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夢を見ない時は見ないのに、見たくなくてもそれは唐突にやってくる。

はるかと久し振りにあってから、珍しく1週間あの夢を見なかった。

それはあたしにとっては喜ぶべきことなのかもしれない。

けれど、いつどのタイミングであの夢がやってくるのか、その先の見えない暗闇にいるような、どこかスッキリしなくって、ねっとりとした不安があたしにまとわりついて、毎日疲れている。

やっぱり、一度はるかが言うように夢占いにでもなんでも行ってみるしか方法はないのかもしれない。

さすがに、スピリチュアルなことを信じていないあたしでも、ここまでくると何かに呪われている気がして気持ち悪い。

ため息を吐いたあたしに、横で本を読んでいた看護師さんがこっちをみるのがわかった。

「先生、どうかいたんですか?最近なんか疲れてますよね?」

「わかります?」

「いや、いつもしないミスを先生最近してるし、隈もできてますよ。」

「うそ?クマ、できてます?」

「はい。顔色もつもより白くみえますし…。みんなで心配してたんですよ。何かあったんですか?」

「う〜ん…何かあったといえばあったんですけど…」

不思議そうな、心配そうな表情でしばらく看護師さんはあたしを見つめて、

「まあ、あんまり無理しないでください。具合悪ければ休んでもいいとおもいますよ。」

と言った。

「ありがとうございます。」

そう言って、あたしはまったくさっきから目に入ってこない雑誌の上に目線を落とした。

ここまでくるとやっぱりもう何かしなければ、現実の世界に支障がでている。

今日仕事が終わったらはるかに連絡しようと決めた。


バタバタと廊下が鳴る。

ザワザワと村がざわめく。

今日は曇天という空模様か。

大人たちは、不吉だとささやいていることを知っている。

なぜなら、いつもこの日は晴れているのが当たり前だから。

何かがあるんじゃないかと、恐れている。

それでいて、中止にするほどの勇気もない。

朝からいろんなものを持ってきて、気持ち悪い上目遣いで、私をうかがう大人たちの下衆で不自然な作り笑いの方がよっぽど怖い。

朝早くから禊と称して体を隅々まで清められた私は、家の奥のいつもは入ってはいけない部屋の中で、お祖母様と相対している。

窓がなくただでさえ薄暗い部屋のなかが、ろうそくの淡い光で余計に薄気味悪い。

そして、その光に映し出された年を重ねてもなお美貌を失わないお祖母様の顔が、この世のものには思えないほど白く無表情に輝いていた。

射すくめられているのがわかる。

大きなものが私の上に乗っているように、私はどうしても顔をあげられなくて、白装束に包まれた自分の膝をぎゅっと掴んだ。

「櫻子」

私の名前を、お祖母様がかすれた声で呼ぶ。

「お顔をあげなさい。」

凛として冷たいその声に、あげたくないと叫ぶ私の心と裏腹に、身体はゆっくりとお祖母様の命令に従った。

顔をあげた私の目の中に、お祖母様の感情のない視線が飛び込んでいて、顔を背けたかったけれど、金縛りにあったかのようい動けなかった。

「櫻子や、今日という日は、我が浦島家にとっても重要です。知っている通り、あなたは今日人魚となるのですから。」

人間として生を受けたのに、私は自分は人間だと思っているのに、人魚になると言われても片腹痛い。

スッと私の中のなにかが冷めていく。

この人も他の人と一緒だ。

何に怯えて、何を恐れて、こんな意味のないことを信じて、後ろ指をさされながら真面目に見えないものを守って人生を送っていくのか。

虚しくないのか。

空虚という無が私たちを包んだ。

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