第7話 再戦! 殺意の激突
「私はあなたのことを……殺したくて殺したくてたまらないのです」
イザベラさんは慈愛に満ちた笑顔をミランダに向けながらそう言った。
その優しい笑みとは裏腹に不穏な言葉を
あんなにも優雅で優しさに満ちたイザベラさんがその心の奥底に抱える
「そんなに驚くことないわよ。アル」
僕の隣でミランダは平然とそう言う。
「前に戦った時に何となく感じたわ。ああ。この女は
そう言ってミランダはイザベラさんに
「何でもお見通しですのね。さすがミランダ。ならば私の渇望に応えて下さいますか?」
「言われなくてもやってやるわよ。ただし、アンタの渇きを癒やすなんて生半可なものじゃないけどね。私がボッコボコにして、自分がいかにちっぽけなものかってことをアンタに思い知らせてやるわ」
キツい視線を向けてそう言うミランダにイザベラさんは
「すばらしい。その殺気を向けられるだけで、大いにこの胸がたぎります。では、ふさわしい舞台を整えましょう」
そう言うとイザベラさんはパンパンと手を打ち鳴らす。
途端に僕らの頭上に見える吹き抜け空間にシステム・ウインドウが表示された。
【本フィールドに限りスキル無効化を解除】
え?
ということは……この空間ではスキルが使えるってことか。
それを見たミランダは戦意をむき出しにして笑った。
「へえ。ガチでやろうっての。面白いじゃない。
「ええ。全力を出したあなたを叩き潰してこそ、私の渇望も満たされますから。先日の
2人はそれ以上の言葉は不要とばかりに互いに
僕は心配で仕方なかった。
もちろんミランダの強さは誰よりも僕がよく知っている。
だけど、イザベラさんはハッキリ言って不気味だ。
彼女の本当の実力はもっと奥深くに隠されているような気がして仕方ないんだ。
それに先日は
ミランダもそうだけど、イザベラさんもあの時に全力全開の力を見せていたとは僕には思えない。
2人ともどこか探り合うような雰囲気だった。
二度目の対戦でこの2人がそうした制限を取り払い戦意をむき出しにして戦ったら、一体どうなってしまうんだろう。
ミランダも無傷では済まないだろう。
回復手段の失われた今、消耗戦になるのは避けられない。
僕は不安な気持ちを抑えられずにミランダの背中に声をかけた。
「ミランダ……気をつけて」
「余計な心配は無用よ。アル。巻き添えを食わないよう下がってなさい」
僕の不安をすぐ察したんだろう。
ミランダは背を向けたまま、いつものように強気でそう言うと、声を落としてほとんど聞こえないくらいの声で
「ちゃんと見てなさい。アル。私の戦いを。私のことを」
その言葉が僕の胸を打った。
僕は胸の中で彼女にエールを送る。
ちゃんと見てるよ。
がんばれミランダ。
ミランダは
イザベラさんも金色の錫杖・
互いに魔法攻撃を繰り出せば
まるでチキン・レースだ。
僕は緊張のあまり思わず両手の拳を握りしめていた。
そしてそんな僕の緊張が最高潮に高まった時、ミランダとイザベラさんはわずか1メートルほどの距離を挟んで立ち止まり、そこで対峙した。
2人の視線が交錯し、
「ハアッ!」
「フッ!」
ギィンと金属同士がぶつかり合う硬質な音が鳴り響く。
ミランダとイザベラさんが
2人は最初からかなりのペースで激しく打ち合った。
どちらも一歩も引かない攻防だ。
重い杖の一撃をもし頭部などの急所に受けてしまえば、早々に勝負が決まってしまいそうな勢いだった。
やがてミランダは右手で
イザベラさんはミランダの振り下ろす
そして
ミランダはそれを
2人とも信じられないほどの集中力だ。
1メートルほどの距離を
イザベラさんの
身体能力強化のスキル、
ミランダはそうはさせまいと前に出て距離を再度詰めようとした。
だけどその瞬間、イザベラさんはすぐさま足を踏ん張ってもう一度前に出た。
フェイントだ!
一気に距離が詰まったためにミランダの反応が遅れる。
イザベラさんが上段から振り下ろした
「ぐっ!」
ミランダの動きがわずかに止まったのをイザベラさんは見逃さなかった。
イザベラさんはそのままミランダの
イザベラさんより身長と体格で
「くうっ!」
何とか空中で態勢を立て直して着地するミランダだけど、イザベラさんには十分な時間を与えてしまった。
「
イザベラさんの体が
身体能力を飛躍的にアップさせる彼女の下位スキルだ。
「気をつけて! ミランダ!」
「分かってるわよ」
ミランダは立ち上がり、二度三度と素早く
さっきのイザベラさんの攻撃によるダメージはそれほど大きくないけれど、この先はそうはいかない。
一瞬でも
「では、全力全開で参ります。すぐ死なないで下さいね」
そう言って不敵に笑うと、イザベラさんはミランダに向かって猛然と駆け出す。
は、速いっ!
一歩地面を蹴るごとにものすごい速度で距離を縮めたイザベラさんは、ほとんど一瞬でミランダの眼前に迫った。
「ハァァァァァァッ!」
ミランダは防戦一方に追い込まれていく。
そしてついにイザベラさんの鋭い一撃を受け切れずに、ミランダの
まずいっ!
「胴がガラあきですわよっ!」
そこにイザベラさんは
だけど……宙を舞ったはずの
「うぐっ!」
「胴がガラあきなのはアンタよ」
そう言うとミランダは落ちてきた
「かはっ!」
「もう一丁!」
立て続けにミランダは短く持った
イザベラさんは後方に飛ばされて、たまらずにダウンする。
や、やった……でもどうして
そのことに僕はすぐに気が付いた。
よく見るとミランダの腕に黒い
それは
そ、そうか。
弾き飛ばされたと思った
その
もしかして
前にジェネットが言っていたミランダの強さはこれだ。
戦いの中で戦況に応じて臨機応変にアイデア豊富な戦い方ができるのがミランダのすごいところなんだ。
「フンッ。ドーピングしたくらいでいい気にならないことね。すぐ死なないで下さい? そんなもんじゃこの私はへし折れないわよ!」
ミランダは
起き上がったイザベラさんの
そのライフが残り80%を切るほどまで減少していた。
もしイザベラさんが
「……さすがミランダ。ただ速くてただ強いだけじゃ、あなたには勝てないようですね」
イザベラさんはニッと笑みを浮かべ、もう一度仕切り直しとばかりに
ミランダは油断なくイザベラさんを見据えると、大きく息を吐いて次の一手に備えた。
互いの殺意をぶつけ合うような戦いの序曲が終わり、壮絶な戦いは中盤に差し掛かろうとしていた。
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