#013:面妖だな!(あるいは、覚醒/THE/サンクロス)


ギン「『12』は偶数……俺に徹底的な『割り切り』を与えてくれる数……(ケレンミー♪)」


ユズ「あっるぇ~? ボク一桁だと思ってたずっと!! 何で? 何でそんな数字が出てきちゃうの? 偽造バグ?」


ギン「『十二進法』の国からやって来たこの俺が……『十二の月』の贈り物をお前さんに授け、そしてこの『三番勝負』を四倍程度に濃縮した上で、綺麗に締めくくってやる……」


ユズ「わ、分からない……喋っている言葉は確かに日本語マジョリティーなのに……ッ!! その内包する意味に……永遠に届く気配がしない……」


 既に黄金色の強烈な光を放ち続けるようになっていた俺の、ネコルの「カード」。その輝きにつられるようにして、いま俺は「全能」感みたいなのを感じている。


「……お前さんが札を出さねえ……降りるっつうなら、こっちの切り札エースをオープンさせてもらうぜ?」(ケレンミー♪)


 もはや完全に腰は引け、再び笑い出した両膝を止めることも出来ないまま、長髪ロンゲはその水色の髪の毛に負けずとも劣らないほどに蒼白になった顔を歪めまくるだけだったが。


 ケレン味は無敵。ネコル、お前の言う通りだった。ちょい待っててくれよ? さくりと片付けてからすぐに手当てしてやっからな。


「……!!」


 放心したままで、左腕をそれでも水平位置に保つ長髪だったが、そこから何かタガが外れたかのように大量のカードが射出されてきた。さながらカードの奔流だが。


<8><6><4><5><7>……


 その出目は、俺のを上回ることは無い……永久に。


 紙吹雪くようなカードの舞いがやんだ後に残り横たわったのは、静寂と、厳然たる、勝敗の行く末だったわけで。


「負け……か……私の……くっ、殺せッ!! 卑しくもクズミィ神の眷属に敗北はただの一度たりとも許されんッ!! やれッ!! ひと思いになッ!! それが勝者たる貴様の当然の権利であり義務でもあるッ!!」(ケレンミー♪)


 何だ、意外と潔い奴だったな。狂気走っているものの、据わってぶれなくなったその両目を、その眼力に喰われないように最大限の眼力を宿しながら俺も見返してやる。ぶつかり絡まりあった目線は、何故かふっと来る心地よさも湛えているように思えた。


「……」


「どうしたッ!? さっきのように殴れッ!! それで決着だッ!!」


 先ほどまでは脊髄レベルで殴りたい奴だったが、今は何と言うか、割と拳で語り合える奴だったのかもな、みたいな、ふ、と生前の集団の中のぽつねん感がぶり返し掠めていったりして少し俺は動きを止めてしまうが。


 だが、シメは締めなくてはならない……それがこの「ルール」を司るヤツのさらにの上空に鎮座しているかのような、さらにの「世界の理を司る者」の意であるのならば。


ユズ「ひと思いに右でやれッ!!」


ギン「…… (力無く首を振る)」


ユズ「え? 左?」


ギン「…… (さらに力無く首を振る)」


ユズ「も、もしかしてりょうほぉですか~!?」


ギン「…… (さらにさらに首を振りつつ、力無く、手にしたカードを長髪の眼前に晒す)」


 そこには。


<法則:どついたりしたるねん>


 今の俺の心情とは真逆の十文字もんくが、金色に輝いているのだったが。


「えええッ!? どついええええッ!? しゅ、手段増えてるふぅぅぅぅぅぅぅッ!!」


 ……だが抗うことは奴も俺も出来ない。それがこの世界のルールなのだから……


 すらと彼我距離を詰めた俺の教科書通りの右ローが、野郎の左膝横に的確に放り込まれていったのを皮切りに、我が四十八の喧嘩殺法が、奴の全身に隈なく経を書き込むが如くに刻み込まれていく。


 おぉすてぃんぱうわぁず、のような断末魔の声を響かせながら、長髪のボロきれのようになった身体が重力を無視したかのように遥か上空へと吹っ飛んでいき、次の瞬間、頭から真っ逆さまに落下してきた、その一点目掛け俺は走り、そして飛ぶ。


 空中で俺は奴の右肩を自分の右肩でぶつけ支えると、


「おおおおおッ!! 最終奥義ッ!!」


 雄叫びを上げながら、両腕を伸ばして奴の膝裏辺りをホールドする。がっちりと、双方の身体が固まったのを感じると、くんずほずれつそのまま落下重力で地上へと落下していく……ぉぉおおおくらえぇァッ!!


「『自動追尾ロックオンTHEシルバニオファミリエス=ンバスタァァァァァァァアッァあああああッ!!』


 奴の首・背骨・股関節に多大な衝撃を与えながら極技は炸裂し、その悶絶した顔に泡を吹かせながら失神せしめるのであった……


 瞬間、黒い「立方体」が裂け爆ぜるようにして消滅していく。終わった……俺は、強まってきた草原を撫で走る風に体を打たれながらも、勝利の味を噛み締める間もなく、地べたに伏したままの猫神ネコル向けて走り出す。

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