書籍発売記念SS


「朝陽くん、今日がなんの日か知っていますか?」

「今日? ……9月30日ってなんかあったっけ?」


 朝陽が首を捻ると、冬華が後ろから何かを取り出す。


「これですよ、これ」


 そう言って、冬華は一冊の本を取り出した。


「『氷の令嬢の溶かし方(1)』。もしかして、前にあの人が言ってたやつか」


 思い出すのは数か月前、突然呼び出されたと思えば書籍化がなんちゃらとよくわからない説明をされた。 

 しかし、いざ形となって目の前にするといよいよ実感が湧いてくる。


(……めちゃくちゃ可愛いじゃん)


 書籍の表紙を飾るのはまさに今、目の前にいる少女だ。

 長い黒髪に端正な顔立ち、雪のように白い肌。こちらを覗くカラメル色の瞳は思わず惹き込まれてしまう魅力を持つ。


「この本に、私たちの日々が綴られているそうです」


 懐かしむように、冬華は口を開く。


「私が熱を出して、朝陽くんが看病してくれて。そのお礼に私が勉強を教えて。それで終わるはずだったのに……」

「俺がお節介を焼きすぎたと」

「そうですね。朝陽くんはとってもお節介でした」

 

 でも、と冬華は言葉を続ける。


「私はとても嬉しかったですよ」


 優しく微笑んだ冬華に、じんわりと心が熱くなる。

 朝陽はその熱に促されるように、思い出話に加わった。


「球技大会があって、一緒に飯食うようになって、それからクリスマスイブ。本当、色々あったな」

「ブローチ、大切にしてくださいね」

「もちろん。ずっと大事にするよ」


 今度は朝陽が微笑むと、冬華が少し頬を赤らめて目を逸らす。

 するとその横顔にかかる長い髪に、青い髪飾りが見て取れた。


「それ、やっぱ似合ってるよ」

「なっ……なんですかいきなり」

「急に言いたくなって」


 ますます顔を赤くした冬華がたまらずクッションで顔を隠す。

 

 これは今まで語られなかった物語だ。

 きっと口に出されると恥ずかしいのだろう。

 

 他にも、クリスマスの翌日に近くの公園で雪遊びをしたことなど。

 今までは朝陽と冬華、二人だけしか知らなかった時間が沢山ある。

 朝陽だけしか知り得なかった冬華の様々な表情だって沢山。


 それが書籍化にあたって、皆が共有することになるのだ。


(それはなんか……もやもやするな)


 そんな気持ちを隠しつつ、朝陽は冬華の隣に座る。


「みんなが読んでくれるといいな」

「そうですね……どうせならいっぱい売れてほしいです」


 どこかやけくそ気味の冬華は、顔を赤くしながら微笑んだ。



【後書き】

本日、9月30日に発売なりました『氷の令嬢の溶かし方』の記念SSです。


web版の読者様が書籍を買う割合は1割にも満たないと言われている中で、1万人の読者様に伝えたいです。

書籍版はweb版の読者様が100%楽しんでもらえると自負しております。


是非とも全国の書店、通販で購入して応援よろしくお願いします!

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