第12話 俺の部下になれ
堕天使キャメロンはその両腕を鋭い刃物へと変化させ、ギラつく刃で片っ端から
くっ!
ミランダにそっくりな幼い彼女たちが次々と襲われて消されていくのを見るのは本当に辛い。
ここでじっとしていることしか出来ない無力さに僕は肩を震わせた。
だけど僕を
僕が悔しさに
「調子に乗ってんじゃないわよ!」
少ないライフをものともせず、ミランダは
だけどキャメロンは今度は自らの腕を硬質な金属に変えて、ミランダの一撃をやすやすと受け止める。
そして素早く間合いを詰めてミランダの
「くぅっ!」
「貴様は最後だ。ミランダ。ライフが尽きる前にそこでおとなしく順番待ちしながら見ていろ」
そう言うとキャメロンはいきなりミランダの首に手を当てた。
「さ、触るなっ!」
すぐにそれを払いのけたミランダだけど、そんな彼女の体に恐ろしい変化が起きたんだ。
ミランダの首から下が先ほどのキャメロンのように銅像化してしまっている。
や、やばいぞ!
「くっ……」
「もはや動けまい」
そう言うとキャメロンは銅像となったミランダの腹部を足で踏みつけて薄笑いを浮かべた。
ミランダはすでに身動きが取れなくなっているようで、どうすることも出来ずに悔しくて歯を食いしばっている。
僕は
完全にチェックメイトの状況だ。
あのまま頭部に一撃を食らったらミランダは即ゲームオーバーになる。
だけどキャメロンはミランダにそれ以上攻撃を加えることなく見下ろすと、鋭い目を細めて言う。
「まだ殺さん。ミランダ。おまえの順番は最後から2番目だ」
そう言うキャメロンの顔に向けて、ミランダはいきなり口から猛然と
敵の不意を突く彼女の得意技だ。
だけどキャメロンは首を
「不意打ちのつもりか? 見苦しい
そう言ってミランダをあざ笑うと、キャメロンは再び
広場にいた数多くの
キャメロンの強さが圧倒的すぎて、手も足も出ない。
くっ……。
残っている
すると彼女たちは2人だけが僕を抱えて宙に浮き始め、残りの2人はキャメロンに向かっていく。
む、無茶だ。
だけど僕はそれがミランダの意思であることを、僕を見る彼女の視線から悟った。
ミランダは僕をこの場から何とか逃そうとしてくれているんだ。
だからキャメロンに向かっていった2人の
そして僕を抱えた
だけどそうした思惑はキャメロンにも見透かされていた。
彼は素早い動きで次々と
そして彼女たちをバッサリと斬り倒すと、翼を広げてひとっ飛びに僕の眼前まで迫って来た。
そしてキャメロンは僕から
「うわっ!」
僕は空中に放り出されて、あえなく落下する。
見る見る間に床が迫って来た。
だけど僕は地面に叩きつけられる前に、誰かに
僕を空中で捕まえて床への激突から救ってくれたのは、身体中を切りつけられてボロボロに傷付いた
彼女はキャメロンに襲われて瀕死の重傷を負いながらも懸命に急降下して、僕を助けに来てくれたんだ。
「あ、ありがとう。でも君が……」
上を見上げるともう1人の
くっ。
これでもう残されているのは僕を守ってくれたこの
邪魔者を片付けるとキャメロンは僕に向かって降下しながら言う。
「無駄なことを。この裏天樹は閉ざされた空間だ。扉は開かず、どこにも逃げられはしない」
向かってくるキャメロンに
傷ついた体に
僕なんかよりもずっと力が強いはずの
その小さな体は痛みに震えていた。
そんな僕を見てキャメロンは
「そんな人形をかばってどうするアルフレッド。貴様は奇妙な男だ。NPCのくせに他者への思い入れが強すぎる。だが、俺はそれを単に奇異の目で見るような愚行は犯さん。その珍妙な気質こそが貴様の強さを呼び起こしているのだと俺は考えているからだ」
僕の強さだって?
こんな魔王じみた強さを持つキャメロンに言われても皮肉にしか思えないよ。
「貴様に感化されて、貴様の周りの者たちも同様の性質を見せ始めている。そこに転がっている魔女もそうだ。闇を
そう言うと彼は油断なく僕を見下ろした。
だけどキャメロンがそう言うのなら、僕だって思うところはある。
「キャメロン。僕だって君が恐ろしいよ。君だってNPCなのにゲームを揺るがすような何か得体の知れないことをしようとしているんじゃないのか? 僕は以前よりもずっと自由になったけれど、それでも自分をゲーム内の一キャラクター以上に思ったことはないよ。だから君みたいにゲームシステムを破壊するような行為をすることには断じて賛同できない」
これまでの一連の流れを見ても分かる。
キャメロンこそゲーム内に生きるNPCの領分を
「あくまでも僕らはゲームという世界の中のルールを守って生きるべきなんだ。だって僕らはNPCだから」
「そんなお題目はどうでもいい。アルフレッド。いい機会だからハッキリ言おう。俺の部下になれ。俺の手足となって俺のために働け。おまえにはそうして生きる資格がある」
……えっ?
い、いきなり何の話だ?
何でそうなる?
唖然とする僕にキャメロンは目を細めて言う。
「馬鹿な冗談だと思うか? 俺は本気だ。貴様がこの俺の計画に手を貸すというなら、貴様の命はもちろん、貴様の大事な者どもの命は見逃してやってもいい」
僕は彼がそんなことを言う真意を
だけどキャメロンのその言葉に僕よりも早くミランダが反応した。
「このクソガキ! 調子に乗るのもいい加減にしなさい! アルを甘く見んな!」
ミランダは床に倒れて動けない
その時、僕の腕の中で身を震わせていた最後の
小さな温もりが消えていくのを悲しく思いながら、僕はキャメロンを
「キャメロン。君は僕の大事な人たちのことなんて何とも思っていない。そんな君の言葉を僕はもう信じないよ。君に与えられる生き方なんて僕には必要ない。誇りを売り渡すよりも、自分達の命は自分達で守る」
僕はそう言って立ち上がると、Eガトリングを取り出した。
もし光弾がキャメロンに効かないのなら、これでぶん殴ってやるつもりで。
そんな僕を見てキャメロンは特に表情を変えるでもなく、余裕の表情で僕の前方に着地した。
「やはりそうなるか。貴様ならそう言うと思っていたよ。その銃が俺に通じないことを分かっていてなお、戦おうとすることもな。だが……俺には今、全てを力ずくで手に入れる能力があることを忘れるな。取引を持ちかけたのは、単なる温情だ。それをふいにされて俺は悲しいよ」
冷笑を浮かべてそう言うと、キャメロンは僕に1歩ずつゆっくりと近付いてくる。
「何が温情だ。そんなのはただの
僕は決死の思いでEガトリングを構えた。
親指は無意識に【Prompt】ボタンにかかり、Eガトリングは虹色の光弾を吐き出す。
だけどキャメロンは信じ難い瞬発力でしゃがみ込んでこれを避けた。
避けた?
マットやローザのようにこの銃の除外リストにキャメロンの名前が登録してあるなら、光弾は彼の体の前で消えてしまうはずだ。
避ける必要なんてない。
たけど彼は僕の放ち続ける光弾を素早い身のこなしでことごとく避けるとこう言った。
「ふむ。まだだな。まだ足りない」
足りない?
その言葉の意味を考える間もなく、キャメロンは素早く僕の背後に回ると、この首を
「うわっ!」
僕は大きく宙を飛ばされて広場の隅まで転がった。
背中を床に打ち付けた痛みに顔をしかめながら、キャメロンがまだ僕を殺したり拘束したりするつもりがないことを奇妙に思った。
僕を
疑念を顔に浮かべる僕を見て、キャメロンはフンッとひとつ息を吐いた。
「さて、我が力を試す相手もいなくなってしまったことだし、ここらでステージ変更といこうか」
そう言うとキャメロンはパチリと指を鳴らした。
途端に彼の体が床の中に沈み込んでいく。
それだけじゃない。
僕やミランダ、そして倒れたままフリーズして動かないイザベラさんを含めたこの場にいる全員が同じように床に沈んでいく。
この裏天樹に来た時と同じ現象だった。
こ、これは……。
「表の世界で貴様の女たちが待っているぞ。彼女たちは俺を楽しませてくれるかな? アルフレッド」
そう言うキャメロンの声を最後に、僕の視界は暗転し、何も見えず何も聞こえなくなった。
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