第111話 暗躍の軌跡


「まず聞きたいことは、お前はドトール・エフェクトという人物を知っているな?」


「えぇ、知っています」


「どんな関係だ?」


「狩人と獲物、ですかね」


「もっと詳しく」


「ワタシが狩人で、ドトール・エフェクトが獲物です」


 くそ、簡潔に答えろとは言ったが、もうすこし情報を足して欲しい。


 にしても、やはりと言うべきか、この悪魔は師匠のことを追っていたと見て間違いない。


 師匠が殺されたのはコイツのせい……ん、となるとーー。


「イチゾウ、を知ってるのか?」


「はい、ワタシの魔導書を読んで、勝手に駒になってくれたあの老骨のことですね」


 っ、こいつ……そうか、あの黒の眷属たちは、この悪魔の眷属、そして、イチゾウは悪魔の仕掛けた暗黒魔術に囚われ……操り人形パペットになっていたのか。


 力に魅入られた弱気ではない。

 あの暗黒魔術、その手綱のさきにいたのは悪魔であるなら、魔法の心得のないイチゾウにとうして抵抗できようか。


「どうして、イチゾウを使って師匠を殺させたんだ? そんなことをして、お前になんのメリットがある?」


「はは、結論から言いましょう、簡潔に。彼女のためと思いましたが。さしたるメリットは、ありませんでした。結果的に唯一動ける駒を失ってしまったのです。相討ちになるのなら、最初から追いはしませんでしたよ」


「なに……?」


「ふふ、それにしても、まさか、あの四属の魔術師に弟子がいるとは、思いませんでしたねぇ。それも、が連れてきたアナタがねぇ……これは一本取られました」


「お前、何を言って……」


「ああ、もうヴェールが晴れますよ、いいのですか? この大学にはがいるようなのてま、ワタシは立ち去らせていただきますよ? さぁ、ぼうっとしていたら時間はどんどん過ぎていく。これが最後の機会だというのに」


 まくしたてる悪魔の言葉に、思考を乱される。


 落ち着け、こいつは何かをカモフラージュしようとしている。


 先ほどより、明らかに饒舌じょうぜつではないか。


 こいつは俺に嘘をつけない。


 ゆえに、語った真実の断片を悟らせないようにしてるんだ。


「もう時間ですね、最低顕現時間の約定がようやく、切れてくれます。やっかいな魔法陣で来てしまったものですね。どこの人間が作ったのやら……」


 悪魔は矢継ぎ早に言葉を繋ぐと、指をパチンと鳴らした。


 よく視界の通る湿った空気に、不思議と乾いた音が響いていく。


 濡れた床に焼きつくように現れる、黒い光の魔法陣。


 立ち去ろうとする悪魔へ、俺は考えた末、ひとつ言葉を投げかけた。


って……誰のことだ……名前を教えろ」


 黒い魔法陣から、あふれ出てくる粘性の黒液に、沈みゆく悪魔は目を見張り……そして、おおきくため息をついた。


 悪魔はわずかに俺の目を見つめると、ぼそっと口を開く。


「プラクティカ・パールトン。不老の魔術師」


 ……は?


「いやはや、言わされてしまった……これは本当に、でしょう」


 悪魔は残念そうに首を振りながら、黒い魔法陣のかへと沈んでいく。


 呆気にとられ、俺は、ただ悪魔が消えていくのをじっと見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る