第14話 杜鵑花のはなが咲くころに(2,828文字)
六月のある日、わたし(瑞穂)は冬の道を歩いていた。
まわりを見渡せば、やっぱり花なんてとても咲くような環境には思えなくて。
瑞穂「どうやって生きながらえてるんだろう、ここらへんの植物って……」
きっと植物ごとになんらかの知恵がはたらいていて、わたしの知らない
ところでひっそりと、それでいて果敢にたくましく生きているんだろうな。
そんなことを考えていると。
???「……(ふるふる)」
なにかをしたそうに、立ってしゃがんだりを繰り返す女の子の姿が見えた。
ときどき衣服をつかんだり、その状態のまま身体をひねったりもしていた。
直感でさとった。この子はいま、トイレをがまんしていると。
瑞穂「どうしたの? トイレならあそこに……」
???「あっ……」
下着に染みでもつくっちゃったのか、その女の子は小さく悲鳴をあげた。
???「あのね、じつはさっき、あそこにあるといれにはいったの。だけど、
へんなとりさんのなきごえがきこえて、きゅうにこわくなったの……」
まくしたてるように女の子は言った。
その間にもせわしなく呼吸をしていて、見ているだけでつらそうだった。
瑞穂「だいじょうぶ、こわくないからいっしょに」
???「でも、たくさんきいちゃったし、おしっこも、もう……」
瑞穂「そんなこと言わずにがんばって! おねえちゃんが手伝ってあげるから」
とは言ったけど、いきなりのことでどうしたらいいのかわからなくって。
わたしはせめて、女の子の背中を支えてあげるくらいしかできなかった。
瑞穂「どう? はいてるもの脱げそう? もし脱げないんだったら……」
???「あぁっ、どうしよ、おねーちゃんっ、んんっ……ん~~~~~っ!」
予想だにしない早さで、とつぜん女の子のようすがおかしくなる。
目をつぶって両のこぶしを握りしめたのを見た瞬間、すぐにあきらめがついた。
――あぁ、この子、ほんとにがまんできなくなっちゃったんだ……
脚を広げてしゃがんで、なさけなくも腰が引けちゃったりもして。
ためにためたものを放出する準備は、すでに完了しているみたいだった。
すでにがまんできなくなっているぶんが、下着からあふれだしてきている。
おもらしするのは時間の問題だった。
瑞穂「じゃもうだしちゃおっか、ね? ほんとはここでしちゃだめだけど……」
さつき「うんっ、さつき、ずっとがまんしてたから、はやくおしっこしたい……
おねーちゃん、さつきのせなか、ずっとささえててね……ふぁぁ……」
下着を脱ぐのはあきらめて、さつきと名乗る子は本能のままにおしっこした。
瞳をうるうるさせて、ほんとうに気持ちよさそうに排泄の悦びに浸っていた。
瑞穂「(いいなぁ……わたしもしちゃおっかな)」
ふとそんなことが頭をもたげて、ついにわたしを離さず掴み行動に移させた。
瑞穂「さつきちゃんのおしっこを見てたら、なんだかしたくなっちゃった……」
さつき「おねーちゃん……?」
わたしはさつきちゃんの目線に立って、同じことをする準備をととのえた。
瑞穂「よーく見ててね……さすがにおねえちゃんはおもらしとかはしないけど、
さつきちゃんに負けないくらい、精一杯ぱんつ穿いておしっこするから」
さつき「うん……」
する必要はないのに、ちょっとだけ見栄を張った。
『おもらししない』なんて、わたしを知ってる人にとってはほとんど嘘だよね。
わたしはわざとらしく、身震いをひとつした。
ちょうどしたくなってきてたし、下手したらこの子の前でおもらししてたかも。
って、どっちにしても結果は同じか。
瑞穂「あっ、やっぱりちょっと待って……っ」
この子の前ですることが、きゅうに恥ずかしくなってきた。
きゅうっ、と脚を閉じてしまい、たまっているものを出すまいとしてしまう。
だって、ずっと見つめてくるし、なにより何もわかってない感じがもう……。
さつき「おねーちゃん、すっごいあせだよ……だいじょーぶ?」
瑞穂「うん、もうちょっとで出そうだから……」
何かがおかしい。そんなことはもうとっくに気づいていた。
純朴そうな女の子の前で、こんな破廉恥っぽいこと……なんてやっぱりヘンだ。
だけど、もうがまんできなかった。
瑞穂「ばっちぃけど許してね……おねえちゃんがしたいって思っただけだから」
さつきちゃんに負けず劣らない勢いで、わたしは排泄にいそしんだ。
ずっと目を閉じてたら、どこかきれいな川のそばにいるみたいな音に聞こえる。
さつき「おねーちゃんも、がまんできなかったの……?」
完全に信じてるみたいな顔だった。だますような真似はしたくなかったんだけど。
これもわたしのおかしな思考回路のせい。生れ変ったら彼女のようになりたい。
瑞穂「(だけど、やっぱりやめられないよ……)」
そう、わたしは知ってしまったのだ。あってはならぬ状態での排泄の快感を。
きわめて意図的で、それでいて背徳的で非人間的な、あるまじきその行為を。
寒さしか感じることのできない冬の時代を生きる、ひとりの女の子にとって。
もし誰かに冷や水を浴びせられて、考えを改めるように促されてもやめない。
これからもわたしは、このいたってシンプルでいたいけな行為を愛していく。
瑞穂「(さつきちゃんも、今回のことで好きになってくれるといいな……)」
そんなことを、ささやかに願った。あぁ、わたしって、ほんっとうに最低だ。
??「そこでなにしてるの、さつき!」
さけぶような、甲高い女性の声がした。さつきちゃんの名前を呼んでいる。
さつき「ママ!」
瑞穂「(あぁ、さつきちゃんの……って、この恥ずかしい状況、どうしよう)」
戸惑っているひまもなく、つかつかとさつきちゃんのお母さんが歩み寄る。
母親「あーぁもう、こんなにしちゃって……どこほっつき歩いてたの?!」
さつき「だって、こわいんだもん……へんなとりさんのなきごえが……」
母親「まーたそんなわけのわからないこと言って! しっかり反省なさい!」
さつき「ひぃっ!」
ぶわっとあふれる涙が、すべてを物語っているみたいだった。
その鳴き声はさつきちゃんにだけ聞こえて、ほかの人には聞こえてないようだ。
母親「ぐずぐずしないでさっさと帰るわよ! ほら立って!」
さつき「ママまってっ、またおしっこ……」
母親「家帰ってすればいいでしょ、もぅいい加減これ以上手を煩わせないで!」
さつき「いやぁっ……」
思いっきりしちゃってる音だけをただ残して、ふたりは去っていった。
お母さん、まだ若いような感じで子どもとの接しかたもよくわかってなさそう。
たいへんだなぁ、と思いつつ、わたしのそれに関しては完全スルーだった。
瑞穂「とりあえずよかった、のかなぁ……?」
自分のしたことを振り返ってみて、『ま、いっか』となるまでが早かった。
確かに恥ずかしかったんだけど、今回のできごとはかなりトラウマになってそう。
それを少しでも緩和したくて、ってわけじゃないけど、結果的にそうした。
いつかわたしのことを思い出して、おんなじように成長していってほしい。
この世界ではおもらしのひとつやふたつ、たいしたことないんだから。
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