#024:鮮烈だな!(あるいは、対局/対極/待機よく)


 ……円卓にもう乗らねえよくらいにどんどんと供されるこってり敵キャラの出現に、この奇天烈な「世界」においては、日常パートこそが貴重なるものであるということを、遅ればせながら認識させられるのだが。空はどこまでも抜けるように青く冴え、地平の先まで広がる緑の草原の上を、心地よい冷たさの風が渡って来ているというのに。


 ……場に流れるのは重力と湿度を多分に孕んだかのような、不快指数という概念を当てはめるのもおこがましいほどの、混沌カオスぎっしりの確かなやばみという名の粒子群……「異形なる世界」の略称としての「異世界」であるならば、これほどまでに当てはまるものはそんじょそこらの他所ヨソにはおそらく見当たら無いだろう……


 いや、意識をしっかりと持て。だが、


 何で「七人衆」とか言ってた輩たちの半分以上に当たる「四人」をもうこの一日で出し切ってしまうん? と、あまり枠組みが定まっていなさそうな「世界」の片隅で虚空を見上げて叫んでしまいそうになる……


「……」


 機械的に名乗りを上げてから以降は、三者共に身じろぎもせず、こちらの反応リアクトを窺うかのように六つの瞳がこちらを見据えているよ……こっちが何らかの応対をするまでは物事の諸々を先には進ませませぬぞ、といったような、何とも言えない剛直なベクトルを感じるよ恐えよ……


 だがこちらが進行させるがための、台詞が如くの血ぃ通って無い言葉を吐いたところで、それに被さり乗っかってまくし立ててくるつもりだろ……判んだぞ異世界テメエらの流儀的なもんは大分俺も感化されてきてるんだからよぅ……だが(だがばっか)、とりあえずはこちらから何か問うてみるほかは無さそうだぜ……しょうがねえ。


「ここ」

<そぁうッッ!! 我らにとっても好機ではあるがその実ッ!! 貴様らがもしこの場を制したのならば、途方も無い見返りがあるということだぁ~はっはっはっはァッ!!>


 いややはり親玉。俺の台詞は二文字以降、とんでもねえ勢いボルテージで跡形も無くかき消されてしまいやがったよほらなェ……


「騙されないでください銀閣さんっ、ヤツの甘言にはッ!!」


 ネコルもそれに乗っかるかのような高ボルテージでそう注意を促してくるものの、いやまあ騙されるも何も皆目信用しちゃあいねえんだが。


「『見返り』……だと?」


 だがそれでも聞いてしまった。聞けとばかりにクズミィ神の妖しい瞳がこちらを画像越しに見据えてきていた、それに引き込まれてしまったからかも知れねえ。予想以上にやばいなこいつとまともに相対することは……


「……我が居城へとつながる、『ゲィト』をこの場に発生させてやろうということだえ……すなわち無理めな強行軍から解放され、何であれば、異世界キャッキャウフフ生活ライフの片鱗でも味わえるかもな、お得満載『見返り』……乗らない手はないと思うんだがえ……?」


 粘り付く口調は相変わらずだったが、その言葉のひとつひとつが俺の琴線を震わせてくるのも確かだったわけで。「門」来たよ、とか思いつつも、「何とか生活ライフ」だとぅッ!? 砂を噛むような青春アオハルを送ってきてきた俺にとって、その言葉は何よりも精神の芯辺りを強烈に揺さぶってきやがる……


「だからッ、騙されないッ!! 甘言にィッ!!」


 ネコルの強めの諫め声に、いかんいかんと大仰に首を振って我に返る。冷静に考えると、「3対1」。いくら「無敵能力」を保有する俺とて、万が一どころか十に三つくらい、負けを喫することありそうな戦力差だ。それプラス、ハッタリかどうかは定かでは無えが、「致命的弱点」云々言われていることも気にかかる。


 だが(何回目だろう……)。だがだ……ッ!!


「……弱点を知られたからと言って、尻尾巻いて逃げるほど、俺も、俺の「能力」もヤワじゃあねえんだよ……それに喧嘩に法則ルールは無え。例え三人がかりで来ようが、俺には俺の戦い方ってやつがあるんだぜ……」(ケレンミー♪)


 しかし、だった……(『しかし』は初めて!)


「そ、そんな風に気張ったって、別にかっこいいとか、そんなコト思うはずないんだからねッ!! 自惚れないでよッ!?」(ツンデレー♪)


 被せるかのように、「三人娘」のうちのひとり、グラデーションかかった真紫まむらさきのショートボブを揺らす、これまた線の細いが出るとこ出てる(こればっかだな!!)、二十代前半くらいだろう、瑞々しい肌質の、気の強そうな顔の女が、よう分からんテンションの言葉群を投げかけてくるのだ↑が→。


 うううぅん、もう滅んだかと思い込んでいたが、どっこい細々と生存していたとわ……間近で感じる「希少種ツンデレ」には、いまやどのフィクションでもお目にかかれないような、正にの希少感を感じるものの。


 何か、出鼻を挫かれたというか、俺の力が吸い取られたかのような、そんな不完全燃焼感をも脊髄が感知してやがる……まさか、「ケレン味」を無力化するとか……そんなことあるのか? だとしたら混沌カオスに過ぎんだろうがよぉ……


<アンタの『謎能力』。それと真逆のベクトルをぶつけることによって、無効化キャンセルするって寸法よぉ。ここまでガチ嵌まるとは思ってもなかったけどだえ……念のため、ブッ飛んだ手駒も手持ちに入れておいて良かったな、ていう件>


 クズミィ神は上空にその巨大なビジョンを浮かばせたまま、そう高笑いをカマしてくるものの、「ケレン味」の真逆が「ツンデレ」って、どこをどうやったら成り立つのか見当もつかない法則ルールを突きつけられて、真顔になる他ない俺がいる……


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