#026:絢爛だな!(あるいは、超級!モノトぅン=カタぅトロフ)


「「「……『発現エスプレしようねっ』」」」


 三人娘との問答無用の戦いが始まろうとしている……彼我距離:左・前・右それぞれ10mくらいまでゆるゆると詰められてから、三者が示し合わせたように左腕を体前面で水平に掲げると、例の「腕輪バングル」から例の「手札カード」がじゃきと出て来るのだが。


 ワケ分からない掛け声と共に、その右手に摘ままれ流れるようにこちらに突き出されたカードは、「光」の奔流となって彼女らの手の中で「変形」していく。


「『発現:三節棍:60ビョゥン』」

「同じく『二節棍』:60ビョゥン

「……『四節棍』:60ビョゥン


 一瞬後、水色の光が収まった時には、少女たちの両手にはそれぞれ得物と思しきものが現出していたのだが、いやいやいや、ヌンチャク系ばかりだね。4つに分かれてるのは初めて見るしね。なぜにその選択チョイスなんだ?


「……『発現』ッ!!」


 とか、もういちいち驚いたり疑問を浮かべるのはやめだッ!! 異世界の流儀は常に俺の想像の斜め上、それだけを肝に銘じてただただ現況を打破するだけだぜ……(ケレンミー♪)


 俺には何故かカードを収納・選択射出できる便利そうな「腕輪バングル」は供給されておらんかったので、身に纏った「漆黒マント」の懐からカードの束を剥き身で取り出すと、えーとどれだどれだ……とか必死こいてめくりつつ、最適と思われる一枚を選び出し、見様見真似で「顕現」させてみる。


「……『聖剣エクス×カリバー』ッ!!」


 これだ、現れ出でたのは複雑かつ精巧な紋様が刻まれた、幅広の剣……刀身にレモンイエローっぽい淡い光を纏わせて、雰囲気も威力も充分そうだぜ……こいつで、全員をぶった斬ってやらあッ!!


 ここ一番でいいのを鬼引いてくる……それこそが、この俺の背負いし星なのだから……(ヶしソ三―↓↓)


「……!!」


 三者三様、俺が抜き払った得物せいけんに少しの躊躇を見せて出足が止まった……やはりこいつの威力はハンパないってことか。「SR」と書いてあったし、なかなかのレアものなのだろう……


「うおらぁッ!!」


 雄叫び一発、まずは頭上に振りかぶった剣を眼前に叩きつけるようにして斬り下ろす。途端にその剣から何かはよく分からないが、弧を描く「光」の「斬撃波」のようなものが射出されていく。いいなこれ。こういうのが普通の異世界だろうて。


 そんな、少し勢いづいて真っ当なる異世界を自ら望み、そして正統な力を行使しようとしてしまった。それがいけなかった……


 向かって左、紫髪のサ=エが剣先を紙一重で避け、後ろに跳躍する……やっぱ踏み込み甘かったか、けどこんな物騒なもん振り回すのは初めてだし、見た目少女をリアルに刃物で斬るっていうのもどうかと思うしな……この沸いて出て来てる「黄色い光」を当てて吹っ飛ばす程度に留めておいた方がのちのち目覚めはいいだろう……


 そんな甘い思考を、揺さぶるかのような光景が、展開した……ッ!!


「きゃっ、ど、どこ見てんのよ変態ッ!!」(ツンデレー♪)


 先述の通り、三人娘はそれぞれ背徳感をまとわりつかせたかのような、「漆黒のJK制服」を身に着けているのだが、サ=エの結構な丈の短さのスカートが、風を巻き孕んで、ふわりめくれ上がったのである……ッ


「……スノゥワィトゥ……ワィトゥ……ワィトゥ……」


 思わず口からネイティブ並みの発音で漏れ出て反響してしまった。黒一色の世界に力強く咲いた、たったひとつの雪割草……その紫女の肌も「雪のような」と形容できそうなほど白かったものの、その滑らかに艶めく薄いベージュのむっちりとした肉感に挟まれるようにして息づき鎮座していたのは、周りのそれらを凌駕するばかりのデルタ・オブジ・ホワイト……その逆三角形が、俺の網膜に鮮烈に突き刺さってきていた……ッ


「!!」


 と同時くらいに、俺の右膝に痛撃が。野郎ッ、正面方向からだ!! 意識を何とか現世へと引き戻すと、「四節棍」とか言ってやがった三人の中では射程距離が長そうな得物を振り投げるようにして俺に見舞ってきた、正面の黄緑女アロナ=コへ正対しつつ、再び「剣撃」を撃ち放とうとするものの。


はな色……」


 またもピアノ線とかで操ってんじゃねえの的ドンピタのタイミングで、その黒一色と思われた渓谷に、白い一輪の花が咲いた……


「!!」


 いかんいかん、また意識をさっくりと持っていかれている。額から生えた猫首ネコルからは、断続的にエェ……というような呆れを通り越したような空気の漏れ出る音が聴こえているが、大丈夫、俺はやれるはずッ!! 気を取り直し右から迫って来た茶色女ミロ=カに対して、今度こそ本当にだが、剣撃を喰らわせようとする。しかし、


緋色スカーレット……」


 呆けたような声が自分の意思とは無関係に出てしまう。白、白、と来たから次もだろ、とか思ってそれに視神経を備えていた、その正にの間隙を突かれたかたちとなってしまった……ッ!!


 あかん状況。しかし計三発、無防備な箇所にもらってしまった形になったが、不思議とそこまでの痛みは感じていない。


「銀閣さんッ……!! 私が……『痛み』を引き受けているうちに早く……ッ、早く『ケレン味』を発動させて仕留めてください……ッ!!」


 額のらへんから、そんな少し切羽詰まった震え声が。先ほど俺の全身前面(顔だけ出てる状態)にオブラートのように展開していたネコルだが、まさか、その身を挺してダメージを代わりに喰らってくれているとでも……ッ!?


「……」


 急速に頭が冷えて冴えて来た。何やってんだよ、俺は。小娘共の刹那御開帳チラリズムなんぞに、心と目線を奪われている場合じゃねえ……


「……現世の、偽にまみれたビジョンより意識を切り離し……しんなるで、真実を貫くッ!!」(ケレンミー♪)


 目を閉じ、相手の気配を肌で感じる。これならば……ッ、やつらの三位一体デルタ逆三角形攻撃デルタアタック無効化キャンセル出来るッ!!


 再び三方から囲まれていた俺だが、自らの「心眼」力と、手にした「剣」の威力を信じて、真っ向へと踏み込んでいく。対するは、弾かれたら隙を晒しそうな武器群だ。お前らの「棍」をすべて受け止め、返す刀で斬ってやるッ!!


「ハッ!!」


 気合一発、まずは動作を見せた「右」の「二節棍ヌンチャク」を刀身で薙ぎ受け……(ネコル註:この瞬間、『左』の三節棍による、頭頂部への激しい殴打があった模様)


 続いて暗黒の視界の端で動いた「左」の一撃を相手の力をいなしつつ受け流し……(ネコル註:そして『中央』の四節棍による、側頭部を挟み込むような痛烈な一撃を浴び)


 最後、真正面から突き出された両手もろての撃の間隙を突き、正眼から瞬息の閃き……ッ(ネコル註:とどめは『右』からの、いま再びの頭頂部クリティカルヒットェ……)


 完璧な捌きを見せたかに思われたが、急激に暗かった視界が狭くにじむような白に染められていくと、剣を構えた状態のまま、どうと前に倒れ伏してしまう俺。何が……起こったッ? まさか……ッ!!


ギン「……これは、『見てないのに見えない一撃』……ッ!? そんなものがあると……は……ぬ、ぬかったわ……」


ネコ「いや普通フッツーに時間差で殴られてましたけどッ!? このポンコツッ!! ポンコツぅぅうッ!!」


 もはやおなじみとなった叱責の猫声が、四角く黒いジャングルにこだましていく……


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