1話
辺りの景色が変わっていくことに気付いたアレオ。
現代で例えるなら、ビデオで見ている映画のシーンが早送りで巻き戻されている感覚。
そこは人込みが盛んな街中に彼はいた。
周りには出店があり、そこには日用品、果物類、魚介類、肉などがあった。
辺りにいる人々の服装を見てみると、アレオと同じくらいの身長の子は土や埃などで汚れている。
そんなワンピースのような脚まで隠れる長いシャツを着ている。
彼らは大人の隙間で走り回っている。
大人の女性は色とりどりのチャイナドレスの応用した服装、緑のフォーマルドレスを少し弄った服装……etc。
男性の上は主に革ジャン、とジーパンを着ている。
この光景をアレオはよく覚えている。
幼少期の頃に見た景色。
しかも、いつもアレオと死んだ彼の母親と買い物に一緒に行ったときのもの。
アレオは自分の手を見てみると、小さな手だった。
近くにあった売り物の大きな鏡を見てみると、幼少期の彼自身の姿であった。
少し丸みを帯びた顔、ぱっちりしている目、少し薄い唇、愛らしい見た目。
土埃や油などで汚れている白色のワンピースのような長いシャツを着ている彼。
そんな姿を見てアレオはあたふたし始めた。
その時――。
「アレオ~? どこ?」
その声に聞き覚えがあり彼は泣きそうになった。
声の主が彼の母親であるからだ。
声する方向を見てみると、そこには髪の毛を全体的に左に纏めている母親がいた。
三十代とは思えないほど綺麗で華やかである。
足まで隠れる赤色のジャンパースカートを穿いており、純白の手袋やカフスを付けている。
主に過去では一緒に寝てもらったことしかない。
彼女は母親なのにそれらしいことをしてくれなかった。
結局はアレオ自身が家事を覚えてよくやっていた。
母親が自らしていたのは買い物くらいであった。
彼女が持ってきたリボンバッグは彼が誕生日プレゼントで渡したもので、いつも大事にしてくれた。
その為、あまりアレオにとって母親は一緒にいてくれる存在としか思っていない。
それでもいなくなると名残惜しい。
いや、むしろ悲しかった。
その所為か、動けないでアレオは涙ぐんでいた。
「いたいた。もうなにしていたのよ。さぁ、買いたい物があるからまだ付き合ってね」
彼が本当に過去に戻ってきたのか確認しようと母親に質問しようとしても、その前に手を握られ引っ張られている。
その温もりは懐かしい。
未来では人を殺めたことがあるので、母親の温もりを忘れないようにと心に誓っていた。
それでも、その温もりは思い出す以上に温かった。
アレオは涙を見せないようにしてしばらく流していた。
これが夢じゃないといいなという期待を込めて強く握り返す。
しばらく過去の検証のことも忘れ、母親が発言していることも耳に入らなかった。
我に返ると、値段が高いオーダーメイドの服屋に着いていた。
慌てていると、この後に言われる店主の言葉を思い出していた。
『お! ミクサさん、今日もベッピンだね。今日はどんなお洋服を買いに来られたのです?』
初めにミクサにそう言って、アレオを見つめた後にこうも言った。
『アレオ君、君がいなくてお母さんは寂しがっていたよ。これからはあまり迷子にならないようにね』
店の中から店主が出てきた。
矢先、先程と同じ言葉を言った。
驚きながらアレオは頷くと、店にあちらこちらに歩きまわり魔族が攻めてきたときのために防御結界を張った。
母親であるミクサのところに戻ってきたアレオは服を着せられ、一種の人形遊びにされていた。
もし、ここが過去なら最小限の被害にしよう。
そう思ってアレオは結界を張ったが、誰が張ったのか人払いの結界が張ってあることに気付く。
首を傾げていると、頭を切り替えて頬を叩く。
後少しで魔族が襲撃してくるかもしれない。
ミクサが死んだ原因は木造の服屋は奴らが放った魔法の衝撃で倒壊。
その倒壊した建物の一部がミクサの脚に挟まる。
追撃してきた魔族の一人が店ごと焼き払おうとするが――。
ここからはよく思い出せないアレオ。
採寸するのが終わって解放されたアレオは首を捻っていた。
その時、ミクサが目に見えない魔法を使って結界を消したのを見てしまった。
この頃、魔法は人類にとって未知の存在であり使える代物ではなかった。
そんな非現実的であることを目の当たりにして、アレオは頭を抱えた。
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