第106話 やっぱそうじゃん


 真新しい、まだ誰も来館していないゴルディモア国立魔法大学の図書館へ足を踏みいれる。


「サラモンド・ゴルゴンドーラ、レトレシアより参った研修団の者だ」


「っ、あなたが、あの智略の魔術師……っ、まさか、この大学に来ていらっしゃったとは」


 カウンターで司書をしている男に、ネームバリューの暴力をつかって話を通し、館内の案内を頼む。


 司書の案内にしたがい、図書館のなかを散策しつつ、等間隔で≪魔力看破まりょくかんぱ≫による、魔力源の索敵をおこなっていく。


 満遍なく薄いヴェールの波動を撃ちおえて、図書館をでる。


 禁書棚の位置を完全に把握した。


 図書館の一階に、立入禁止、の注意書きがあったし、その奥から複数の魔力の声が聞こえた。


 現代魔術、それも腕のある魔術師が、最新の魔術をもちいて隠蔽と封印をしてくれているおかげで、実に理にかなった設計をしている。


 入学式に参列している間に、魔法の破りかたを考えておこうか。


 俺はペンとメモを取り出して、入学式おこなわれる校舎へ戻りながら、感知した魔法のパターンと、最適な解錠方法を考えはじめた。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



「うぉぉおおおー! やっぱそうじゃん! あれゴルゴンドーラじゃんッ!」


 一言求められ、壇上にあがると同時、入学式がとり行われていた魔法大学の巨大な中庭に、第一期生たちの歓声と、驚愕の声が響きわたった。


 他国の魔術師なのに、信じられないくらい歓迎されているのがわかる。


 魔術師の総本山たるレトレシア魔術大学から研修団が来たと、紹介した時も、この大学の生徒たちは大喜びしてくれた。


 やりやすいのは、実にいいことだ。


「魔術の普及……私と志を同じにする理事長が、私とは遠く離れたこの地に、魔法学校を開いてくれたのは、大変に喜ばしいことであります。

 私は、このゴルディモア国立魔法大学の開校を、そしてそこに通うことになった、暗中を抜け、深淵へと旅立つことになった新しい芽たちへ、おめでとう、と祝いの言葉を贈りたいと思います」


 スピーチをおえて、歓声のなか、壇上をおりる。

 

 新しい時代を作る魔術師が、ここから生まれるかもしれない。

 

 ふふ、ゴルディモアに来てよかった。


「サリィ、楽しそうねー!」

「えぇ、楽しいですよ、レティスお嬢様」


 まぁ、楽しいだけでは終われないんだけどな。


 俺はメモ帳を開き、解錠魔法の最後の調整をはじめた。


 

 ⌛︎⌛︎⌛︎



 杖を腰のホルダーにおさめる。


 立入禁止と銘打たれた看板を、見なかったことにして、ドアノブに手を伸ばす。


「……ふぅ」

 

 封印魔法は作動しない。


 よし、完璧だ、うまくごまかせた。

 痕跡を残すとまずいので、魔法自体は破壊しない方針でいったが、意外になんとかなったようだ。


 困難を乗り越え、俺はほくそ笑みながら、扉をあける。


 部屋の中央には洒落たランタンの置かれた四角い読書机、その四方を囲むようにあるのは、スカスカで空きの多い一般に閲覧するには、やや刺激の強い禁書たち。


「さてと……」


 それでは物色開始だ。

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