第22話 昔は弦を鳴らしてた

 教室でのふとした会話から、ロコちゃんの過去をはじめて知ることになる。


 うみ「そういえば、ロコって昔はバイオリンやってたんだよな?」

 ロコ「うん……あまり上達しなかったのと、

    楽譜に書いてある外国語どおりにできなくて続かなかったけど……」

 うみ「そうか……ちなみに何だったんだ?」

 ロコ「『locoローコ』」

 うみ「ほとんど自分の名前みたいじゃないか」

 ロコ「たしか『もとの高さで』、みたいな意味だったと思うんだけど……

    わたしの名前みたいなのに、その通りにできないって泣いちゃって」

 うみ「それはつらい……」

 ロコ「親にもいろいろ言われて……ずっとわんわん泣いてたの」

 未咲「つらかったね……いまつらかったら、わたしの胸で泣いていいよ?」

 ロコ「さすがにいまは、もう何年も経ったし大丈夫だよ~。

    機会があったら、またチャレンジしてみたいって思ってるから……」

 玲香「そのときには、ぜひ聴いてみたいものね」

 未咲「そうだねっ」


 なぜだかわからないけど、とにかく瑞穂がふてくされている。


 瑞穂「ぶ~……なんですかぁ、皆さんして楽しそうにおしゃべりなんか……」

 未咲「瑞穂ちゃんも気にしないで、会話に入ってくればいいのに……」

 うみ「あいつはヘンなところで遠慮がちだからなぁ……」


 転校生とはいえ、さすがに慣れてきてもおかしくない時期にきてるはず。

 なのに、どこか馴染めてないような感じが否めない。


 ……まぁ、最近あったあの出来事のせいで、ならわからなくもない。


 ロコ「オクターブすらわからなくて……わたし、音痴だったのかも~」

 うみ「ほんわか言ってるけど、それって結構大変なことのような……」


 音の高さが違えば、ぱっと聞いた印象が変わってしまいかねない。

 どうやらむかしのロコには、そのような才能はなかったらしい。

 もしいまもそうだったら、もしかすると一生うまくならないのかもしれない。

 努力次第だとは思うけど。


 玲香「機会があれば、わたしから直々じきじきに弦楽器を教えてあげてもいいわ」

 ロコ「それはいいかも~」

 うみ「その言い草、あんまり本気さを感じないな……ロコらしくていいけど」


 玲香はいちおうひととおり全般できるっぽいし、信頼はできる。

 問題はロコがその気になれるかどうか。なかなか大変そうだ。


 うみ「ま、気長に待ってみようか。可能性はないよりあったほうがいいしな」

 ロコ「うみちゃ~ん、それ、どういう意味~?」


 泣きっ面になって問い詰めるロコ。

 あたしはそれをふいに可愛いなんて思ってしまった。バレていやしないかな。

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