#027:応変だな!(あるいは、間違いだらけの/ほんとの自分探し隊)


 初動ファーストインプレッション最悪から始まる、奇跡の物語っていうのもあるよね(あるよね)……


 朦朧とする意識の中、さらにの朦朧へといざなうかのような、そんな浅薄極まりない言葉が響き渡る……


 走馬燈のようにフラッシュバックするとかよく言うけど、本物の走馬燈って実際に見たことないよね(ないよね)……


 打ちどころが悪かったのか、入りどころが良かったのか、意識を根っこから刈り取るかのような衝撃は、俺に何の益ももたらさないような、そんな思考を擦りつけるようにして押し付けてきやがるばかりなのであった……


 だが、その思いも寄らなかった衝撃が、俺の大脳の奥底に沈め塗り込んで表層オモテに出て来ないようにしていた数々の「記憶」たちを、はらはらと花弁がごとく、いや、風呂の配管に詰まっていた湯垢がごとく、意識という水中にぶもりと舞い降り散らせてもきやがったのである……


 夕焼けというか西日が直に突き刺さる四畳半。結構な近場を、レールの継ぎ目ごとに腹に響く音を打ち付けながら、特急がうなりを上げて轟と走り行く。絵に描いたような、貧乏アパートでの、ゆとりの無い生活。半額惣菜のプラトレーがそのまま軋むちゃぶ台に供される夕餉。甲類焼酎グラス一杯で真っ赤になる燃費のいい親父が、その時だけ見せる磊落さ、物心はついてたはずだが、何故か顔も声も覚えていない母親の、一枚だけ残っていた写真に映った、遠くにぽつり霞む江の島をバックに波打ち際で尻餅ついて顔を歪めている俺へ、屈んで手を差し伸べている濃い朱色の水着の後ろ姿……


 ……本当に、走馬燈みてえじゃねえか。


 いやいやいや、死にかけてる場合じゃねえ。そもそも一回は死んだか死にかけて「転生」したかの俺だろうが。いまひとたびのデジャブ行動をしてどうする。


 異世界とは言え、もう一度つかんだ命。いや人生。今度こそ真っ当に全うしてえじゃねえかよ。それに。


 いまが正に「戦い」の時。「人生は闘い」とか、そんな風にはとんと思えなかった現代日本ぜんせいであったものの、一回終わってしまった今なら分かる。


 人生は、戦いだったってことを。


 前世の俺はそれを理解してなかった。いや、理解しようとすることを放棄していた。ただただ諦めて、手放して、それでも全然平気ですよ、みたいなツラで、斜に構えて背中丸めてただ歩いてただけに過ぎねえ。いろんな大切なものを、見て見ないふりをしながら。


 平凡だが平坦で平穏な、ケレン味の欠片カケラも無い人生を、ただ歩いてただけに過ぎねえよ。そんなのは断じて、人生なんかじゃあねえッ!!


「……ぉぉぉおおおおおおおおおッ!!!」


 腹の底の底から、そんな音が響いてくるみたいだった。前世の俺が、心の奥底で欲してたもの/望んでいたもの、それが「ケレン味」というものなのかも知れない。


 ちょいと目立ったことでもしようものなら、大して出てもいねえのに全力でめり込むまで寄ってたかってぶっ叩かれるが今の世の常であるにせよ。


 だが、だがだ。それにブルって、てめえの人生の指し手を、可能性を狭めちまうってのは、考えるまでも無え、はっきりの「悪手」だろうがよ……(ケレンミー♪)


 「ケレン味」、それは世間に対して、世界に対して。愚直に真っ向から立ち向かっていってやるっつう、気概と覚悟が込められた魂の、決意表明……ッ!!


「ああああああああああッ!!!」


 俺の思う魂の在り方……俺に無かった、俺が欲しかった、魂の金看板なんだろうがよ……ッ!!(ケレンミー♪)


「ネコルッ!!」


 叫びと共に覚醒した俺は、自分の身体がうつぶせ状態のまま地面から2mくらいの所に跳躍していることを悟る。猫首ネコル気絶しオチていた俺を操って、三人娘からの攻撃から躱し避けてくれてたんだろう。助かったぜ。ありがとよ……


「やっぱりオメェは……最高のパートナーだぜィッ!!」(ネエケツー↓)


 胸のど真ん中に、どでかい風穴が開いて、そこを清浄な風が吹き渡っているような気分だぜ……何かに覚醒した、そんな感がある。「ケレン味」を真っすぐ、撃ち放てそうな、そんな気分。自分の目標とするものに向けて、ど真っすぐなベクトルでぶっ飛べるかのような、そんな感覚……これが、これこそがネコルの言う「全能」なのかも知れねえ……


ネコ「あっるぇ~、逐一心の声が漏れ聞こえてはきているんだけれど、頭強めに打ったせいか、なんか、間違った方向の『ケレン味』? って言うか間違った『精神ベクトル』に進み始めてる気がするよ怖いよぅッ!!」


ギン「心配するねい、猫の字よぅ……こちとらあの『頭蓋を揺らす連撃』でどうやら完全に目覚めっちまったらしいんでいっ!! 真っすぐに……モノが見えるぜちくしょうてやんでい……この世のありとあらゆるものが、ありしままにぃぃぃぃがってんッ!!」


ネコ「いやいやいやいや!! それ多分間違ってると思いますよ!? だって不自然なほどに江戸前に染まってきてますもんッ!! ダメだと思いますいやダメですよ銀閣さんッ!? その衝動に従ったらきっと大ケガすること必至ですってば!!」


ギン「……もう他人の、世間の顔色窺って委縮しちまうような人生はやめだ……俺は俺の思うがままにッ!! 思い描く理想のッ!! 希望のッ!! 旅路へとただ歩み出すだけだぜ……」(ケレンミー?)


ネコ「聞いてなはぁぁぁい、いや、でも合ってんのかなあ……? うううん合ってないような気もするけど、一概に否定も出来ないような……んでも、この窮地を脱するには、今のこの突拍子も無さそうな人格メンタルに乗るほかないのかも……うううううぅぅん、結構な賭けギャンブルっぽいけどもういいか!! いっちゃえッ!! やっちゃえもうッ!! 私は知ィらないっとぉッ!!」


 投げやりかに聞こえるオマエの言葉だが、それが精一杯の照れ隠しなんだってこと、この俺は知ってるぜ……?


 うううううううううん……と唸るばかりになった額から伸びる猫首。だが安心しろ。ありのままの自分テメエをぶつければ、おのずと道が開けるってこと、この俺はもう脊髄あたりで理解を終えてるんだからよう……(ネエケツー↓)


「おおおおおおおおおッ!!」


 いまひとたびの、腹からの雄叫び。三方向にばらけていた三人娘が、少し慄いたのを肌で感じ取れた。窮地からの逆転、それは正にいま、この瞬間しか無えッ!!


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