第6話 紅の鷹
一気に大きなダメージを受けたせいで僕の意識レベルが
ブレイディを逃がさないといけないのに。
気を失っている場合じゃないのに。
僕は必死に自分の意識を暗闇の奈落から引っ張り上げようとした……その時。
「ぬうっ! な、なにっ?」
聞こえてきたのはバサバサとすぐ身近で鳥が羽ばたく音と、
な、何だ?
僕が目を開けると、目の前に真っ赤な羽をした
あ、あれ?
もしかしてブレイディがまた変身したのか?
逃げたはずじゃ……。
左の太ももにナイフが刺さったままの僕は立っていられずにその場にへたり込む。
激しい痛みは強くなりすぎたせいで感覚が鈍り、鈍痛に
い、今だ。
僕が四つん
「あの
そう言って僕を引っ張ってくれたのはブレイディだった。
彼女は素早く僕に回復ドリンクを飲ませると、何も言わずにサッと僕の左足からナイフを引き抜いた。
「あぐうっ!」
思わず苦痛の声を上げる僕だけど、彼女はテキパキとした動きで僕の傷ついた両足に止血用の包帯を巻いてくれる。
「
彼女は神妙な面持ちでそう言う。
「ブ、ブレイディ……どうして逃げなかったの?」
「言っただろう? 君を見捨てて逃げたら後でジェネットに大目玉を食らうこと確定だからね。それに……あの
そう言うとブレイディは赤い羽の
彼女の言う通り、
ブレイディの薬を飲んだ誰か?
「っぷはぁっ!」
現れたその人物は大きく息を吐きながら地面に降り立って
赤い髪にオレンジ色の瞳、そして
その姿に僕は思わず声を上げた。
「ええっ?」
背が高くて、手足は筋肉で引き締まり、豊満で重そうな胸をものともせずに背すじを伸ばして
僕は歓喜の思いを込めて彼女の名を呼んだ。
「ヴィ……ヴィクトリア!」
そこに現れたのはつい先日、行動を共にしたばかりの長身女戦士ヴィクトリアだったんだ。
「よう。アルフレッド。また会ったな」
ヴィクトリアはそう言うと
危ない!
「フンッ!」
だけどヴィクトリアは目にも止まらぬ早さで腰帯から引き抜いた
衝撃で真っ二つに割れたナイフが、カラカラと音を立てて床に落ちる。
す、すごい。
あの至近距離からのナイフをほとんど目視せずに弾き落とすヴィクトリアの技量にボクは舌を巻いた。
「ナメんなよ? そんなナマクラでアタシに傷ひとつでもつけられると思ってんのか」
悪魔に向かってそう言うとヴィクトリアは
そして僕に背を向けたまま彼女は言う。
「アルフレッド。色々とアタシに聞きたいこともあるだろうけど、とりあえず話は後だ。このガリガリ悪魔野郎を叩きのめす」
そう言うとヴィクトリアは斧を振り上げて猛然と
体格も武器の大きさもヴィクトリアの方がはるかに上なのに、
「うおらぁぁぁっ!」
ヴィクトリアは
まともに浴びたら体を真っ二つにされてしまいそうな一撃を、
素早さでは
「フンッ!」
そしてすぐさま腰帯から小ぶりな手斧である
だけど力ならヴィクトリアのほうが段違いに強かった。
「グゲエッ!」
よしっ!
ヴィクトリアの強さは相変わらず安定していた。
接近戦では不利と察したのか、
あの
「こざかしいんだよ!」
ヴィクトリアは
素早さではやはり
「チョコマカ逃げてんじゃねえ!」
ヴィクトリアは怒声を上げながら2本の手斧・
それでも
な、何て素早さだ。
でも……ヴィクトリアは冷静さを失っていなかった。
「そろそろだな」
彼女がそう言うと、それまで華麗に跳躍して
そして下から何かに足を引っ張られるかのようにして地面に落下した。
「ぐうっ!」
その時になって僕は初めて気が付いた。
何かが
それは時折、光の反射で見える程度の透明のワイヤーだった。
そしてヴィクトリアの投げた
もしかして……。
「
ヴィクトリアはそう叫ぶと
途端に
やっぱりそうか。
ヴィクトリアはたった1日会わないうちに進歩していた。
「おまえのマネだよ。アルフレッド。アタシも戦闘に役立つようなアイテムを買うことにしたんだよっと!」
そう言いながらヴィクトリアは一気に
だけどそこで唐突に僕の隣にいるブレイディが叫んだんだ。
「殺さずに生け捕ってくれないか!」
それを聞いたヴィクトリアは
「グェアッ!」
「この距離でアタシから主導権を奪えるつもりか? おもしれえ」
そう言うとヴィクトリアは
あ、あんなに至近距離まで近づいて大丈夫なのか?
心配する僕をよそにヴィクトリアは
だけどその時、
な、何だ?
観念したのか?
次の瞬間、
そしてその体から何か鋭利なものが四方八方に飛び散ったんだ。
「ヴィクトリア!」
当然、
周囲の壁に突き立ったそれを見て僕は背すじが寒くなるのを感じた。
それは長さ20センチはあろうかという黒い針だった。
それだけでなく、針は薄気味悪い緑色の液体で濡れていて、明らかに毒針の類だと思われた。
そして僕とブレイディがその針を浴びずに済んだのは、ヴィクトリアが身を
「ヴィクトリアァァァァ!」
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