第4話 天空の逃走劇
ブレイディの薬の効果が時間切れとなって僕は人間の姿に戻った。
「うわああああっ!」
ドンッと勢いよく
だけど即座に起き上がるとブレイディを背にして
こ、困った。
悪漢から女子を守る格好良いシチュエーションだけど、この先どうすればいいのかノープランだよ。
突き飛ばされた
お、怒ってるかな。
怒ってるよね?
いきなり現れた僕に
「鳥が……。なるほど。貴様らは鳥に化けて侵入したわけか」
そう言うと
僕の背後からブレイディの押し殺したような声が聞こえてくる。
「ま、間の悪い男だな。君は。ネタバレじゃないか」
いや、間の悪いのは薬のせいだと思いますけど。
けど今はそんなことを言っている場合じゃない。
僕は武器を何も持っていないし、戦う手段がないという点においてはブレイディと何ら変わりない。
まあ、たとえ武器があっても悪魔を相手に勝てる気はしないけれど。
だけどそれはここで悪魔に立ち向かわない理由にはならない。
「ブレイディ。たぶん僕はアイツに刺されて死ぬけれど、その
「ほう。勇ましいじゃないか。ヘタレ男だと聞いていたのに。まるでイケメンのようだ」
「ま、まあヘタレ男でも男だからね。君を盾にしたなんて言ったら、ジェネット達に会わせる顔がないよ」
小声で言葉を交わす僕らに
「逃げ出す算段か? 無駄だ。絶対に逃がさん」
そう言うと
あっという間に間合いを詰められ僕が身構える間もなく息を飲んだその時だった。
「これでも食らえっ!」
僕の背後から飛び出したブレイディがそう言って
それは真っ白な液体の入った試験官だった。
試験管は突進してくる
途端に真っ白な凍気が吹き出して、
「ううっ!」
さすがにあれではすぐに動けないだろう。
「瞬間凍結薬だよ。さあ逃げよう!」
そう言うやいなやブレイディは僕の手をガッと取って走り出した。
そして転げ込むようにして最初の曲がり角を曲がると、間一髪で今まさに僕らが曲がった角をナイフが飛び去る。
僕らを逃すまいと
「あ、危なかった……」
「逃げるが勝ちさ。アルフレッド君。そして逃げるときは一緒だ。ワタシだって君を見捨てて自分だけ逃げ帰ったりしたらシスター・ジェネットに大目玉を食らうんだ」
「あ、ありがとう。ブレイディ」
「どういたしまして。とにかくどこか身を隠せるところに隠れないと」
僕らは立ち上がると再び走り出した。
だけどこの場所に僕らに危害を加えようとする奴がいることが分かった以上、今のままじゃ危険すぎる。
もちろん逃げられるなら逃げるのが上策だろう。
でも必ず逃げ切れる保証なんてない。
丸腰のままだともし捕まった時に何も出来ないんだ。
だから……とにかく武器を!
走りながら僕は必死に念じた。
Eライフル。
来いっ!
僕の手元に帰って来い!
帰巣機能があるというEライフルを僕は呼び寄せようとした。
だけどしばらく走り続けていても、Eライフルが戻って来る気配はない。
「あ、あれ?」
僕は手応えのなさを感じて、走りながら眉根を寄せた。
事前に天樹の闘技場で射撃訓練を行った時に、Eライフルを少し離れた場所から呼び寄せる練習もしたんだ。
その時は手の中に即座に戻ってきてくれたんだけど……。
Eライフルは今、遠く離れた地上の天樹の中にあるはずだ。
もしかして遠い場所にあると時間がかかるのかな。
僕は
「くそっ。早く来てくれ。Eライフル」
それを聞いたブレイディは再び僕を建物の陰に引っ張り込むとしゃがみ込んだ。
つられて僕もしゃがむ。
ブレイディは苦しげに息を切らしながら言った。
「はぁ……はぁ。す、少し休憩しよう。文科系のワタシには持久走は向いてないな。と、鳥の時と違って人の姿で走ると疲れるね。日頃の運動不足がたたってるよ。ふひぃ」
そう言うとブレイディは肩で息をしながら少しずつ呼吸を落ち着ける。
「ところでアルフレッド君。もしかして武器を手元に呼び寄せようとしているのかい? それは無理だよ」
「え? どうして?」
驚く僕にブレイディは肩をすくめて言う。
「忘れたのかい? ここは隔絶された裏の世界なんだ。あの雲を抜けた時から表の世界とは繋がれない。ワタシも現時点では外部と通信することは出来ないんだ。もちろん君が頭から発した指令は表の世界にある武器には届かないだろう」
「そ、そうか……いや待てよ。表の世界なら武器を呼び寄せることが出来るってことだよね。だったらあの表の世界との境界線に行けば……」
僕は不意にそのことを思い出した。
ブレイディも
「そうだね。あそこまで行って一瞬でも向こう側に出られれば武器を呼び寄せることが出来るかもしれない」
「というかそこからそのまま逃げて天使たちに助けてもらったほうが……」
「そりゃ空き巣が警備兵に助けを求めるようなもんだ。ワタシらは不法侵入者だということを忘れないでくれよ」
そ、そうだった。
悪魔に狙われてピンチになっているせいで、天使に見つかったらヤバいことを忘れてたよ。
くそぉ。
善人にも悪人にも狙われる状況か辛すぎる。
「とにかくあの境界線のある区画まで走ろう。あの
そう言ったブレイディのメガネに光が反射した。
何かがすぐ鼻先で
「うわっ!」
それは頭上から降り注いだナイフだった。
ナイフは
ブレイディは青ざめた顔で悲鳴を上げた。
「うひいっ! ビ、ビックリしたぁ!」
僕は振り返るとブレイディを背にして頭上を見上げた。
3階建ての建物屋上から僕を見下ろしていたのは、ブレイディの凍結薬によって動きを止められていたはずの
「ミスター・デビルの奴、もう追い付いてきたのか。凍結薬の効果が思ったより短くて残念だよ」
後ろからブレイディが残念そうにそう言った。
背を向けて逃げ出そうものなら、すぐに後ろからナイフが飛んできてブスリだ。
僕は
「例の区画まで走れば1分くらいかな」
「まあ2分はかからないだろう。あの悪魔がそのくらいの時間、氷漬けにされてくれれば楽にたどり着けるんだけどね」
そう都合よくはいかない。
さっきの凍結薬で相手もブレイディの持つアイテムを警戒しているはずだ。
そのせいか
不意討ちは二度は通じないだろう。
僕らは
「さっきは助かったよ。アルフレッド君のおかげで串刺しを免れた。感謝する」
そう言ったブレイディが後ろでガソゴソと何かを取り出している。
僕は後ろを振り返ることはしなかった。
なぜなら
な、何とかこの場から逃げ出さないと。
幸いにしてここは多くの建物に囲まれた路地だから、隠れる場所には事欠かない。
「ブレイディ。とにかく身を隠しながら少しずつ例の区画に近づこう。一番身近な建物の入口は……ブレイディ?」
ブレイディからの返事はない。
代わりに突然、何かヌメッとしたものが
「ひゃっ!」
反射的に後ろを振り返ってしまった僕の体に、太くて長い縄状の何かが巻きついてきた。
僕は即座に理解した。
ブレイディがまた薬液を飲んで何かに変身したんだと。
見ると僕の体に絡み付いていたのは大きな……
い、いや……その長い体は背中側が黒っぽくて腹側が銀色だ。
「ウナギだよ」
得意げにそう言ったのは、僕が両腕を広げても胴を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます