#012:円滑だな!(あるいは、ソリッド/謎どう?/何の?)

 黒い立方体の空間に、余韻を持たせたかのような静寂が訪れていた。


 「三番勝負」の二番目は、俺の勝利と認識されたようだ。奴の身体が黒いマントをはためかせながら倒れ込むと同時くらいに、中空に<YOU WIN!!>とのどぎつい赤い「文字」がぱんと現れ出てきたからであり。うん……演出がチープで古すぎるのは猫神ネコルの嗜好によるものなのか……まあいいよ、お前さんの力を貰って、協力して風穴ブチ開けられたんだからよう……(ケレンミー♪)


 決着ケリを、つけてやる。一対一で迎えた最終戦、どの道やるしかねえ。


「ふ、フフフフ……なるほどそれが『謎の力ケレンミ』というわけか……ふはは、だが、そんな反則じみた所業も、もはや通用しないということを思い知らせてやる……!!」


 しこたま殴りつけてやったが、外面そとヅラに似合わず、結構打たれ強いみたいだ。頭を振って立ち直ったかに見える長髪ロンゲが、気丈にもそんな言葉テンプレを、その震える唇(向かって右側は切れていて、左側はどす黒く腫れている)から紡ぎ出すものの。


「『ルール』とは……こういった使い方も出来るのだよ……」


 ニヒル、としか表現しようのない顔で、徐々に自分のペースを取り戻そうとしてやがる……しかしてその一方で両膝は爆笑状態みたいで、生まれたての仔鹿のような足さばきでぎくしゃくと下半身が覚束ないことこの上ねえが。それでも下唇をこれでもかと噛み締めた必死な顔つきで何とか立ち上がってこようとしているよ面白過ぎるよ……


「……」


 その残念な姿にいつもの俺なら爆嘲笑をカマしてやるところなのだが、ネコルの容態も気にかかる。早い目にこいつは畳む必要があるな……でもカードが無え……またネコルに「発行」してもらう他はねえんかな……でも瀕死の奴にまたそんな負荷をかけてもいいもんなんだろうか……みたいな事を考えていた、その時だった。


「『細則発動:相手が先にカードを開示し、その後、自分が選択したカードを出せる』」


 直立不動まで自分を何とか持って来て、ある程度余裕を取り戻したかに見える長髪が、そんな「ルール」を手元の「腕輪」から引き出したカードをこちらに見せつけながら言ってくる。ああ? 何だそいつは?


「『細則サブカード』さ……我がクズミィ神は、鉄壁の構えで『勝ち』を望むお人でねえ……その眷属たる私にも、万が一にも負けは許されないわけなのだよ……ッ!!」


 ほう。諸々のたまってはいるものの、つまりは色々な裏事イカサマをかまそうって、そんだけだろうが。何が「細則」だ。


「『第三戦』は、『魂数字ソウルナンバー』勝負……『1』から『9』までの数字の多寡で決着が付く、非常にシンプルなルールだ……『極光白レジェンド』のような絶対的なものは存在しない……最大の『9』ですら、『1』には屠られる、つまり……」


 余裕げな顔つき。非常に殴りたい。だがこいつの言う通り……


「豊富なストックを持つこの私が、相手の出した『数字』が自分の手番前に分かったとしたら……? 必勝、そういうことになる……」


 ……なのだろう。俺の出来のよろしくない頭にも、そのぐらいは分かった。分かったところでどうしようもないのかも知れねえが。


 要は基本「数字」が上回った方が、腕力その他諸々に関係なく、相手を一方的にどうこう出来るってことだ。それには生半可なことをしても抗えない。そして俺の出し目を的確に潰す「カード」を、野郎は「後出し」出来るってわけだ。さっきは後出し上等とか思っていたが、やっぱ先手は限りなく不利だな……こういうのって後から出す方が逆転で勝つって相場も決まってるもんだしな……


 だが。今の俺は非常に凪いでいる。限界を超えた怒りで逆に凪いでしまっているのだよ……(ケレンミー♪)


「……もとより選択肢はあまり無え人生を送ってきた俺だ……貫くまでだぜ、自分をよぉ……」(ケレンミー♪)


 絵札合わせおあそびは、ここまでだぜ。野郎が何を出そうが、どんなに抗えねえ攻撃をしてこようが、俺は俺で力の限り拳をぶっ放すのみ……(ケレンミー♪)


 刹那、だった……(刹那何回目だろう……)


<ケレンミ完了ッ!! 『超絶カード』転送中……>


 そんなキメ台詞的なものを撃ち放った俺に、地べたに横たえていたネコルから、またもそんな機械っぽい音声が流れ出てくる。あれ? キミは己の状態に関係なく、ケレン味という名の十円玉を投入されたら、カードを射出してくれる存在なの? 何なの? それが神というものなの?


 またしても猫神様ネコルの動態に内心泡を食う俺ではあったが、追い打ちをかけるようにして、カタカタ音と共に猫口から吐き出されてきた「カード」が次の瞬間、糸を引きながら俺の手元に勢いよく飛んで来たのであった。怖ッ!!


 ねっとりとしたものでてらてら光るそれを、俺は気を取り直してあまり触れないようにしつつ印籠が如く奴の眼前に突きつけてやる。選択肢は無え。俺はただ、ネコルから託されたこいつを掲げて、お前をぶちのめすだけだぜぇあッ!!(ケレンミー♪)


「ハハハハハッ、無駄なあがきというのだよそれをッ!! 貴様の出したのは『1』!! 最強の『9』にイレギュラーで勝つ以外は、他の全てに負ける札だぁ……さて……そうなるとこちらの選択肢は豊富だぞ? 『選択肢』というのは、『どのように貴様をいたぶり殺すか』という意味だがなあ……剣で斬るか、斧で断つか、炎で灼くか……ククク、そいつを選ばせてやってもいいぞ? そいつがせめてもの情けだぁ……」


 だいぶ狂気じみた表層キャラに変わってきたな……まあだが、あれあれ? おかしいな、俺の数字が見えていないのかな? ああそうか、俺の「親指」が邪魔をして、「半分」しか見えていなかったのだね……


 「十の位」しか。


 ははははは失敬失敬、と、俺も何故かの壮年ダンディー表層キャラを現出させながら、わざとだったが、突きつけたカードの上に這わしていた親指をどけてやる。そこには、


 <2>……「1」の右隣に「2」……つまり<12>……


「……!?」


 それを見た長髪の喋りも動きも止まる……真顔で。いいね、いい反応リアクトじゃあねーか。

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