イナーサの街篇

海から来たもの

「モデーラさんよ、川が見えるぜ」


 森林地帯の上空を飛行中にヒューイのいつもの陽気な声がヘッドセットから聞こえる。


 隣に座るアルテミスもそれを認めて言う。


「イナーサの街は湖のほとりにあると聞きました。これを辿っていけばつけるのではないでしょうか」


「そうだね、それが確実そうだ」


「了解、川を辿るぜ」


 すぐさまヒューイは進路を川に平行に合わせる。


 キュランナの村を飛び立ってから15分ほど。

 晴天に恵まれ旅は快調に進んでいる。


「しかし人の姿が全然ないなあ」


 眼下に見えるのはほとんど未開の地といった景色ばかりで家の一軒どころか道らしい道も見えない。


 本当に街なんてあるのか?

 さすがに少し不安になってくる。

 まさか村長に騙されたとは思わないけれど、もしかしてこの世界の街は俺の想像しているものとは全く異なるのかもしれない?


「あれは人のようですね」


 俺が頭を抱えていると突然アルテミスが前方を指し示した。

 その先には確かに人影と思しきものが三体、川沿いを歩いているのが見えたが、ヒューイの速度では一瞬で通り過ぎてしまった。


「どうする?戻って道を聞いてみるかい?」


「そうだね、引き返してあの人影の近くに着陸を……」


 そこへアルテミスが割り込んでくる。


「モデーラ様、ヒューイが上空まで行ったら着陸を待つより、そこで私がモデーラ様を抱きかかえて飛び降りる方が早いと思うのですが、いかがでしょうか!?」


「お、おう」


 すごく怖い提案をしてきたけど、アルテミスの目はキラキラしていて、無下には断りにくい……。


「大丈夫なの?」


「はい!モデーラ様には絶対危険はございません!」


「そ、そう……じゃあ、お願いしようかな?」


「はい!」


 ああ、いい笑顔だ……。


「俺っちはどうしたらいい?」


 続いてヒューイが指示を求めてきた。


「念のため上空を旋回して警戒を。手を振って合図したら降りてきて」


「了解!」


「じゃあ、行ってくる」


 俺とアルテミスはコックピットから後部のキャビンに移る。

 アルテミスが側面ドアを開けて片手と脚で踏ん張るように背面を乗り出すと、俺を片腕で抱きかかえた。

 背中にたゆんたゆんなクッションが当たっているのがはっきりわかる。


「では行きますよ!」


 アルテミスは得意げに言うと、勢いよく飛び出した。

 どうもアルテミスは高いところに登ったり飛び降りたりするのが好きな気がする……。

 って!

 だからって!

 背面宙返りまで加える必要はないだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!



 着地は無事だった。

 無事だったんだけど、世界が一回転した俺はしばらくは立ち上がれそうもない。


「も、申し訳ありません、モデーラ様!」


 アルテミスは俺の状態を見てオロオロしている。


「だ、大丈夫だから、少し休ませて……」


 次からはNOと言えるモデーラになろう、そうしよう。



 地面を歩いていた人影のうち人間は一人であとの二体は背負子を背負って大荷物を担いだ木製の人型従者だった。


「あ、あんたたち、何者さ!?」


 声からして女性のようだ。

 俺たちの突然の登場に驚いて座り込んでいた彼女は慌てふためき問いただしてきた。

 背はそれほどくはなく、全身を頭から覆うローブを着込んでいるため顔はよくわからない。

 ただローブの裾から覗く手足はがっちりとした手袋と靴で固められ、長旅を続けているのが伺えた。


「驚かせてすみません。我々は……えーっと……怪しい者ではありません」


 怪しい者ではない、と自分で言っておいて何か妙な気分になる。本物の怪しいやつは自分を怪しい者だとは言わないだろう。


「こちらに座すは偉大なるモデーラ様です!」


 アルテミスがまたもやドヤって俺を紹介する。


「実は道を尋ねたく思いまして」


「み、道?」


「ええそうです。この近くにイナーサという街があると聞いたのですが、ご存知ないでしょうか?」


「イナーサなら、この川に沿って三日も下ればあるけど……」


 訝しみながら彼女は答えた。


「なるほど、ありがとうございます!」


 つまり俺たちは正しい道を進んでいたってことだ。

 俺は早速ヒューイに向かって手を振り、彼を呼び寄せた。


 降りてきたヒューイを見て、座り込んだ彼女が再び尋ねる。


「ありゃ一体なんだ!?」


 これはとても説明しにくい。

 この世界でヘリコプターを見たことがあるものがどれほどいるだろうか。


「えーと……あれは空を飛ぶ乗り物で、俺の従者です。名前はヒューイ」


「従者?あれが?」


「ええ、まあ」


「でも、人の形をしていないじゃないか!」


 従者は皆人間の形をしているという認識なのか。


「ええ。従者は人の形をしていなければいけないわけではないようです」


「そ、そうか……なあ、あんた。そいつは脚は速いのか?」


「え?ええ、まあ……」


「あたしはペンメルって言うんだ。荷運びをやってる」


「荷運び?」


「あんた荷運びを知らないのか?人里離れた村や町を結んで荷物を運ぶ仕事だよ」


 なるほど、宅配便みたいなものか。


「山羊の脚のペンメルって、結構有名なんだぜ?どんな山も谷も超えて荷を運ぶってな」


「なるほど」


「で……だ。ものは相談なんだが……」


 あ、だいたい察しはつくな、これ。


「あんたの従者に乗せてくれないか?」


 まあそうだよね。


「それは構わないけれど……健脚が売りなんじゃないの?」


 ペンメルはフード越しにバツが悪そうに頭を掻いた。


「ま、そうなんだがね。今回はちょっとばかり事情があってさ。イナーサまでの道案内はするし、多くはないが礼もできる」


「法や倫理的に危うい話じゃないですよね」


「それはない。保証するよ。なに、ちょっとした賭けをしていると思ってくれよ。早くゴールすれば、それだけ賞金が出るって訳さ」


「なるほどね」


「どうだい?頼むよ」


「まあ……いいですよ。あなたの従者や荷物も載せるぐらいの余裕はあるし」


「そうか!ありがとうな!」


 ペンメルは言うが早いか従者の荷物をヒューイに載せ始めた。

 荷物をキャビンに固定し終わると、ペンメルと従者も乗り込む。


 そこへアルテミスがやってきた。


「モデーラ様、差し支えなければ私はキャビンに乗ろうかと思います」


「どうしたんだいアルテミス?」


 アルテミスは小声で言う。


「念のためです。あの者たちが信頼できるとは限りませんから」


 なるほど、確かに少しは気をつけたほうが良いかもしれない。


「わかったアルテミス。お願いするよ」


「かしこまりました、モデーラ様」


 俺はコックピットに、アルテミスはキャビンでペンメルと向かい合わせに座った。


 アルテミスがペンメルにヘッドセットをつけてやると、早速陽気なヘリコプターがまくし立てる。


「ようお客さん、初めまして。俺っちはヒューイ。人呼んで風のヒューイだ」


 だから呼んでないってば。


「あーあー。本日はご利用ありがとうございます。当機は間も無く離陸しますので、座席についてベルトをしっかりお締めください、ってな」


「なんだ今の声は!誰だ!?」


 ペンメルはヒューイの姿なき声に腰を浮かせるほど驚いている。


「今のがヒューイです。さっき話した俺の従者ですよ」


 俺は振り返ってペンメルに説明した。


「従者が喋るなんて、聞いたこともないぞ!?」


「ハッハー!そりゃ俺っちらが特別だからさ!何と言っても我等がモデーラ様の手による逸品なんだからな!」


「なんてこった、あちこち渡り歩いて大抵のものは見た気でいたけど……待てよ!今、俺っちらとか言ったか?てことは他にもいるのか!?」


「ええ、目の前に」


 今度はアルテミスが得意げに話し始めた。


「なんだって?一体どこに?」


「私でございます、ペンメル様。私こそ我が偉大なるモデーラ様の第一の従者、狩の女神の名を戴いたアルテミスにございます」


「……へ?あんたが従者?おいおい冗談きついぜ。あんたはどう見ても人間じゃないか」


「皆様そうおっしゃいますが、それも我が偉大なるモデーラ様のなせる技にございます」


 そこへヒューイがしびれを切らして割り込んだ。


「あー、そろそろ俺っちは飛びたくてうずうずしてるんだが、構わないか?」


「あ、ああ悪かったね。こっちはいつでもいいよ」


「それじゃ、行きますかね!」


 ヒューイのガスタービンエンジンが甲高い金属音とともに出力を上げると、機体が突然ふわりと浮き上がる。


「な、な、な!?」


 キャビンではペンメルがその浮遊感に慌てふためいていた。


「ペンメル様、落ち着いてください。こう見えてヒューイは安全な乗り物ですから」


 アルテミスが嗜めた。

 それにヒューイがつっこむ。


「こう見えては余計だろ?」


「ペンメルさん、椅子に座って窓の外を眺めててください。初めてだと酔うかもしれない」


「わ、わ、わ、わかった」


 ヒューイは森の木々に視界を遮られない程度まで高度を上げると川の下流に向かって進み始める。


「ペンメルさんよ、道案内は大丈夫かい?」


「あ、ああ。もちろんだ」


「それじゃ、このまま行って構わないな?」


「ああ、問題ない」


「了解、じゃあ行くぜ!」


 ヒューイはそう言うと機体をぐっと前傾させて一気に速度を上げた。


「う、あああああ!?」


 ペンメルはその加速感にまた少しパニック気味になっていた。




 30分ほどの飛行ののち、前方に細く立ち上る煙が多数見えてくる。


「ペンメルさん、あれじゃないですか?」


 俺は前方に立ち上る煙を指差す。


「どれどれ?ああ、あれだ。間違いない。間違いないが……」


「どうしたんですか?」


「あたしたちが乗った位置からならまだ三日はかかったはずなのに……」


「ハッハー!風のヒューイの二つ名は伊達じゃないのさ!」


 ヒューイはすっかり得意になっていた。



 イナーサの街を一望できる距離まで近づく。


 向こう岸がはるか彼方に見える雄大な湖に面したその街は、頑丈そうな壁に囲まれ、壁の内側には数百の建物が建ち並ぶ巨大な街だ。

 建物はそのどれもが様々に彩られた三から四階建てでキュランナの村の木造平屋建ての家が粗末に思えるものばかりだった。

 ただそれらはいずれもずいぶん古風な建築様式で、ヨーロッパの街並みを思わせる普段は見慣れないものだ。


 また、その中にはいくつか他と比べて極端に広い敷地や大きな建物を持つものもある。

 行政府や寺院、学校、あるいは金持ちの屋敷といったところだろうか。


 そしてその間の道を人々と従者が絶えず行き来しているのが見える。

 活気に満ちた大都市といった感じだ。

 それは湖に面した船着場にも現れていた。

 多数の桟橋を擁する船着場は行き交う人々でごった返していた。


「何か様子がおかしいな?」


 ペルメルが何かに気づいて呟いた。


「何がです?」


「あそこを見ろよ。小舟がやたらに出ている」


 ペンメルの指差す方では確かに一本マストの小舟が十数艘、桟橋を離れたところだった。


「貨物にしては小さいし、漁船なのでは?」


「だとしたら変だろ。あんなに人が乗ってちゃ、獲物が載せられない」


 確かに小舟にはそれぞれ十人ほどの人が乗っていて、それでほとんど積載量はいっぱいになっているようだ。

 しかもどうやら乗り組んでいる連中は槍や弓で武装しているらしい。


「戦争でもしてるんですかね?」


「こんな辺鄙な湖で?まさか」


 小舟たちが向かう先には、同様の十数艘の小舟からなる先発隊と思われる船団が、湖の中央で大きな円陣を組んでいた。


「あっちに何かあるんですか?」


 俺がそう言った瞬間、円陣を組んだ船団の一角の水面が盛り上がった。


「あれを見ろ!」


 盛り上がった水面から何艘かの小舟が滑り落ち、巨大な生物が飛び出した!

 水しぶきでシルエットしかわからないが、その大きさはそこにいる小舟の十倍はありそうだ。

 小舟のサイズを考えると……全長八十メートルはある!?とんでもない大きさだな。


「あれは……鯨?いや違う。一体なんだ?」


「ありゃ海竜だな……。たまに海から川を遡ってくることがあると聞くが、あんなにでかいのは聞いたことがない!」


 海竜。この世界にはそんなのがいるのか。

 湖面から大きくジャンプした海竜は小舟たちを一蹴し、そればかりか着水の衝撃で大波を起こした。


「これはかなりまずいんじゃないですか?」


「ああ、海竜は気性が激しいらしいからな。あたしは話に聞いただけだけど、ボート程度なら人も一緒に丸呑みするらしいぜ」


「それじゃ助けないと。ヒューイ、降下して……」


「おいおいモデーラさん、俺っちじゃああの人数は運べないぜ?」


「でも……」


「モデーラ様、救助の時間を稼ぐために牽制攻撃を行うのが良いかと思います」


 確かにそうだ。


「よし、その手で行こう」


 ヒューイが海竜の上空を旋回しアルテミスも射撃体勢に入る。


「なあ、あたしにも何かできないか?」


 ペンメルが申し出るが、ここでできることはないだろう。


「振り落とされないように捕まっててください。ヒューイ、スピーカーを使いたい」


「オーケイ、いつでもどうぞ」


 コックピットのマイクを通じて俺の声がヒューイの外部スピーカーから響き渡る。


「俺たちが救助の時間を稼ぐから、全員脱出しろ!」


 一方でヒューイとアルテミスはそれぞれ射撃を開始した。

 だけど……。


「こりゃマズイ。モデーラさんよ、あいつの鱗は鉄よりも硬いらしいぜ!あいつとやりあうには戦車がいる!」


 海竜に着弾した弾丸が火花を散らして弾かれているのが俺にも見えた。


「アルテミス!目や口や、関節でもいい。弱点になりそうなところは狙えないか?」


「申し訳ありません。大半が水中ですし、やつの立てる波が壁になって狙撃するタイミングが取れません」


 なんてこった、対潜装備がいるな。


「仕方ない。とにかく攻撃を続けてこっちに引きつけるんだ!」




 攻撃は決め手を欠いたまま十分近くに及んだ。

 だがダメージにこそなっていないようだが、海竜を挑発しこちらに注意を向けさせるには十分だったようだ。


「海竜は後ろにぴったりくっついています」


「俺っちの方が足はずっと速いから追いつかれることはないが、それよりモデーラさんよ!」


「どうしたヒューイ?」


「弾が残り少ない!」


 そういえばさっきから景気良く撃っているけれど、残弾のことを考えていなかった。


「補給はどうなるんだ?」


「モデーラ様、弾薬は大気中のマナさえあれば生成できますが、時間がかかります」


「生成できるなら、特別強力な弾丸とかは作れないのか?」


「申し訳ありませんがそれは無理です」


 アルテミスが珍しく否定的な返答をしてきた。


「なぜ?」


「モデーラ様がそのように私たちを作っていないからです」


 答えたのはアルテミスだ。


 そのように作られた限り、そのように事をなす。ならば逆も然り。

 つまり俺のイメージの限界ってことか。


「わかった、射撃中止だ。残りの弾丸は今は温存しよう。海竜はまだ後ろにいるな?」


「ああ、ぴったりくっついているぜ」


「ならなるべく船団や街から遠ざけてやろう。奴が他に行かないように奴の鼻先を飛んで挑発してやれ」


「了解、ちょっとばかし揺れるぜ!」


 ヒューイは海竜の鼻先をかすめて飛び、海竜はその度に食いつこうとジャンプを繰り返す。


 それにしてもこれだけ引っ張り回しているのに、海竜の動きは鈍る気配を見せない。

 海竜の蹴立てる水しぶきでヒューイの機内まで水が入り込んでくる。


「奴の体力は底なしなのか」


 その時窓から外を見ていたペンメルが言った。


「湖に出てた連中はみんな引き上げたようだ!」


 その知らせに俺は胸をなでおろす。


「よかった。ヒューイ、海竜を振り切って一旦街に退避しよう」


「了解!」


 ヒューイは海竜の追跡を振り切るため街の対岸の上空へ一旦逃れる。


 さすがの巨大海竜も、陸までは追っては来れなかった。

 俺たちは湖を迂回してイナーサの街へ向かった。




 イナーサの街へたどり着くと船着場に人だかりができていた。

 ヒューイに向かって手を振る人の姿も見える。


「どうやら歓迎されてるみたいですね。さて、どこか降りられそうな場所を探さないと」


「ああ、それなら荷揚げ場のあの辺りが空いているようだ」


 ペンメルが指差した辺りは様々な身物が積み上げられていたが、その一角が空いていて確かに着陸に十分な広さがありそうだ。


「ヒューイ、降りられそうかい?」


「もちろんさ。モデーラさんがいうならば、針の上にでも降りてみせるぜ!」


「よし、じゃあ頼むよ」


「任せときな!」


 ヒューイは荷揚げ場のスペースに狙いを定めると一気に降下する。

 下で作業していたガタイのいい労働者たちがヒューイの起こす風に煽られ、蜘蛛の子を散らすように物陰に走り込んだ。

 そんな中にヒューイは見事に着地を決める。


「見ただろ?自分でも惚れ惚れする完璧な着地だね」


「ああ、見事だったよ」


 俺たちがヒューイを降りると周りに人が集まってくる。

 その中から歩み出た男が俺たちに話しかけてきた。

 男はずぶ濡れで、鱗のような金属板を無数に組み合わせた鎧を身につけ、腰のベルトに大きなナイフを下げている。


「自分はイナーサの警備隊を率いているロスガノスだ。あんたたちが海竜を追い払ってくれたのか?」


 どうやらさっきの船団を率いていた人物といったところか。


「ええ、まあ」


「そうか。今回貴殿の力添えを得ることができたのは幸運だった。あれがなければ部隊は壊滅していただろう。感謝する」


「いえ、役に立てたのなら何よりです」


「しかし……これはなんだ?初めて見るのだが、空から攻撃を加えるなんて……」


 ロスガノスはヒューイを驚嘆しながら観察している。

 そこへヒューイが自己紹介を始めた。


「俺っちは人呼んで風のヒューイ様だ!そのモデーラ様の従者さ!」


「なに?これが従者?……というか、今のはこの従者が喋ったのか?」


 そろそろこのやり取りもテンプレになってきたな。


「それよりも海竜についてです。俺たちは奴を仕留めたわけではありません。一応振り切ってはいますけど、ヤツはまだ湖の中にいるはずです」


「ああ、やはりそうか……。わかった。すぐに二次攻撃隊を編成だ」


「え……待ってください!勝ち目はあるんですか?


「しかし手をこまねいているわけにもいくまい。奴がいる限りこの街から船を出せないし、入ってくる船も危険だ」


「しかし……」


「助けられたことには感謝しているが、我々もすべきことをしなければならないのでね……」


 そういうとロスガノスは背中を向けて去っていってしまう。


「あんた、気にするな。あれは多分ああいうやり方しかできない奴なのさ」


 引き止める言葉もなく見送る俺にペンメルが声をかける。

 ペンメルはヒューイから荷物を降ろし終えていた。


「とりあえずあたしは荷物を届けに行くよ。いや、助かったよ。おかげで予定がかなり前倒しにできた。礼もしたいし、ついてきてくれ」



<< つづく >>

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