶっつけ本番になりそうだ。

 水中で使用できる武器は魚雷で、爪はどちらでも使うことができる。

 何より人型であることを生かした蹴りや体当たり、絞め技なども使えるので、海竜相手でも遅れはとらないだろう。


 装甲の強度は……これはもう賭けでしかない。海竜がどれほどの攻撃力を持っているのか、前回の戦闘ではほとんどわからなかったのだから。

 圧倒的な質量は防ぎようがないが、そこは回避力に期待しよう。


 残念ながら水中での無線通信はできなかった。水面にゴングの一部でも露出していれば通じたのだが、完全に水没すると通信は途絶えてしまった。

 これは連携を行う上で幾らか制限があることを意味している。ヒューイによる上空からのナビゲーションがあればより有利に戦えるかと思ったのだけれど。



 能力の確認を終えてゴングを湖から陸に上げたところで、もう一つの問題に気が付いた。


「ゴングは街には入れないなぁ……」


 その巨体では外壁の門をくぐることも通りを歩くこともできそうにない。


「ならばツオゴルの呪文で一時的に元に戻されてはいかがでしょう」


 ツオゴル。従者の改造や修理のため、従者に宿った精霊を一時的に分離する呪文。


「あ、なるほど」


 アルテミスの提案は目からウロコだった。

 それならゴングを元のプラモデルに戻せるかもしれない。

 俺は早速試してみることにする。


「ゴング、これから君を一時的にプラモデルに戻すよ」


「モデーラ様のお望みのままに」


「ありがとう。しばらく我慢してくれよ……。ツオゴル」


 ゴングが光を放ちながらみるみるうちに1/100サイズにまで縮小していく。

 よかった、これで持ち運べる。




 ヒューイに乗ってリポルタの屋敷に戻るとそこではリポルタが数名を引き連れて待ち構えていた。


「おかえりなさいませ。どちらにお出かけで?」


「湖で少し……実験を」


「そうでしたか。うまくいきましたかな?」


「ええ、それはもう」


「それは良かった。ところで一つ、お願いが……」


「お願い?」


「はい。実はヒューイ殿の採寸をさせていただきたいのです」


 採寸?


「この者たちは……」


 とリポルタは連れていた集団を示す。

 それぞれにメジャーやら台帳やらその他よくわからない機材やらを持ったその集団は、一人の老人に率いられているようだ。

 老人は頭頂部が禿げ上がった長い白髪と同じく真っ白で長い髭を蓄えて、いかにも頑固そうな鋭い目つきでこちら……いや、ヒューイを見ている。


 リポルタは続ける。


「この街の大学に属する学者たちです。彼らは空を飛ぶ従者の話を聞いて、その研究をしたいと言っておりまして」


「研究?」


「はい、つまり……」


 リポルタの言葉を遮って学者集団の長が話し始める。


「古来より伝承された言葉に従って我らは従者を人の形を模して作ってきた。それゆえ従者にできることはごく限られておったのじゃ。人以外の形で従者が作られたこともあったが、うまくいったと言う話は聞いたことがない。だが人の形を為さずとも成立し、しかも実際に飛んでおる従者がそこにあると言う。ならばそれを調べ上げ、その秘密を解き明かし、再現することこそ我らの役目である!」


 お、おう。


「教授、まずはご挨拶を」


 いきなり演説をぶった老人を半ば呆れ顔で諭すリポルタ。


「挨拶?おおそうか。わしはジュラング。以後お見知り置きを。さて、すでに申し上げた通り……」


 だが老人の言葉をリポルタが遮る。


「そういうわけですので、ご迷惑かと思いますが、彼らにヒューイ殿を調べさせてやってはくれませんか?」


 老人……ジュラングの言うことは、まあ、わかる。

 ただ……。


「少し時間をいただけませんか?ちょっと考えさせて欲しいし、それにこれからやらなければいけないことがあるんです」


「なんと!科学の発展よりも大事なことがあると申されるか!?」


 ジュラングは憤慨しているが、それをリポルタが取りなす。


「わかりました。今は彼らを下がらせましょう。ただ、空を飛ぶ従者が世界に満ちる様子は私も見てみたい。ぜひご一考をお願いします」


 リポルタはジュラングたちを追い立てるようにし、ジュラングたちは渋々と言った感じでそれに従って立ち去っていく。


「……さて、じゃあ始めようか。俺はゴングを持って船着場へ行く。アルテミスとヒューイは先に飛んで海竜の所在を確認してくれ」


「かしこまりました」

「まかせときな!」




 船着場へ向かうと黒山の人だかりができていた。人々が口々に叫ぶのを聞いていると、どうやら海竜のせいで船着場が使えないことに対する不満が爆発しているらしい。


 その人々を諌めている警備隊の中に、昨日海竜と戦っていたロスガノスの姿があった。



「ロスガノスさん!!」


「貴殿は確か昨日の……」



「二次攻撃は行われたんですか?」


「いや、結局昨日は部下たちに引き止められてしまった……頭を冷やさざるを得なかったのだよ」


 あの剣幕からてっきり攻撃を行ったものと思っていたが、思ったよりも柔軟な人のようだ。


「それよりも貴殿、今日はどうしたんだね?」


「ええ、今回はちょっとした対策を立ててきましてね」


「対策?」


 ロスガノスはかなり驚いている。

 まあそれはそうだろう。あの海竜への対策を一晩で立てるなんて普通だったらありえない。

 俺自身もたまたま海竜と戦えそうなゴングがあったからこそ、こうして再び対峙する気になったのだから。


「ええ、いまお見せします」


 俺は桟橋の方へ歩いてく。

 ロスガノスも俺が何を見せるのか、興味深そうにあとを付いてきた。



 桟橋の先端までやってくると俺はカバンからゴングを取り出す。


「それは?」


 ロスガノスが訝しげに覗き込んできた。


「これが今回の切り札です」


 それを聞いたロスガノスは呆れ顔だが仕方ない。切り札と言って取り出したのが人形では。


「ニゴル!」


 俺は呪文を唱えると同時に、ゴングを湖に向けて力いっぱい投げる。

 飛んでいったゴングは空中で光を放ち、みるみるうちに身長18メートルの巨人に変化して着水する。


 その光景を見た人々は皆感嘆の声を上げるが、それもつかの間直後にゴングの着水により発生した大波をかぶって悲鳴を上げる。


 桟橋に居た俺とロスガノスももちろん無事では済まなかったのだが、大波に流されまいと桟橋にしがみつくロスガノスを尻目に、いつか見た掛け声とともに投げると巨大化して敵と戦う正義の巨大ロボを再現した興奮ですっかり舞い上がっていた。



「あれは一体何だ!?」


 ずぶ濡れになったロスガノスの問に俺は答える。


「言ったでしょう、切り札だって!彼は俺の新しい従者、ゴングです」


「従者だと!?あの巨人が!?」


 その背後では人々がゴングを指差し口々に何かを叫んでいる。

 ゴングがコックピットに導くために差し出した手のひらに登りながら、俺は振り返ってロスガノスにいう。


「俺はこれからゴングと一緒に海竜に挑みます。今度はうまくいくように祈っててください!」


 だがロスガノスは立ち上がって言った。


「待ちたまえ、貴殿はこれで海竜と戦うというのか?……ならば私も連れて行ってはくれないか?」


「なんですって?」


「貴殿にアドバイスできることもあるやもしれん。それに今後のこともある」


「今後?」


「貴殿がこの巨人で海竜を退けたとしても、今後もまた同じことがあったとき、貴殿がいないで対処できないとは行かないのだ。一緒に行って戦いを見せてもらいたい」


 なるほどたしかに。だけどゴングの戦い方が参考になるだろうか?

 一方でアドバイスはほしいと思う。俺には海竜に関する知識がないから、もしかしたら役に立つ情報があるかもしれない。


「わかりました、一緒に来てくれますか?」


 俺が手を差し出しロスガノスがそれを掴む。

 ロスガノスをゴングの手のひらに引っ張り上げると俺はゴングにコックピットまで運ぶように合図した。




「アルテミス、ヒューイ、聞こえるかい?首尾はどう?」


 コックピットのシートに着いた俺はゴングに無線でヒューイを呼び出してもらう。


「モデーラ様、よく聞こえます。現在海竜を追跡中。位置は湖の南側河口付近です」


「海竜のやつ、よほど腹を減らしていると見える。近づいたら食いつこうとジャンプしやがった。必要ならモデーラさんのところまで誘導するが、どうするね?」


 アルテミスもヒューイもうまくやってくれているようだ。


「いや、そのままでいい。街から距離があるなら好都合だ。そのまま監視を続けてくれ」


「了解」


 通信を終了する。

 今度は俺たちの番だな。


「今のは?」


「アルテミスとヒューイも俺の従者です。彼らは先に行って海竜を偵察しています」


「ヒューイ……ああ、あの空を飛ぶ従者か!」


「そうです。ゴング、ヒューイの位置はわかるかい?」


「もちろんであります、モデーラ様。そこまで行けば良いのですかな?」


「頼む。海竜がいるはずだからすぐに戦闘になるかもしれない。気をつけて接近して」


「御意」


 ゴングが水中に潜って加速を開始する。


 湖の水は50メートル先も十分見通せる透明度の高さだ。周辺には様々な種類の魚が生息しているのが見える。


「ここは良い漁場なんですね」


「ああそうだ。湖は運送の要だが、同時に大事な食糧源でもある。ここには多くの漁師もいるんだ」


 ロスガノスは厳しい表情をして続けた。


「海竜を一刻も早く排除しなければ、多くの人々の生活が危うくなる」


 その言葉に俺は改めて彼らの背負っているものの大きさを感じた。



「モデーラ様、ヒューイを捉えました」


「よしゴング、ソナー起動。ヤツを探そう」


「御意」


 わずかなタイムラグの後、音響反射による情報が映像化されカメラの映像に重ね合わせて表示される。


「モデーラ様。左舷十二度に巨大な物体を捉えましたぞ。おそらくあれが海竜でしょう」


 その物体がモニター上ですぐに赤枠に囲まれてマークされる。


「モデーラさんよ!奴の動きが変わった!そっちへ進路を変えたぜ!」


 無線通信でヒューイが叫ぶ。ソナーに反応したんだろうか。

 ほとんど同時に外部の集音マイクが捉えた甲高い音がコックピットに響く。


「これはなんの音だ?」


 俺の問いにロスガノスが答える。


「海竜の咆哮です。奴は攻撃するときは必ず咆哮をあげるのです」


 なるほと、もしかしたら奴もソナーを使うのかもしれない。


「ゴング、奴の咆哮を録音してランダムに送り返してやれ」


「御意」


「何をするのですか?」


「海竜はあの咆哮の反射で獲物を捉えるんでしょう。なので同じ音で目くらましをかけるんです」


「なるほど……」


 モニター上の海竜は周囲を見失い湖底に接触した。


「海竜の迷走を確認。モデーラ様の策は有効ですぞ」


「よしゴング、接近しよう」


「御意」


 推進器がうなりをあげ、ゴングは急加速する。

 遠くにぼんやりと見えていた海竜の影が、接近するにつれ次第にはっきり見えてくる。


「あれが海竜……」


 水中で視界内に入った海竜は足の代わりに大きな4枚のヒレを持ち、長い尻尾をくねらせて泳ぐ巨大なトカゲのような姿をしていた。

 ただしその巨大さは全長80メートルというただ事ではない代物だ。

 しかもヤツはライフル銃の銃弾程度なら弾く頑丈な鱗に覆われている。


「狙うならば、腹側でしょう。そちらならばいくらかは鱗も薄く隙間も多いはずです」




「なるほど。ゴング、海竜の腹側へ回り込めるか?」


「御意」


 ゴングは湖底にぶつかって混乱している海竜に接近する。

 いくらゴングが巨大でも、海竜の全長はその四倍はある。


「交渉できそうな相手だったら良かったのにな」


「海竜相手にですか?」


 ロスガノスは不思議そうな顔をしている。


「そもそも海竜が河川を登ってくる理由はなんです?」


「わかりません。餌を追いかけてか、仲間が迷い込んだのか、単に居心地が良い場所を探してか」


「モデーラ様、攻撃を開始いたしますぞ」


 やっぱり殺したくないな。

 現代日本での生活は考えてみれば何かの死に立ち会う機会が極端に少ない。

 蚊やらハエやらの害虫を殺すことはあるが、これほど巨大な生物となると、つい色々考えてしまう。

 殺さないで決着ができればその方が良いと思える。


「待て、ゴング。海竜を引っ張って、川を降らせることはできるか?」


「そんな無茶な!?」


 ロスガノスは声を上げた。


「ご命令とあらば」


 ゴングは海竜の腹側からヒレに腕で組みついて、引っ張り始める。


「やれるか?」


 海竜を引っ張り河口へ向きを変え始める。


「これはすごい……あなたの従者はこんなことまでできるのですか!?」


 うまくいきそうなこの状況に俺も胸をなでおろす。


「だから言ったでしょう、切り札だって!」


 ロスガノスと俺は互いに声をあげて笑う。


 だがそのとき突然ゴングが大きく振動した。


「ゴング、どうした?!」


「海竜が目を覚ましたようです。暴れ始めました」


「抑え込めるか?」


「申し訳ありません。難しいかと……おつかまりください、湖底に叩き付けられます」


 ゴングの推進器が最大出力で唸りを上げ、海竜に振り回される勢いを殺すが、湖底に堆積した土や岩を砕く音がコックピットに響いた。


「ロスガノスさん、大丈夫ですか?」


「あ、ああ。なんとか」


「ゴングは?」


「御心配には及びません」


「さすがゴングだ……海竜はどこに行った?」


「街の方角へ泳ぎ始めました」


「妨害は効いているのか?」


「そのはずです」


 ソナー映像に写った海竜は体をあちこちにぶつけながらも街を目指していた。


「モデーラ様、一つお知らせすることがあります」


「どうしたんだ?」


「やつが暴れだす直前、街の方角から聞こえた音があります」


 ゴングがその音を再生する。

 何かの動物の鳴き声のような?

 海竜の咆哮に似ているが、ずっとか細い感じだ。


 ロスガノスが考え込むような様子で言う。


「これは……海竜の子供の声かもしれません」


 なるほど、確かにそれっぽい。だけど……。


「じゃあまさか街にそれがいるってことですか!?」


「そんなはずはないと思いますが、誰かが密かに捕らえて持ち込んだのだとしたならば」


「あの海竜はそれを取り返しに来たのか!!」


 でもいったい誰がそんなことを。


「ゴング、浮上して海竜を追ってくれ。それとヒューイに通信を」


「御意」


 無線がつながるとヒューイの声ががすぐに飛び込んでくる。


「モデーラさんよ、海竜のやつがものすごい勢いで街に向かってるぜ!?あいつこんな速度が出せたのかよ!!」


「ヒューイ、アルテミス。街に海竜の子供がいるらしい。ゴング、声を」


 ゴングが録音した海竜の子供の声を無線で送る。


「この声を頼りに探してほしい、できるか?」


「お任せください、モデーラ様」


「よし、頼んだ。ゴング、やつを追い越せるか?」


「御意。飛びますのでお二人はしっかりおつかまりください」


 ブースターが点火され、コックピットの中の俺たちを加速の衝撃が襲うと同時にゴングは弾かれるように水面を離れた。

 ブースターは数秒後に停止してその後、ゴングは放物線を描いて飛んでいく。

 自由落下状態になったコックピット内ではロスガノスが無重力状態に翻弄されていた。


 ゴングのカメラが白い航跡を残して進む海竜を捉える。


「ゴング、やつの前方にビームを撃ち込んで針路を塞げ!」


「御意」


 ゴングの腹部にある二門のビーム砲から放たれたビームが海竜の前方の水面に着弾すると、その高熱が着弾地点とその周囲の水を一瞬で気化させ水蒸気爆発を起こす。


 爆発で大穴が開いた水面に周囲の水が流れ込むその手前で、衝撃に驚いた海竜が旋回しているのか見えた。


「こ、こんな力が……」


 空中を漂っているロスガノスは驚愕の声を上げる。


 ゴングは立ち上る水蒸気を突き抜けてそのまま落下し、海流の前方の水面に着水した。


 そのときヒューイから無線通信が入ってくる。


「ヒューーー!モデーラさん、ずいぶん派手にやったな!すっげぇビッグウェーブだ!まるで空でサーフィンしているみたいだったぜ!」


「すまないヒューイ、大丈夫だったか?」


「俺っちは問題なしさ!おかげでもう街の上だぜ!街の連中にもいい警報になったみたいだ。船着き場の連中が慌てて街の中に逃げ込んでるぜ!!」


「そうか、アルテミスは?」


「あいつならさっき元気に飛び降りたところさ!心配しなさんな、あんたに命令をもらってから、飛び出したくてうずうずしてたって感じだぜ」


 ああ、なんか目に浮かぶな。


「了解、じゃあまた後で。ゴング、もう一度海竜を取り押さえるんだ!アルテミスが何かを見つけてくれるまで、時間を稼ごう」


「御意」


 ゴングは潜行すると海竜に急接近して対峙する。

 何度見てもこの海竜はでかい。

 どれだけ食ったらこうなるんだろうね。


「組み付きます。暴れられるかもしれないので、衝撃に備えてください」


 海竜に接近したゴングは背中から首を抱きかかえるように海竜に組み付く。

 だがこれには海竜も黙ってはいない。全身をくねらせてもがき、逃れようとする。

 海竜が身悶えするたびに、コックピットの中の俺たちは振り回される、会話もまともにできなかった。

 やがてがっちり腕を固定したゴングはすべての推進器の全力で海竜を引っ張る。

 だが海竜も力負けしていなかった。力比べは一進一退を繰り返す。


「こ、こ、このままでは、ラチがあきません!一旦離れて体勢を立て直すべきでは!?」


 ロスガノスが振り回されながら叫んだ。気持ちはわかるけれど今放すともう一度組み付けるかどうか……。


「今放すわけには……!ゴ、ゴング!蹴りだ!」


「御意」


 頼むから動きを止めてくれ。街に行ってもらうわけにはいかないんだ。


 コックピットに伝わってきた強い衝撃から海竜にゴングの蹴りの一撃が入ったことを知る。

 コックピットの揺れが収まって海竜がひるんだことを感じるが、それも一瞬だった。

 次の瞬間には振り回すような動きがより激しくなって戻ってくる。


「モデーラ様」


「どうした、ゴング!?」


「しっかりおつかまりください。海竜を落とします」


 落とす?落とすっていったい?


 ゴングの言葉の意味を測りかねていると、突然ブースターが始動する。

 ブースターの振動の中、ゴングは海竜を抱えたまま浮上し始めた。


「ゴング、大丈夫なのか!?」


「ご心配なく」


 水面まで出たゴングはなおも上昇を続け、海竜を水の中から引きずり出した。

 海竜は暴れ続けたが、水という足場を失った以上ヒレも尻尾も虚しく空を切るばかりだ。


 そしてコックピットの高度計が200メートルを超えた辺りで水平回転を加えて、勢いよく海竜を放り出す。

 海竜は落下を開始したが、同時にゴングも落下を始める。


「おいおいおい、これはまずいんじゃないのか!?」


「問題ありません、もデーラ様」


 着水手前でゴングはブースターを再始動して制動をかけたが、海竜の方は成す術なく水面に叩きつけられた。


 水面に浮かんでいる海竜に近づいてみると、どうやら水面に叩きつけられた衝撃で気絶しているようだった。


「なんとかおとなしくさせることができましたな」


「しかしこいつをこれからどうしたもんだか」


 そこへヒューイからの無線が入る。


「よう、モデーラさんよ。良いのと悪いのと、ニュースが2つあるぜ。どっちを聞きたい?」


「じゃあ……まずは良い方から頼む」


「オーケー、オレっちは今あんたのところへ向かっている最中だが、でかいお土産があるぜ」


「海竜の子供はいたのか!?」


「その通り!かわいそうなお子様を檻ごと救出したところだ。泣き虫だが、元気だぜ!」


「そうか」


 引き合わせてやったら、おとなしく海へ帰ってくれるだろうか?


「海竜の親が目覚める前に河口まで運んでしまいましょう。そこで子供が近くにいれば、もはや湖にとどまることはないでしょうから」


 ロスガノスの提案はうまくいくだろう。

 俺はゴングに海竜の親を湖の河口まで運んでもらうことにした。


「それで……悪い方は?」


 ヒューイに変わって今度はアルテミスが無線に出た。


「黒幕はリポルタでした」


 それはまた突然な話だな。


「それは……一体なぜ?」


「どうやらこの海竜はリポルタによる海運潰しの道具だったようなのです」


 リポルタが?

 一体どういうことだろう……。




 << つづく >>

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