#023:濃厚だな!(あるいは、三位一体/絶花/クイーンofクイーンズ)


 見渡すばかりの草原地帯に、徐々にきらめく陽が上りつつあるという、見た目穏やか/のどかな風景に、


<んねゃあァ~ッはっはっは!! んぬぃぇあぁ~はっはっはっはァッ!!>


 場違い感この上ないほどの、口腔内が異常にねちゃついてでもいるのかと思わせるほどの、粘着質かつ不気味な女の笑い声がこだましたのであった……


 割ともう何でもありになってきたというか、思い返してみれば超初期からそんな感じであったから、まあこれが平常運転なのだろうと特にメンタルを揺さぶられることもなく、俺は走り出そうとした態勢を改めると、遥か天空から降り落ちてきたかのように思えたその「声」の出どころを探ろうと上空らへんに目をやる。


「……お前はッ」


 と、足元からあまり聞かない感じの張りつめた猫声が。こうまでこいつが敵意を剥き出しにするってことは……と、脳内で答えを出す前に、上空の青空にいきなり濃ゆい尊顔が大写しとなったわけで。


<んでゃあ~はっはっはっは、我が眷属を二人も破るとは、なるほどその未知なる能力ってのは結構なものなのだえ……>


 ひと目、前衛的に過ぎる芸術アートを見せられているのかと思った。が、その油彩絵具をz軸方向にも濃密に塗りこめたかに見える「顔」は、文字通りの破顔の表情を呈してくるのであって。だが陰影がくっきりとし過ぎて、動く絵画のような不気味さを醸し出してきてやがるよ根源的に怖えよ……


<ショボ猫ちゃんが、いろんな『世界』で死体漁りしてたかと思ったら、とんでもないのを引いてきたねえ……運だけはやっぱ、無駄にあるわけかい……この私の首を狙ってきてるっていうのは、満更世迷言でも無いような雰囲気だえ……>


 唐突に現れやがったな。まさかそっちから(ビジョンでとはいえ)出張ってくるとは思わなかったぜ……


 深緑色の、四方に張り出したモールのような質感の髪。そこから垣間見える切れ長の瞳は、妖しい深紅の光を湛えている……そしてど紫に彩られた薄い唇……色彩感覚はやはり俺の予想外ではあったが……


 こいつが、こいつこそが、「敵」の親玉、クズミィ神とやらのはずだ。紅白のトリを務められそうな、そんな盛り盛りでさらに威圧感をも見る側に与えて来る漆黒のドレスを身に纏っている……「映像」を通しても、その何とも言えない迫力は、この場にも伝わってきてやがる。見た目は妙齢の、おそらくまたすっぴんになりゃあかなりのタマなんだろうが、やべえな、外面上もそうだが、その内に秘めた力みてーなのも、この俺には肌から毛穴に侵入してくるみたいに判ってきちまうぜ……


 ちょっとばかし委縮してしまった。いやいかん、とか気を取り直す間も無く、


 ぅおんどれの激ショボ配下の輩どもは、ココーン倒してやっちゃったがべり、つんぎはおどれがば番じゃけにがはぁッ!! と、興奮のあまりなのかどうかは知らんが、どこの郷かは分かりかねる言葉を、怒りに全振りしたかのような激情を見せながら叫ぶネコルの声がこだまする(こだましてばっかりだな……)。だが、


<はっはー、甘いんだよねえ……その、『全知全能』ぶっちゃうとことか、はっきりそれは、『神』だろうと傲慢だっつうの、だからキミはいつまで経ってもダメなんだよなえ……>


 その細い顎に細い指をあてがいながら、クズミィ神は意外に軽い口調(語尾もあまり定まってはいなさそうだが)でそうのたまうのだが。何と言うか余裕だ。だが余裕であしらいつつも、ごくごく自然にマウントを取って来ているかのようにも思える。素っ頓狂な見た目とは真逆に、いけすかねえが芯のある実力者のように思えてきた。


 思い返せば、長髪ロンゲ黒女ジウ=オーも、こいつに心酔してる感あったよな……真っすぐな忠誠心、そんなものを言外に感じてもいた。


 うん……でも何でいまこのタイミングで出てきたんだ?


<尺は稼ぎつつ……彼我距離は少し詰めといた方がのちのち諸々助かるんじゃないかっていう……『神推測』>


 ……ッ!? 俺の心を読んだかのように、そのような温度の無い言葉がクズミィ神から紡ぎ出されてくるが……


<……前言撤回。率直に言うと、そこのキミの『能力』、それの『致命的弱点』が分かっちゃったから、わたし采配で、さくりと葬ってやろうっていう、その方が時間とかかからなくていいよねっていう、そんな感じ……>


 にやり、と本当に音がしそうなほどのにやり顔をしながら、クズミィ神が言う……何…だと?


「ハッタリですよ銀閣さんッ!! この女神ハッゲに、無敵の『ケレンミック=パゥワァー』のことなどッ!! 毛ほども判ろうはずなんて無いんですからッ!!」(ネコソミー♡)


 ネコルのピーキーに過ぎる言葉にも、何…だと?感は否めなかったものの、俺も自分の「力」にはもうある程度の信頼は寄せているわけで、その「致命的弱点」だと? ……そんなのは信じられねえし、認めたくもねえ……


 だが、刹那だった……(「だが」を入れて新鮮感を醸す、上級テクですぞ!


<『ケレンミ』に対抗できうるのは……こちらの『希少属性』であるということを……先ほどのジウっ子の戦いを見てて確信した……いでよッ!! 『猟奇ビザール三姉妹トリプレッツ』……>


 俺の逡巡はいつもながら無視され、場は展開の歯車をこれでもかとメキメキ音を立てるほどに回転させてくるのであった……いつの間にだろうか、俺の目の前10mほど先に三つの人影が、多分にキメ感を伴った姿勢ポーズで出を待っていたのだ↑が→。


「『減紫けしむらさき』の、サナサ=エクゥガなんだからねッ!!」(ツンデレー♪)


「同じく……『柿渋かきしぶ』の、ホミロ=カオゥ:トォクトォ」(クゥデレー♪)


「『麹塵きくじん』聞くじん? ガラクネスト:アロナ=コ:フゥゾなんだったりして……エヘ☆スバリスッ!!」(ヤンデレー♪)


 やっぱりか……三人矢継ぎ早に自己紹介をカマしてきやがったが、やはりここでも「小出し感」などは微塵も存在せず、ただただこちらを満腹まで一気呵成に寄りきろうとする意思が見え隠れするだけの、言うなれば横綱相撲的迫られ方を、またもしてやられているわけであって。


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