第11話 降臨! 堕天の王
「貴様らを俺の
イザベラさんの体から生まれ出るかのように現れたキャメロンのその言葉を、僕はすぐには理解できなかった。
どういうことなんだ?
「チッ! あんた……イザベラとグルだったってわけね」
「グル? 笑わせるな。俺はその女を便利な操り人形として利用しただけだ。知っているか? 天使長イザベラに隠された秘密のスキルを」
「何ですって?」
「その女はな、2つ命を失って3つ目のライフが発動すると、凶暴な本性を表して暴力的な戦闘力を発揮するんだ。それが天使長イザベラが誰にも明かしたことのない
そんな話をするキャメロンに、ミランダは鋭い眼光を浴びせて言う。
「嘘つき小僧の話はまったく信用に値しないわね。何であんたごときがあのイザベラをそう簡単にハメられるのよ。それにそんな秘密の話が本当なら、何であんたがそれを知っているっていうのかしら? いい加減な話をしているとお仕置きするわよ。クソガキ」
ミランダの言う通りだ。
だけどそんな僕らを仰天させる言葉がキャメロンの口から飛び出したんだ。
「そこに無様に倒れている女は、かつて俺を生んだ母親だ」
そう言ってキャメロンは動かないイザベラさんを指差した。
これには僕もミランダも思わず目を丸くする。
「は、母親?」
「そうだ。聖人
て、天使長であるイザベラさんが魔王と?
そして生まれた子供が……天使と悪魔の血を引く堕天使キャメロン。
あまりにも
そんな僕らを見てキャメロンは口の端を吊り上げて笑う。
それはひどく
「その女にとって俺という存在は自分の
キャメロンとイザベラさんが親子だったなんて……。
驚きを隠せない僕とは対照的に、ミランダは肩をすくめて言う。
「チッ。そんな自慢げに語るような話でもないでしょ。あんたの出自なんてどうでもいいわ。要するにあんたは母親を恨んで反抗する馬鹿息子ってだけでしょ」
「フンッ。もはや母でも子でもない。その女はこの俺をこの姿で転生させるための
そう言ってイザベラさんを
「そんなことはもはやどうでもいい。俺は今日この瞬間のために長い時間と手間をかけて準備してきたんだ。それもこれも全ては貴様らを食らうためだ。ミランダ、そしてアルフレッド」
その話に僕はハッと我に返る。
驚くべきキャメロンの正体に気を取られていたけれど、今こうして僕らの前に立つ彼は、僕らに危害を加えようとする明確な敵なんだ。
それにしても……僕らを食らう?
それはどういう意味に捉えたらいいんだ?
さっきも彼は言っていた。
僕らのことを自分の
そんなキャメロンにミランダは肩をワナワナと震わせながら怒りを爆発させた。
「ふざけんじゃないわよ! こっちは取るか取られるかの勝負の最中だってのに、横やり入れて寝言ほざくな! このガキ!」
キャメロンの出現によってイザベラさんとの勝負が邪魔されたことにミランダは本気で腹を立てていた。
だけどキャメロンはそんなミランダの怒りを一笑に付して言う。
「大仰なことを。貴様は踊らされていたんだよ。貴様もイザベラもしょせんは盤上の
そう言うとキャメロンは
その瞬間にミランダは指先をキャメロンに向けていた。
「分かった。もういいから今すぐ死になさい」
「ほう。魔女殿は
「燃え尽きろっ!」
ミランダはキャメロンに向けて
轟音を響かせて飛ぶ火球がキャメロンの顔面を捉えたかに見えた。
だけど……。
「これがご自慢の
ミランダが放った黒く燃え盛る火球をキャメロンは右手で受け止めた。
そして涼しい顔でそれを握りつぶしてしまったんだ。
「なっ……」
僕は言葉を失った。
ミランダの
それを素手で受け止めることが出来たのは、
ということは今のキャメロンは彼女と同等かそれ以上の力を持っているってことだ。
「こんなチャチな火の球で取るか取られるかの勝負とは笑わせてくれる」
そう言って
そしてキャメロンの頭上に飛び上がると、その脳天目がけて鋭く
「ナメてんじゃないわよっ!」
ガキッと音がしてキャメロンの頭に
だけど……キャメロンは平然としている。
そのライフはほんのわずかに減っただけだ。
「なるほど。魔力も身体能力もそれが限界か。つまらん」
そう言うとキャメロンは
「きゃあっ!」
ああっ!
ミランダは
何とか魔力で急制動をかけて天井に叩きつけられるのは回避できたけど、ミランダの顔には隠しきれない驚きの色が
キャメロンの腕力はその子供の見た目に反して相当な強さだった。
「生意気っ! あんたたち! そのクソガキを焼き尽くしてやんなさい!」
ミランダの命令に従い、40人ほどもいる
無数の
だけどそんな強烈な魔法も今のキャメロンの前では意味を成さないのだと僕は思い知らされることになる。
「えっ……?」
爆風も高熱も全てが一瞬のことで、広がりを見せずにあっという間に消えていく。
そして燃え上がった炎はすぐキャメロンの体の中に……いや、彼の体の周囲に
「
確かによく見るとキャメロンの体の周囲には、透明の幕のような空気の揺らぎが見える。
さっきの
魔法を吸収してしまうのか?
そうだとしたら非常にまずいことになる。
魔法が効かない相手に対してはさすがにミランダの戦力ダウンは
一体どうすればいいんだ。
そんなことを悠長に考えている
「まずは小うるさいチビどもを排除するか」
そう言うとキャメロンは一番間近にいる
は、速すぎる!
キャメロンは左手で
えっ?
そこで僕は凍り付いたように動けなくなってしまった。
キャメロンの右手は
な、何だ?
キャメロンが
奇妙な現象だった。
そして
や、やられたのか?
僕がそう思った瞬間、
「精巧に実体化されていても、しょせんは作り物。体内のプラグラムを解いてやるだけで、この通りだ」
そう言ったキャメロンの言葉の意味するところが分からず、僕はただただ
い、一体何をしたんだ?
僕は信じられない思いで頭上を見上げる。
天井付近に浮かぶミランダも、僕と同様の面持ちでキャメロンの様子を見下ろしていたけれど、すぐにその表情が怒りに染まる。
彼女の怒りに呼応するように
「
先ほどイザベラさんを倒した黒い
そう思った矢先のことだった。
「
そう唱えたキャメロンの体が急に色を変える。
その白い肌の色も、銀色の髪も、白の衣服と黒の
そしてその身はまるで銅像のように硬直する。
そんな彼の姿を黒い
そ、そんな……。
全てのドクロが消え去ると、キャメロンは再び元の姿に戻る。
驚く僕やミランダを見ると、彼は
「
た、ただの銅像?
銅像に変化したってことか。
キャメロンのそれはヴィクトリアの瞬間硬化の能力に似ていると僕は思った。
だけど、すぐにそれだけではないことを思い知らされたんだ。
「これはな、この世界のあらゆる生命、物質を他のものに強制的に変換させられる、言わばプログラムの書き換え能力だ。このような変化も自在にな」
そう言うキャメロンの二の腕が、一瞬で鋭い刃物に変化した。
次の瞬間、彼は一番間近にいる
「あ、危な……」
僕がそう言いかけたその時にはすでに
キャメロンが鋭い刃物と化した二の腕で鋭く
想像もつかないようなキャメロンの戦いぶりに、思考が追いつかず僕は混乱していた。
そこからはキャメロンの
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