第13話 見つけてくれてありがとう。これはほんのお礼さ。
瑞穂がおもらしに執着する変態になった原因はいくつかあるらしい。
ひとつは一般漫画に描かれていた、いたって普通の女の子が失禁するシーン。
もうひとつは、これから説明する場所に行ったことで完全に覚醒したという。
♦
わたし、瑞穂はとあるコスプレイベントの会場に来ていた。
瑞穂「誰か、何かおもしろいことやってる人いないかなー……」
品定めしてたところ、ひときわ目を引くわりに不人気なレイヤーが目に留まる。
苺姫「お嬢さん、いまボクと目があった? あったよね?!」
きんきらきんと目を輝かせるそのレイヤーさん。衣装に負けず劣らなかった。
瑞穂「ま、まぁあったといえばあった、のかなぁ……」
見るからに女の子って感じの衣装だけど、一人称はまるで男の子……?
得体の知れない恐怖を覚えつつ、かといって無視するわけにもいかず。
両眼をそらし気味のわたしに、続けてそのレイヤーさんは話しかける。
苺姫「お近づきのしるしに、ここでボクがとっておきのサービスをするよ!」
瑞穂「(なんだろう、わかんないけどとにかく丁重におことわりしたい……)」
こんなに寒いのに、やな予感がしたとたんにヘンな汗をかきはじめた。
すると間もなく、あったかそうで、なおかつ気持ちがよさそうな音がしだした。
苺姫「見つけてくれてありがとう。これはほんのお礼さ。
誰とも目があわなかったらボク、今頃ここで心が凍え死んでいたかも……」
正座して、泣きがちで、それでいてときどき快感にうち震えているみたいで。
いままさに喜びと悲しみのはざまにいるんだよ、って感じがひしと伝わった。
その水音と彼女のけなげさに、一気に引き込まれるみたいに好きになった。
(あとで局部などを確認してみたところ、ちゃんと女の子でした。)
床下にペットシートみたいなものを敷いていたみたいで、用意周到だった。
よく見たら彼女の頭のほうに、なんかの獣の耳っぽいのがついてるし、
そこらへんの世界観はなんとか統一されてるのかなぁ、なんて思ったりした。
瑞穂「あ、あの……大丈夫ですか……?」
苺姫「あれっ……
もしかしてボク、こんなところでとんでもなくはしたないことを……?」
苺姫さんが我に返ったみたいで、衣装をめくって自分のしたことを顧みていた。
苺姫「えっと、その……このことは、くれぐれも内密におねがいします……
こんなことしてるの、きっとボクくらいしかいないはずですし……」
瑞穂「そ、そうなんですね……」
たしかにこのイベント、あまりマニアみたいな人が見当たらない。
この恰好でこんなことしているのって、きっと苺姫さんくらいだと思う。
勇気あるなぁ、と思う一方で、生きづらさみたいなのも抱えてそうとも思った。
内心ではどきどきしっぱなしだった。
こんなに目の前でめいっぱいおもらしされたの、人生で二度もなかったよ……?
苺姫「うぅ~、きょうも冷えますね……
あのぉ、またおトイレしたくなってきたので、よかったら見ます?」
瑞穂「えっ、いいんですか?!」
口に出たのは、そんなことばだった。
もじもじと腿をすり合わせる彼女を前にして、そう言わずにはいられなかった。
苺姫「ではでは、少々お待ちを……なんて言ってる間にもう出ちゃいましたね」
今回もさっきと同じように、今度は衣装を濡らさないようにたくし上げながら。
わたしの目は彼女に釘付けになって、思いがとまらなくなった。
瑞穂「(わたしも……わたしも、苺姫さんみたいに可愛くおもらししたい!)」
そう思うのが先だったか後だったか、いま思い出そうにも思い出せない。
とにかくその思いが結実したとたん、わたしの体はいとも
瑞穂「(あったかい……これがおしっこの、ほんとうのぬくもり……!)」
ただ下着を通すだけで、こんなにも感じかたって変わるんだ。
そうわかった瞬間、わたしの脳内で幸せ成分が分泌されて、満たされた。
苺姫「大丈夫かい、お嬢さん?! あわわ、ボクのせいで……」
瑞穂「いいんです……わたしもちょうど、こうしていたかったところなので」
そのあとの記憶がはっきりしない。きっと卒倒したんだと思う。
ちょっとした騒ぎになったみたいで、苺姫さんもたくさん心配してくれていた。
ちょっと寝たらいつものわたしに戻っていて、だけど下着の冷たさは消えず。
瑞穂「っくしゅん!」
風邪っぽい症状がこのあと何日か続いたことだけは、はっきり覚えていた。
♦
うみ「うーん……このエピソードを聞いてよりいっそう恐怖を感じるな……
瑞穂の底知れなさげな変態ぶりが、あたしにとっちゃとにかくこえー」
瑞穂「そうですか? それなりにありふれてるお話だと思うんですけど……」
うみ「いや、ねーから」
とは言ったものの……この教室にいると、瑞穂の話もまぁなくはないのかもな。
なんて。
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