第21話 葡萄の顆

 ロコ「あの……みんないいかな?」

 未咲「ん? なに、ロコちゃん……って、えっ……」


 一瞬、目を疑った。

 まさかロコちゃんが、そんなものを手に持っているなんて……。


 ロコ「みんなよく……ごにょごにょ……するから、と思って……きのう……」


 話しているうちに、顔がどんどん赤くなっていくのが手に取るようにわかった。

 買いづらかっただろうことは容易に想像できた。


 春泉「そ、そんなものつけるだなんて、ハルミ恥ずかしい……」

 玲香「そ、そうよ! わたしたち、とっくに赤ちゃんじゃなくなってるのに!」

 ロコ「で、でも、お買い得だったし、だったらこの機会にどうかなって……」

 うみ「あたしは遠慮しとく。そもそも絶対量が少ないわけだし」

 ロコ「うみちゃんはいいけど、ほかのみんなは必要だよね? ……ねぇ?」


 言いながら、なお顔は真っ赤だ。

 よっぽど恥を忍んで買ったんだろうなぁと、誰もが思わずにはいられなかった。


 ロコ「えと……では、ここに置いておくので、いつでも使ってくださ~い……」


 尻すぼみになりつつ、教室の隅にぽふっと音をさせてそのは置かれた。

 一瞥を食らわせる一同。誰も手をつけようとはしなかった。


 そんな中、唯一この状況にまったく耳を傾けない者がいた。瑞穂だ。

 瑞穂はこのとき、別のことで頭がいっぱいになっていたようで。


 瑞穂「あのぉ……」

 四人「?」

 瑞穂「おいしいぶどうジュースができたので、よかったらどうですか……?」


 その眼は、どこかうつろだった。いつもの瑞穂ちゃんじゃない。

 スカートをたくし上げて、何かを準備しようとしている。


 別人になったみたいだった。いままでこんな姿を見たことなかった気がする。


 未咲「確か瑞穂ちゃんって、飲み食べしたものがおとなのそれに変わったっけ」

 瑞穂「覚えていてくれてうれしいです……さぁ、一口いかが?」

 未咲「うれしいけど、いいのかな……わたしたち、まだ未成年だし……」

 瑞穂「細かいことはいいですから……早くしないと全部こぼしちゃいますよ?」

 玲香「なんか、怪しい匂いがするわね……」

 未咲「うん……なんかいまの瑞穂ちゃん、熱に浮かされてるみたい……」


 それはもうひどいくらいに顔が赤くて。酔っ払いでも、ここまでなるかどうか。

 言ってるそばからふらふらし始めていて、いわゆるグロッキー状態だった。


 足許には紫色。そんなに飲み食べしたものに影響されるのかと驚きを隠せない。


 瑞穂「ほら、早く……このままだとわたし、ずっと身体がおかしく……」

 うみ「あー、わかったわかった。代表してあたしが飲んでやるから落ち着け」

 瑞穂「うみさんだけじゃなくて、皆さんにも飲んでもらいたいな……」

 うみ「それは危険だ。いいからそのままじっとしてろ」

 ロコ「ちょっと、うみちゃん……! 教室でそんなことしちゃだめぇ~!」

 うみ「何言ってんだ、さんざんこれまでここでいろいろやってきただろ?」

 ロコ「それはそうかもしれないけど……あっ、ほら、ここにおむつあるから!」

 うみ「それだ!」


 あたしたちは間髪入れず、瑞穂の下半身にそれをあてがった。

 意外と簡単にできて、自分たちでも驚いたくらいだ。


 うみ「いつでもいいぞ。なんならちょっと刺激してやっても……」

 ロコ「うみちゃん!」

 うみ「あぁ、すまんすまん……いまのはナシな。とにかくするんだ、それに」

 瑞穂「え~、もったいないれふよぉ……」


 目がとろんとしたところで、あてがったものの一部が紫色に変わっていった。

 息もしづらそうだったので、しかたなく応急処置てきに口から供給してやった。

 ……勘違いするなよ? これはあくまでも緊急のことだからな。


 瑞穂「うみひゃん、なにひてうのぉ……?」

 うみ「なにって……見ればわかるだろ」

 瑞穂「きふなんてひて、いったいろぉしひゃっはんれふかぁ~?」

 うみ「ばっ……やめろよ、そういうこというの……お前のためなんだぞ」

 瑞穂「も~、いみわかんないれふ~……すー、すー……」


 最後だけはわりとはっきり聞き取ることができた。

 言うとゆっくりと目を閉じていき、あたしの腕の中で安らかに眠っていった。

 ……これはさすがに勘違い、なんてしないよな?


 とにかく、おおごとにはならずに済んだみたいでよかった。

 一時はどうなるかと思ったけど。


 未咲「なんかきょうとっても寒かったけど、ちょっとあったかくなったかも……」

 玲香「どういう意味かしら、それ……」


 深い意味までは、聞かないほうがいいかもしれない。

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