一歩踏み出す

「従者を人間そっくりに作った話は幾つか聞き及んではおりますが、良い結果になった例は少ないようです」


 アミカとアルテミスが出発して手の空いた俺は、クルカ村長とモデーラの従者について話していた。


「どうなったんです?」


「ほとんどの場合、その元になった人間になり変わろうとすると聞いておりますな」


 それが事実ならアルテミスの言った「そのように作られた限り、そのように事をなす」というのが悪い方へ働いたということだろうか。


「それ故に従者を人に似せて作るのはあまり良くないとされております」


「なるほど……架空のキャラクターとして作るとかもダメですか?」


「架空のキャラクター?それはどういったものでしょう」


 さらに突っ込んで話を聞くと、どうやらこの辺りには映画やアニメはもちろん、漫画や小説と言った娯楽が全くと言って良いほどなく、架空のキャラクターという概念がそもそも存在しないらしい。


「例えばアルテミスは実在の人間をモデルにしていません。彼女は頭の中でその特徴や能力を考えて作り出したんです。その点ではアミカも同じですね」


「それはつまり新たな人格を作ることですな。であれば既存の人物と入れ替わろうとは思わないかもしれません」


「なるほど」


 確かにそう考えればアルテミスやアミカはセーフなのだろう。


「例えば家に対して呪文を使って精霊を宿らせた場合はどうなるんですか?」


「家には手足も付いておりませんから、精霊が宿ったのか確かめるすべもないのですが……そうですなぁ、扉の開け閉めをやってもらえるなら、盗人に入られる心配はなくなりそうですな」


 まあそうした発想が今までなかったのだろうから、不確かな答えになるのは当然か。


「ただ精霊を宿らせるにはいくつか条件があるようで、一人で作らねばならないというのもその一つとされております」


「一人で」


「ええ、しかしこれも曖昧な条件でしてな。材料の……例えば木材を森で切るのは木こりに任せても問題になったことはありませんし、それを材木に加工するのも職人任せでも問題はありませんから、思うに最終的な形をなす時に他人の手を借りなければ良いのではないかと思っております。そう考えた時、逆に果たして家を一人で形作れるかどうか」


「なるほど」


 確かにそうでなければ誰かが作ったものを勝手に従者にすることができてしまう。

 それにプラモデルを俺一人の力で作ったというのは無理がある話だ。

 パッケージや説明書は言うに及ばず、個々のパーツだって工場で成形されたもので、俺が作ったわけではない。製作者を一人に限定しなければいけないのだろう。

 フルスクラッチするにしても、素材は誰かが用意したものだし、たとえ材料を自前で確保しても、加工に必要な道具は誰が作ったのかということになる。


「じゃあ従者は精霊が宿って動き出すと言われたけれど、精霊というのは?」


「諸説ありますな。神官達はデール神が従者に込めるために作ったとしておりますし、学者達はもともと自然に存在する、万物に宿る魂の元となるものだと言っております」


 アルテミスはなんて言ってたっけ?

 顕現という言葉からすると、姿を現わす前から存在はしていたってことなんだろうか。


「後者だとすると、人間の魂も元は精霊ということになるのではないですか?」


「ええ、その通りです。なので精霊というものの正体については議論が絶えないのです」


「なるほど。ではデール神というのは?」


「神々の一つ、造形の神ですな。我々は精霊の宿った従者を通して日々その恩恵を受けているわけです」


「デール神以外に神様はいるんですか?」


「遥か昔には多数の神々がいてこの世界をお造りになったとされていますが、ある時その殆どは何処かへ去られたと言われております」


「なんでデール神だけ残ったんですかね」


「さて、それこそまさに神のみぞ知る、ですな」


 話しているうちになんとなく事情が飲み込めてきた。ここは俺のいた世界とはいろいろな法則が異なる異世界なのだろう。

 ただこれはあまり良いニュースではないなぁ。それはつまり帰る方法が見当もつかないということだから。



 その日は日が暮れてもアミカは戻ってこなかった。

 ただアルテミスも戻らないので、問題は起きていないと思っている。

 もしアミカが失敗したとしても、獣人をいともたやすく捕縛してみせたアルテミスなら脱出も容易いだろう。

 だったら事態が悪い方へ転んではいないと言えるはずだ。




 翌日は朝から村長の従者の改良に付き合うことになった。


「このようなやり方があったとは、思いもよりませなんだ」


 昨日のアミカの作成で使った木を骨組みにして粘土で覆う方法で、村長の従者の改良用に手を作るのは村長の発案だ。

 これがうまくいけば、村長の従者にもっと器用な手を与えられるだろう。




 村長が黙々と造形中





 村長はなかなかの凝り性と見えて、完成した手には爪や関節のしわまで木のヘラで刻まれていた。

 まさに人間の手だ。


「これなら細かい作業もさせられそうですね」


「ええ、我ながら良い出来だと思います。あとは従者に取り付けてやるだけですな」


 村長は自分の従者の前に立つと命じた。


「ロビー、地面に横になりなさい」


 村長の従者はその命令に従って納屋の地面に横たわる。

 続けて村長は従者の胸に手を当てて言った。


「ツオゴル」


 すると村長の従者は全ての関節から力が抜けて停止した。


「村長、今の……ツオゴルというのは?」


「ツオゴルは従者から一時的に精霊を切り離す呪文ですな。従者の修理などはこの状態で行います。ツオゴルを使わずに行うと修理した部分を精霊が従者の一部と認識しないのです。」


「ああ、なるほど」


 確かにそうでなければ従者が触れたものすべてに精霊が宿りかねないな。

 アルテミスやヒューイも動いたり喋っている状態で改造するのは、なんかまずい気はするし。


「修理が完了したなら、今度はニゴルの呪文で再び精霊と結びつけます。一度精霊と結びついた従者には別の精霊が結びつくことはないのでカン・セイットの呪文を使うことは……」


 村長がそこまで言って、さっきまで作っていた手が光を放ち始めたことに気がつく。


「ああっ、しまった……」


 輝きが収まると、勝手気ままに動き回る手がそこにいた。


「これは参りましたな……」


「すいません、俺が話しかけたりしなければ」


「いやいや、気にせんでください。私も迂闊でしたから」


 それにしてもこの手はどうしよう。そういえば昔こういうのが出てくる映画があったな。


「さて、こうなってしまっては仕方在りますまい。名を与えずしばらく放っておけば、やがて精霊も抜けましょう」


「そうなんですか?」


 村長の足元に擦り寄る手は、これもまた名前をもらえるのを待っているんだろうか。


「少しかわいそうな気もしますね」


「かわいそう?何故です。正しく作られなかった従者は正しく事を為せません。それは双方にとって不幸な事です」


 一方、村長にすり寄っている手は従者への取り付け用に手首から突き出した軸を尻尾のようにブンブン振って親愛の情を表していた。


「俺の従者達も動き出したのは偶然で……でも非常に役に立ってくれています。思った通りの出来でなかったから役に立たないというのは早計かと思うのです」


「モデーラ殿はこの手だけの従者でも何かの役に立つと?」


「可能性はあります。要は適材適所ということですから」


「適材適所……ふむ、そういう考えもありますかな」


 村長は膝を立ててしゃがむと足元の手に向かって言う。


「モデーラ殿の慈悲に感謝するのだぞ。お前の名前は……そうだな、左手だからヒダリとするか」


 するとヒダリは全身で喜びを表すように村長の足元を跳ね回った。


「こやつめ、踊っているようだ。……正直従者がこんなに感情を表すのを見るのは初めてです。今まで作った従者はどれもただ命令に従うばかりで、道具としてしか見ていなかった」


 俺は納屋に横たわっているロビーと呼ばれた村長の従者を見た。

 木でできた等身大の人形のようなそれは造形こそ単純だったけれど、長く使っていたのだろう、あちこちがすり減りいたるところに修理した跡があった。


「たとえ道具でも、長く使えば愛着もわくんじゃないですか?」


「確かにそういうこともありましょうな。さて、新しい手を作ってやらねば。ヒダリには粘土をこねるのを手伝ってもらおうか」


 村長は新しい手の制作に取り掛かった。




 再び村長が黙々と造形中。


 二度目となってコツをつかんだ村長の手際は鮮やかで迷いがない。

 ヒダリも村長をよく助けていた。

 そんな感じで村長が造形している間、俺はほとんどする事がなさそうだったので、少し村の様子を見てくることにした。




 村の周囲を一巡りしている途中でいくつか積まれた材木の山を見かけた。

 森の間近なこの村は木材を中心に生計を立てているのだろう。


 村の中央の広場では陽気なヘリコプターが翼を休めていた。


 俺はキャビンに腰掛ける。


「やあヒューイ、様子はどうだい」


「ようモデーラさん、獣人たちはあれから現れていないようだな。アミカもアルテミスも出て行ったきりだし、あいつら今頃何をしているのかね」


「そうだね……アミカがうまくやってくれればいいけど」


「どうする?ひとっ飛び行って、様子を見てくるかい?」


「いや、今はいいよ。下手に刺激したくはないから」


「あんたの考え、なんとなくはわかるぜ。アミカは言ってみりゃ、大使なんだろ?だが事がそう上手く運ぶかね」


「長老の話を聞く限り、瀬戸際ではあるけどまだ手遅れじゃないと思うんだ。俺はきっかけになれればそれでいいかなって。どちらにせよ、一朝一夕にとはいかない事だから、あとは双方の努力次第だと思う」


「まあ確かに、あんたとしてもいつまでもここに止まるわけにはいかないものな」


「そういう事だよ。だからヒューイ、君が必要になるのは事が動いた時……良い方でも悪い方でも……になる」


「了解。じゃあ俺っちは今しばらくここで甲羅干しだな。なに、退屈はしてないさ。こう見えて、村の子供たちには結構人気なんだぜ?」




 ヒューイと別れて村長宅の納屋に戻ったのは太陽が真上まで昇った頃だった。

 その頃には村長が両手を作り終わっていて、それを従者の腕の先に取り付けていた。


「やあ、お戻りになられましたな。こちらの作業ももうじきに終わります」


 村長は接続部分を粘土で覆って形を整えていく。

 手首のしわや腱の凹凸なども刻んでいるのを見るに、やっぱりこの人は凝り性なんだなぁ。


 やがて取り付け作業が終わり、いよいよ試してみるときがきた。


「ニゴル」


 村長がロビーの胸に手を当てて呪文を唱える。

 すると村長の従者が一瞬かすかに光を放ったように見えた。


「ロビー、起きなさい」


 村長の命令に従い立ち上がる従者。


 村長は従者の新しい手に確かめるように触れると、納屋に積んであった薪を一本持ってきて従者に差し出す。


「これを持ってみてくれ」


 すると従者は薪を手に取った。

 どうやら成功のようだ。


「ふむ、問題はないようですな」


「そうですね」


「他に何か試しておいたほうが良いことはありますかな?」


「うーん……卵でも持たせますか」


「卵?」


「古典的な器用さのテストというか……潰さずに持つ事ができれば、力加減もできているわけですから」


「なるほど、では鶏小屋から一つ取ってきますかな……」


 その時ヒダリが村長の足元でズボンの裾を引っ張り始めた。


「どうした、ヒダリよ?」


 ヒダリは村長の足元で何かを盛んにアピールしている。


「仕事をしたいのかも。卵を取って来させてみては」


「なるほど。ではヒダリよ、頼めるかな」


 するとヒダリは言うが早いか指を器用に使って走り去り、1分も経たない内に卵を一つ、親指と人差し指で挟んで器用に持って戻ってきた。


 なんかもう、テストとしては十分な気もする。

 村長の作った手は十分以上の能力を持っていそうだ。


「ではロビーよ、ヒダリから卵を受け取りなさい」


 ロビーはヒダリが器用に掲げあげた卵を摘み上げてみせる。それはもちろん潰れていない。


「これなら料理もさせられそうですな」


 村長もご満悦だ。




 そのあと村長は広場に村人たちを集めて、改良した従者のお披露目をした。


 俺はヒューイの傍でそれを見守っている。


 村長の従者は鉈で木を割って薪を作り、石を組んで炉を作り、薪に火をつけてその火でフライパンを熱して卵料理を作ってみせた。


 村人たちは驚嘆の声を上げ、村長はその作り方を教えるのでそれぞれの従者を連れてくるように言う。


 それぞれの家族ごとに一体ずつ、計8体の従者が広場に集まった。


 村の中にこれだけの従者があったことにも驚きだが、それらはどれも一つ一つ、大きさやバランスや各部の仕上げの具合が異なりなかなかに個性的だった。

 ただどれも基本的な構成は同じで、差異があるのは手作りゆえのようだ。


 村長によるとこの村での従者の使用目的は農作業の補助で、言ってみれば家畜と同じらしい。

 つまり畑を耕したり、広げるために障害物を取り除いたりするような、比較的単純な力仕事だ。

 だがそれも従者が十分に器用でなかったからで、新しい手があればもっと幅広い使い方ができるかもしれない。


 集まった村人たちは村長と俺の指導のもと、従者の改良を始める。


 夕暮れごろにはどの従者にも、器用な手がつけられていた。




 その夜は村長と俺でちょっとした祝賀パーティだった。


「いやはや、あの技術があれば従者に様々な仕事をさせられますな。これはいずれ村を大きく発展させますぞ」


 村長には村の未来が薔薇色に見えているんだろう。


「お役に立てて何よりです。俺にできることはこのぐらいですから」


「何をおっしゃる、モデーラ殿。ひとえに貴方様のお力あってこそですぞ」


 村長とともに祝杯をあげ、ひとしきり盛り上がってから俺は眠りについた。




 翌朝、村を歩いてみると村人たちが様々に従者を使っているのをみることができた。


 あるものは洗濯に、あるものは薪割りに。

 家の屋根を修理させているものもいたし、子守や畑の雑草取りをさせているものもいた。


 皆一様に従者の新しい能力を活用している。




 村人たちの様子を見た後、広場で甲羅干しをしているヒューイの元へ立ち寄る。


「モデーラさんよ、あの従者の改良はすごいな。俺っちも欲しくなったぜ」


「ああ、村長の発案だよ。みんな便利そうで何よりだ」


「そうだな。ただ……」


「どうしたんだ、ヒューイ」


 ヒューイが俺に耳打ちするように言った。


「コイツはちょっとばかり厄介なことになるかもしれないぜ」


「何のことさ?何を言っているんだ?」


「便利すぎる道具はいずれ戦争に使われる。あんたの世界の歴史もそうだったんじゃないのかい?」


「そんなまさか……」


「そうかね?むしろ連中があの襲撃の夜に従者を使って反撃しなかったほうが不思議なくらいさ。まあ心構えはしておいたほうがいいだろうし、そうなった時の手も考えておくにこしたことはないぜ」


 ヒューイの言葉に不安が募る。

 そしてその日の夕暮れ時に、数名の村人がある提案を携えて村長の家を訪れた。




「それは私一人では決められんよ……」


 村長は村人たちの提案に難色を示している。

 村人たちがした提案は、まさにヒューイの危惧したものそのものだった。


 従者を武装し獣人と戦わせる。

 必要ならばより多くの従者を作り軍隊を作る。

 そして獣人を攻め滅ぼし、森を人間のものとする。


 村長は慎重に事をすすめるべきだとして村人たちを抑えようとするが、村人たちはむしろその言葉に苛立ちをつのらせていった。


 このままではアミカがうまく事を運んでも台無しになりかねない。

 俺も村人たちに思いとどまるよう、説得しなければ。


「ちょっと待ってください!今、俺の従者たちが獣人達との交渉行っているんです!だからあいつらが帰ってくるまで待ってください!」


 だが興奮して頭に血が昇った村人たちは口々に叫んだ。


 獣人との交渉などできるわけがない。

 従者に戦わせれば、負けることはない。


 どこで間違ったんだろう?


「このままここを立ち去るって手もないわけじゃないぜ?」


 この村に初めて来たときのヒューイの言葉を思い出す。

 そもそも関わったことが間違いだった?


「みんな、聞いてくれ!」


 とにかく今は聞いてもらうまで、話し続けるしかない。

 俺に今できることは、それだけだ。


 その時、夕闇に包まれた村に獣人たちの遠吠えが響いた。


 にわかに家の外が騒がしくなる。

 だれかが村長の家の扉を激しく叩いた。


「村長!獣人です!獣人の群れが!」


 獣人たちが攻めてきた?アミカは失敗したのだろうか?

 俺は村長の家を飛び出した。




 村の外れ、材木置き場の向こうの森に獣人たちの群れはいた。

 満月の月明かりに照らし出された彼らの数は村人の倍以上はいる。


 材木の山を挟んで対峙する村人たちはそれぞれ武器になりそうなものを携えているばかりか、すでに2体の従者が斧を持って立っていた。


 緊張が高まっているのがわかる。

 誰かが間違えれば、 すぐにでも殺し合いが始まってしまいそうだ。


 そんな中、獣人の群れからただ一匹が歩み出てくる。

 その姿を見て俺は思わず走り出していた。


 歩み出た一匹も俺の姿を認めると、全力で駆け寄ってくる。


「モデーラさん、ボク、トモダチを連れてきたよ!」


 アミカは俺の周りを飛びつきそうな勢いで跳ね回る。

 すぐに俺の後ろを追いかけるように村長がやってきた。


「これは一体……」


「まずはアミカの話を聞いてみましょう」


 俺がアミカに話すように促すと、アミカは一生懸命この状況の説明を始める。


「サイショに獣人のコドモたちとトモダチになったの。それでオトナたちにも遊んでもらって、ニンゲンとのケンカのゲンインを聞いて、そしたらエラいヒトがニンゲンとハナシをしようっていって、それから……」


 偉い人が来ているのか。向こうから話し合いを望んでくれたのならこれは希望が持てるかもしれない。


「その偉い人はどこにいるの?」


「ちょっと待ってて。呼んでくるから!」


 アミカは群れに走っていき、一人の年老いた獣人の手を引いてきた。


「あれは向こうの長老ってところじゃないですかね」


「ふむ。では私が話をすべきですな」


 クルカ村長が腰を上げ、獣人の長老のもとへ出向くのを俺は見送った。


 と、突然そこへまるで空から降ってきたようにアルテミスが現れる。


「モデーラ様、ただいま戻りました」


「うわ、どこから現れた!?」


「あちらの……」


 とアルテミスは森の方を指差す。


「木の上から。夕刻ごろからアミカと獣人たちが移動を開始しましたので、援護のため追尾していました」


「そ、そうか。それでアミカはどうだったんだ?」


「はい、獣人の集落へ入り込むと、ずっと走り回って会う獣人に手当たり次第に話しかけていました」


 そうなんだ。

 なかなか怖いもの知らずだな。



 その日は真夜中までアミカの同時通訳を介して村長と獣人の長老の間で話し合いの席が持たれた。

 衝突の原因を話し、双方の非を認め謝罪することで手打ちとする。死者が出ていなかったのは幸いだった。

 それから互いに物々交換による取引について話し合い、相互に交流を持つことが決められた。

 交流があれば互いを知ることができ、そうなればやがては友達にもなれるかもしれない。

 当面は戦争を回避できるだろう。




 翌日の昼、村長たちに見送られながら俺たちは出発の準備をしていた。

 まあ準備といっても、村人からもらった糧食があるだけで、これといった荷物があるわけではない。


 村長の隣にはその従者であるロビーとヒダリ、それにアミカがいる。

 アミカはここに残すことにした。いずれはアミカなしでも対話できるようになるかもしれないが、今はまだ必要だろう。


「すいませんね、獣人との交渉ごとがこれからという時に」


「なに、本来すべて我々でやらねばならなかったことなのに、十分すぎるご助力を頂きました。アミカ殿のご助力があれば、きっとうまく行くでしょう」


「アミカ、ちゃんと獣人と人間の間を取り持つんだよ」


「ハイ、モデーラさん!ボクはたくさんトモダチを作るよ!」


「南東へ行けばイナーサという、湖のほとりの大きな街があります。かつて私がモデーラの技を学んだ地ですが、まずはそこへ行くのが良いでしょう」


「ありがとうございます」


「旅の安全をお祈りしておりますぞ」


「皆さんもお元気で」


 俺はヒューイに乗り込んだ。


「よしヒューイ、出発だ。進路は南東、イナーサの街へ」


「了解!」


 エンジン音が高まり、回転するローターが風を巻き起こす。


 人々が手を振って見送る中、ヒューイがふわりと舞い上がる。


 村の上空を一回旋回すると、ヒューイは一路南東へと進路をとった。



<< つづく >>

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