日を向く太陽

@keikho

日を向く太陽

あたしは人間になりたい。


こんなにも何かを強く望んだことはない。


なぜなら、望むことを許されていると思っていなかったから。


だってあたしたちはただ生まれて、なにも思わず、考えず、切なく儚くひと時のその一瞬のために散っていくだけなのだから。


あたしは他のみんなよりも小さかった。


貧弱で、醜くて、誰かの目に留まることはないと思っていた。


周りのみんなが、こっちをみてとユラユラ揺れて、綺麗だねと言われクスクス照れくさそうに笑うなか、あたしはキラキラしたみんなの足元で、頭を垂れていた。


キレイだと言われたくて、褒められたくて生まれてきたのに、誰かの記憶の中に残りたくてめいいっぱい輝きたいのに、あたしにはそれさえも許されない。


だから、ただ消えていくのをジッと待っていた。


そんな時だった。


あなたはあたしを見つけてこう言った。


「かわいいね」


そう満面の笑顔であたしを見つめて言った。


それは、あたしの心に、世界に衝撃を与えた。


かわいいという言葉がこんなにもにあたしの心を揺さぶる。


ただただ嬉しくて、嬉しくて、涙が出た。


生まれてきてよかったと心から思った。


だから、あなたにもっと「かわいいね」と言って欲しくって、胸をはる。


あたしはここだよ、と揺れてみる。


めいいっぱい笑顔で明るくあなたを探す。


あたしを見つけるたびに増えていく、あなたからの「かわいい」をあたしは大事に大事にしまっている。


けれど、あたしの時間はもうないの。


周りのみんなが少しずつ、少しずつ消えていく。


ステキな笑顔で消えていく。


また会いましょう、と満足そうに消えていく。


それが運命だとはしりながら、あたしは必死で抗ってみる。


消えたくない。


それでも、醜くなっても、あたしはあなたの言葉が欲しい。


「かわいいね」


それだけであたしはまだ生きていける。


「もう夏も終わりだね」


強かった日差しが柔らかくなって、あたしはもうさよならが近いことを知る。


「また、来年。」


そう笑顔で呟いたあなたの言葉にあたしはゆっくり目を閉じる。


人間になりたい。


あなたのそばで笑っていたい。


それでも、あたしはあなたの言葉を胸に、またここで、これ以上ないほどの輝きであなたを迎えよう。


その時はまた言って。


「かわいいね」


ってそう言って。

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