第108話 悪魔召喚
死の悪魔、それは死の概念と深い関わりを持つとされる悪魔のこと。
そういう種類がいるのではなく、ただの一個体の名前である。
死の悪魔はどこにでもいて、どこにもいない。
我らのちかくにいるはずなのだが、それらは見ることも感じることない。
ただ、足音だけは聞こえる。
死とはいつでも自分のための、進捗を怠らない勤勉のことでもある。
転生と転生の間に存在する、魂の休憩時間とする学者もいるが、それは間違いである。
死とは恒久の終わりだ、めぐる生はありはしない。
だからこそ、我らは死を知り、研究する必要があるのだ。
「それがどれほどの犠牲を払ってでも……」
死の悪魔の項目の走り書きに、作者からのメッセージのようなものが書かれ、
そこから死の悪魔に関する伝承、伝説、そのほか目撃例などがまとめられている。
ここまではエンディングのところで見られた、悪魔の関連情報のまとめと変わらないが、1ページめくると、本の内容は毛色の違う記載を見せはじめた。
「大量の人間の死により、死の悪魔は人の世界に自然発生する可能性あり……生誕からの日数が20年以下と、それ以上では、前者のほうが触媒に適している……」
死の悪魔を呼び出すための、手法についてまとめたものらしい。
とうやら魔法陣を使用したタイプと、大量殺人の二つのパターンが作者によるとセオリーらしい。
「契約について……死の悪魔は、死を恐れる人間により近づいていく。悪魔と契約することで、人は死を回避することが可能になる。
それは、つまり恒久の続きを得たということになる。ただし、悪魔との契約は、その者の魂を縛ることに繋がることを、留意しておかなければならない」
契約したパトゥル・オリナからのメッセージが、最後に書かれて、死の悪魔の項目は終わっていた。
本を閉じて読書机へ、置こうとする。しかし、その時になって、何やら本の端っこがプルプルと震えていることに気がついた。
恐怖からくる手の震え、ともはじめは思ったが、すぐに、本自体がふるえているのだと胃がついた。
俺は大きくなる震えに、驚き、つい本を取り落としてしまった。
机のうえに落ちた本は、緑色の本『魔術言語から見た悪魔』のうえに、重なるように移動すると、黒い炎をあげて燃えはじめた。
杖をぬき、構える。
魔術師にとって、自分の理解できない「現象」は驚きはせど、恐怖する対象とはなりえない。
この世の摂理がデタラメなことを、何者よりもよくわかっているからだ。
だから、本の本の間から、どす黒い液体が溢れ出て来たところで、それはさしたる恐怖ではないのだ。
「≪
重なった本の間、ありえない場所に生じた
名前に似合わぬ、超魔術によって生まれたばかりの何かが俺の左手のひらの上に移動した。
「ヴォォおアアアッ!」
手のうえに移動してきたそれは、手足を失った人のような形をしていた。
黒く、どんどんと体積を増やす、その黒い体積を思いきり地面に叩きつける。
俺の直感が言っている。
これの召喚を許してはいけない、と。
俺は禁書庫の扉がしまっていることを確認して、小部屋の時間密度を一気に希薄させた。
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