第13話 表世界で
ふと気が付くとそこは再び中央広場だった。
床に倒れていた僕は身を起こして周囲を見回す。
僕はさっき床に沈みこんだその場所とほぼ同じところに自分がいることを理解した。
だけどミランダとイザベラさんの姿がどこにもない。
そしてさっきまでと違うのは広場の中にはジェネット、アリアナ、ヴィクトリア、ノアの4人の姿があることだった。
お、表世界に戻ってきたんだ。
「み、みんな……」
「アル様!」
たまたま一番僕の近くにいたジェネットが駆け寄って来てくれる。
中央広場の中にあれほど
どうやら彼女たちが全員倒してくれたみたいだ。
ジェネットは座り込んでいる僕の手を取って、起こしてくれた。
「アル様。今まで一体どちらに……」
そう言いかけたジェネットがいきなり背後を振り返り、
ゴキンという硬くて重い音とともに弾かれた何かが、近くの壁に当たってさらに大きな音を立てた。
飛来してきたそれは……拳大の黒い鉄球だった。
僕は状況を悟り、思わず緊張で身を固くする。
頭上から高速で投げられた鉄球をジェネットがギリギリのところで弾き飛ばしたんだ。
彼女は厳然たる表情で頭上を見上げている。
その視線の先では、さっき僕らをこっちの世界に引き戻した堕天使キャメロンが空中に浮かんでいた。
彼は手の中から茶色い豆粒のような物をつまみ上げると、それを黒い鉄球に変化させる。
また
あ、あれを投げつけてきたのか。
危ないところだった。
「よく回避したな。聖女ジェネット」
キャメロンは余裕の表情を浮かべて僕らを見下ろしている。
ジェネットはそんな彼を見上げて
「あ、あれは……キャメロン?」
すぐにアリアナとヴィクトリア、それからノアが集まって来てくれる。
みんなの無事な姿に僕はひとまず
僕らは頭上のキャメロンに注意を向けたまま、言葉を交わし合う。
「アル君! 無事でよかったぁ」
「どこ行ってたんだよ。アルフレッド。堕天使どもは全員アタシらが片付けたぞ」
「心配かけてごめんね。実は……」
僕はミランダと共に天使長のイザベラさんによって裏天樹に引き込まれてからのことを手短に話した。
ミランダがイザベラさんを2回倒して3つ目の命が発動する時に、あのキャメロンがイザベラさんの体から出てきたということ、そしてキャメロンがイザベラさんと魔王ドレイクとの間に生まれた堕天使であるということを。
アリアナとヴィクトリアはその話をイマイチ理解できずに
「なるほど。紳士的な商人の姿は
ノアだけはその話に興味なさそうに周囲を見回しながら言った。
「ところでアルフレッド。あの高慢ちきな魔女の姿がないが? やられよったのか?」
「いや、さっきまで一緒にいたんだけど、僕にも分からないんだ。彼女はかなりダメージを負って、その上動けなくなってしまっていたから心配なんだけど……」
言葉を交わし合う僕らを見下ろしていたキャメロンがそこで両手をパンパンと打ち鳴らした。
途端にシステム・ウインドウが開かれる。
【本フィールドのスキル使用規制を全面解除】
あ、あれは……イザベラさんと同じことがキャメロンにも出来るのか。
だけどこれで皆、自慢のスキルが使えるようになった。
唐突な規制解除を
「さて、再会の
そう言うとキャメロンは次々と鉄球を投げつけた。
超高速で飛来するそれをアリアナはギリギリのところで避け、ノアは体の
三者三様の対応を見たキャメロンが口から長い舌を
「いいぞ。魔女ミランダが大して相手にならなかったんでな。貴様らはガッカリさせないでくれよ。4人全員なら俺とそこそこやり合えるかもしれんな。全員でかかってこい」
それを聞いて
「てめえ。ナメてんじゃねえぞ! アタシがタイマンでぶっ潰してやる。降りて来い!」
「わざわざ勝てる確率を落として1対1にこだわるか。不合理だな。くだらんプライドをへし折ってやろう」
そう言うとキャメロンは降下してきて床の上でヴィクトリアと対峙した。
「武器は斧か。ならば俺も同じ条件にしよう」
そう言うとキャメロンは持っていた鉄球を
そうして対峙する2人に僕は思わず声を上げる。
「ヴィクトリア! いくら君でも1対1では無茶だ!」
そう言う僕だけどヴィクトリアはキャメロンを
思わず足を踏み出そうとする僕をジェネットが脇から制止し、そっと耳打ちをする。
「アル様。彼女が危なくなったら私たちが加勢に入ります。逆にキャメロンが
「ジェネット……」
心配する僕の目の前でキャメロンとヴィクトリアが激突する。
猛然と突進し、その勢いで
物凄い音を響かせて斧の打ち合いが始まった。
あんな勢いで斧を振るったら、腕の骨が砕けてしまうんじゃないかと思うほどの衝撃にも揺るがず、ヴィクトリアは猛然と斧を打ち下ろす。
キャメロンも真っ向から引かずに応戦した。
2人の打ち合いはまったく互角のまま1分以上にも渡って続く。
巨大な岩同士がぶつかるような
だけど……恐るべきはキャメロンだった。
両者は互角なように見えるけれど、ヴィクトリアが両手で斧を振るうのに対して、キャメロンは片手でそれに応戦していたんだ。
しかも高身長のヴィクトリアにまったく打ち負けていないどころか、背丈の低いキャメロンが徐々に押し始めている。
歯を食いしばるヴィクトリアとは対照的にキャメロンは笑みを浮かべたままだ。
「くっ!」
「どうした! そんなものか!」
そう言って斧を振るうキャメロンに徐々に押し込まれ、ヴィクトリアがついに1歩2歩と後退する。
そ、そんな……あのヴィクトリアが接近戦で劣勢に立たされ始めた。
僕が信じられない思いでその様子を見つめる中、キャメロンの鋭い一撃によってついにヴィクトリアの
重量のある
や、やばいっ!
だけどヴィクトリアは百戦錬磨の動きで体を
キャメロンは当然のようにこれを斧で弾くけれど、その一瞬の
床に突き立った
「くたばっちまえ!
重量自慢の大斧・
その刃の嵐に巻き込まれたら、決して助からない必殺の一撃だった。
だけどキャメロンはカッと両目を見開くと、その刃の嵐の中に自ら飛び込んだ。
その途端、彼の体がパンッと弾けたんだ。
僕は我が目を疑った。
刃の嵐に巻き込まれたキャメロンの体はまるで水風船が破裂したみたいに、液状化して弾け飛んだ。
そしてヴィクトリアはその液体を全身に浴びてしまう。
それでも彼女の放つ
はず……なんだけど。
「な、何だこれ! く、くそっ……」
液状化したキャメロンは
やがてヴィクトリアの腕、足、体、髪そして
「うぐぐ……」
必死に体を動かそうとするけれど、ヴィクトリアは完全に身動きが取れなくなってしまっていた。
強力な弾力性を持つその
それどころか
ついにヴィクトリアが
こ、これ以上は危険だ。
様子を見ていたジェネット、アリアナ、ノアの3人が反射的に飛び込んでいき、ヴィクトリアの加勢に入った。
「
ジェネットが振りかざした
それを嫌ったのか、途端にキャメロンは元の姿に戻ってヴィクトリアを放り出した。
ヴィクトリアは力なくその場に崩れ落ちて無防備になるけれど、キャメロンに
「
彼女の両手から放出される鋭く
彼はすぐに身を
「フン。お遊びのような技だな」
そう鼻で笑ったキャメロンの体が突然、炎の塊に変わった。
いや……それは炎というよりも高熱でドロドロに溶けた溶岩流だった。
アリアナの放った氷のつぶては、高熱流体と化したキャメロンの体に当たると一瞬で蒸発してしまう。
逆にキャメロンがブンッと腕を振るうと超高温の溶岩流が宙に舞い、アリアナの頭上に降り注いだ。
あ、危ないっ!
「ひええっ!」
アリアナは慌てて床を転がって直撃は避けるけれど、高熱で床に降り注いだ溶岩流が発する熱波を浴びて激しく
「ゴホッゴホッ! し、死ぬ~!」
あ、あれはマズイ。
暑さに弱いアリアナはあの熱波を浴びるだけでライフが削られてしまう。
ましてや溶岩流なんかの直撃を受けたらほぼ即死だろう。
「次から次へと姿を変えて
そう言って宙を素早く飛ぶノアは、その口から光のブレスを放った。
それは溶岩流となっていたキャメロンの体に直撃し、燃え盛る炎ごと吹き消してしまう。
や、やった!
そう喜んだのも
「み、水?」
キャメロンの体は今度は透明の液体で形作られている。
キャメロンはそのまま空中で弾け飛ぶと、豪雨のような勢いでノアの頭上に降り注ぎ、その
「これが何だと言うのだ……ん?」
そして再び水の塊となったキャメロンの中にノアの体がスッポリ閉じ込められてしまう。
「ゴボッ……」
ノアは口から空気の泡を吐き出して懸命にもがくけれど、水の中に閉じ込められてしまって逃げられない。
やばい!
あのままじゃ
しかも水の塊と化しているキャメロンは体の中の水流を自在に操っているみたいで、ノアの顔の周りの水が目まぐるしく流れていた。
そのせいでノアは鼻や口から大量の空気を吐き出してしまい、見る見るうちに顔色が悪くなり、その動きも鈍くなった。
たった7しかないライフがどんどん減っていく。
やられる!
そう思ったその時、頭上から飛来した光の矢が次々と水の塊の中に飛び込んでいき、ノアの体に次々と命中する。
それはジェネットの放った
光の矢がノアの
「プハアッ! ゴホッ! ゴホゴホッ!」
ようやく水の塊の中から飛び出したノアは地面に転がって激しくむせる。
彼女の残りのライフは2まで減ってしまっていた。
よほど苦しかったんだ。
僕は
ヴィクトリアは倒れたまま動かず、アリアナは床に
ノアは寝ころんだまま荒い呼吸で
キャメロンは空中で再び元の姿に戻り、そんな彼女たちを見下ろして高笑いを響かせた。
「ハッハッハ! そんな調子で大丈夫か? こんなのはまだまだ序の口だぞ」
あ、あの4人がここまで苦戦するなんて……。
僕は目の前で繰り広げられる信じ難い光景に
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