第29話 翼の生えたライバル

 クリスマスでもないのに、赤い服を着ている女子がいた。


 未咲「はい、みんなちゅーもーく!

    未咲サンタから、とっておきの差し入れだよー!」

 四人「?」

 未咲「じゃーん! 鶏だんごだよ!」

 玲香「と、とり……?」

 未咲「そう、とり! 鍋の季節といったらこれ!

    美味しいよー、とびきり美味しいよー! お嬢さん、おひとついかが?」

 玲香「悪いけど、遠慮させていただくわ」

 未咲「そんな! なんで?!」

 玲香「なんでもよ。自分で考えてみることね」

 未咲「だってだって、絶対いるでしょ? こんなに寒いんだよ?

    お鍋とか食べたくなるでしょ? パーティーだってしたよね?」

 玲香「それは遠い過去の話でしょ。もうどれくらい経ったと思ってるの?

    親戚からあれこれもらってるから、そういうのは間に合ってるのよ」

 未咲「くそぉ……あげるタイミングが悪かった……」


 がくっと肩を落とす未咲。誰か代わりにもらってあげてほしい。

 こんなにも気合入れて差し上げるような代物でもない気がするけど。


 未咲「じ、滋養強壮とかにもいいって聞くし!

    そ、そう! 鶏だんごを食べたらたちまち背中から翼が生えるって!」

 玲香「聞いたことないわよ、苦しすぎ……だいいち誰がそんなこと信じる……」


 思い当たる人、ひとりくらいいたような……。


 春泉「ほぁぁ……」


 だめだ、気づくのが遅かったみたい。

 春泉は目をこれでもかというほど輝かせていて、もらう気満々らしい。

 ちょうどよかったのかもしれない。家族で分け合えば足りるはずだし。


 うみ「思いのほか早く片付いてよかったな。さて、自習でもすっかな」

 ロコ「あのうみちゃんが自習するなんて……珍しい……」


 なんか聞こえた気もするが、いまのあたしはなんだかやる気だ。

 まわりと差をつけるのにこの時間はうってつけだしな。学級一になってやるぞ。


 うみ「(ま、あたし含めて五人しかいねーけど)」


 ライバルが少ないぶん、さほど努力はしなくていいのかもしれないけど、

 ただやっぱり、どうしても気にかかる相手がいた。


 うみ「(どうしたって玲香だよな……あいつには敵う気がしねぇ……)」


 澄ました顔して高得点たたきだしやがるもんな、ほんと妬けるぜ。

 どれだけ努力しても、こいつにはどうやったって勝てない気がしてる。


 うみ「(あいつ見てっと、どうもそれこそ背中から羽根でも生えて……)」


 ふとそんな玲香を思い浮かべては、ひとり噴き出すという失態を犯す。


 うみ「(やべっ、ヘンなこと考えてるのがまわりにバレちまう……)」


 必死に笑いをこらえて、勉強にとりかかろうとする。でもだめだった。


 うみ「(ちくしょっ、玲香のやつめ……絶対にゆるさないからなっ……)」


 とうとうこらえきれなくなって、笑い声をもらしてしまった。


 うみ「(これも、あるいみ失禁みてぇなもんかもなっ……)」


 またひとりヘンなこと考えては、どこまでもとまらなくなるあたしだった。

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