第28話 天罰がくだり、その恨みが届くとき

 あたし、橘 美花。

 ちょっと聞いてよ! こないだ帰り道を歩いてたときなんだけどね……。


 美花「きゃっ!」

 女性「ごめんなさい、ぼーっとしてて……大丈夫?」


 自転車にぶつかられたの。それであたし、どうなったと思う?


 美花「やだっ、出ちゃう……」


 大股ひらきながらね、なさけなくいっぱいおもらししちゃったんだ!

 もちろん小さいほうだよ? そりゃ、液体のほうに決まってるじゃない!


 女性「えぇっ……? そんなに怖かった……の?」

 美花「そそそ、そんなわけない、でしょっ!」


 言いながらね、ぴゅーんって逃げ出しちゃった。

 そのときね、思わず未咲のこと思い出しちゃったんだ……。

 どうやら、人のことおもらしさせてる場合じゃなかったみたい。


 美花「くそぅ……この恨み、遠く離れた未咲んとこまで飛んじゃえー!」


 それでもなお、人のことを貶めずにはいられないあたしがいた。


 ♦


 未咲「んっ!」


 ぶるっと身体が大きく震える。下半身にずしーんとなにかが溜まるのを感じた。


 未咲「なに、これ……おしっこ、なんだろうけど、ちょっと、きついかも……」


 たまらず往来の真ん中でしゃがんでしまう。パンツが野ざらしになる。


 未咲「ふぅっ、ふっ……!」


 これまでに感じたことのない、とても強烈な尿意だった。

 冬をずっと過ごしているとはいえ、ここまでのはちょっと経験したことがない。

 まるで、誰かに呪われているみたいだった。


 未咲「こんなところでおもらししたら、誰かに見られちゃうかも……」


 唐突に訪れたそのとき。ふいに恥ずかしさがわたしを襲う。

 かろうじて玲香ちゃんにならまだ見られてもいいんだけどな……。


 未咲「最近のわたし、なんだかちょっとヘン……」


 おもらしって、こんなに恥ずかしかったっけ。

 教室のみんなの前だったら、そんなこと考えることだって少ないのに。


 未咲「そんなことより早くおしっこ……って、いやいや、やっぱりトイレで……」


 逡巡がとまらなくなって、どうにかなってしまいそうだった。

 考えているうちにもパンツには染みがついてしまって、大変なことになってる。


 未咲「ここはトイレじゃないのに……どうして何もできないの?!」


 ただしゃがんでいるだけで。和式のトイレがそこにあるわけでもないのに。

 両手をグーのようにするしかできなくて。がまんするのがせいいっぱいで。


 おもらし癖が治らない子どものようで、わたしの頭は沸騰寸前になってる。


 未咲「あれっ、どうしてだろう……ずっと、涙があふれてとまらないよ……」


 いままでおもらしとかしても、なんでもないようにふるまってたこのわたしが。

 いったい何が悲しくて、こんなことになっちゃってるんだろう。わからないよ。


 おしりをずっと揺らし続けながら我慢してたので、だんだん疲れてきた。

 ぺたんとそこにおろして、そこの温度が下がるのを許してみることにした。


 雪の白さは、そのまま冷たさを表していて、溶けるのを待っている。


 未咲「みんな、やっとわかったよ……おもらしするって、こんなに……」


 言い終える前に、液体がどっとあふれてきてとまらなくなった。

 それは顔にもよく表れていて、これまでの表情がうそみたいに消えていった。


 未咲「うぅっ……もう、なにもかもやめてしまいたいっ……」


 ひとしきり泣いたあと、ことの顛末をふもとから振り返る。


 未咲「……やっぱり、わたしはわたしかな」


 自分の二面性を、これでもかというほどかいま見た瞬間だった。

 終わってしまえば、案外けろっとしてしまえるものだったりする。


 未咲「やんなっちゃうよね、ほんとわたしって」


 泣き笑いをして、しゃんと立ち上がった。


 ♦


 美花「おっ、これはもういまごろすんごいことになってそうだね……」


 直感がさえてしかたがないあたしだった。

 今回のところはこれくらいにしておこう。

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