第16話 くしゃみのしかたが可愛すぎて

 玲香「はぷちっ」


 それは、突然のことだった。

 冬の季節にずっといるけど、こんなくしゃみする玲香ちゃんはじめてかも。


 春泉「レイカのそのくしゃみ、ハルミもやってみたい!」

 玲香「いや、こういうのって意識してするものじゃないでしょ……」

 未咲「そうだよ玲香ちゃん、ひとりだけそういうのずるいと思う!」

 玲香「やめなさいよあんたまで……したきゃすればいいでしょ、勝手に」

 未咲「んじゃぁじゃぁ、わたし家庭科室から胡椒もってきていい?」

 玲香「ダメ」

 未咲「即答だね……さすがに萎えちゃうような……」

 春泉「じつはハルミ、こういうこともあると思って持ってるんだけど……」

 二人「なんで?!」

 春泉「なんでも。はい、使っていいよ」

 未咲「ぐっふっふ……玲香ちゃん、覚悟!」

 玲香「させないわ!」


 胡椒を玲香ちゃん目がけてひとふりした。

 すると、すかさず玲香ちゃんは自前のハンカチを顔の前に持ち、防衛した。

 そのおかげで、真っ先に被害をこうむったのは仕掛けたわたし自身だった。


 未咲「はっ、はっ……はーっくしょーんっ!」


 下半身にまで響いていそうなくしゃみだと、直感的に察することができた。


 未咲「あっあっもれる、おしっこ……たすけて、れいかちゃん……」

 玲香「言わんこっちゃない……」


 もう助けることすらおこがましく感じてしまう。そのままやってしまえばいい。

 なりゆきで未咲はしっとりとそこを濡らし、涙ぐんだ。


 玲香「自業自得、因果応報ね。よーく覚えておくといいわ」

 春泉「あっあの……ハルミまで、したくなってきたんだけど……」


 むずかゆそうにしている春泉の姿が、そこにあった。


 玲香「もう我慢できない?」

 春泉「うんっ、だからその……お姫様抱っこ、して?」


 恋する乙女みたいな瞳でそういう春泉。

 だけど状況が状況だけに、純粋にそういう気持ちにはなれなかったりする。


 玲香「下半身の力を緩めないように、気をつけるのよ」

 春泉「わかった……あっ、でもふとももとか、あんまりさわらないでね……」

 玲香「そんなのわかってるわよ」


 生徒会の者どうし、そのあたりのことくらい言わなくても配慮するから。


 春泉「どうしようレイカ、くしゃみ出そう……はっ、はっ……」

 玲香「(あぁ、もうまずいことになりそうな気しかしない……)」


 春泉「くしゅん!」


 くしゃみの音こそちっぽけだったけど、その被害は甚大だった。


 玲香「(じつはわたしもさっき、こらえきれなくて少しやっちゃったのよね)」


 赤面しつつ、多少の同情はしてあげてもいいかもしれないと思うわたしだった。

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