第105話 有名人


 宿屋でアヤノをもとに戻すため研究にいそしみ、早いもので5日が経過した。


 いちおう進捗はあった。


 アヤノは治癒ポーションを飲むと、気持ち体がおおきくなったような気がするので、1日3回、とくに怪我してるわけではないが、彼女に治癒ポーションを飲ませることにした。


 理屈はわからないが、効果は現れている。


 いまではレティスと同い年くらいまで戻り、アヤノが一方的にレティスのおもちゃにされる事はなくなった。


 ロリとロリの尊い掛け合いが見られなくなったのは、まことに遺憾いかんであるが、彼女がもとに戻れるきざしが見えたのは、同僚として喜ばしいことだ。


 時間をかければ、何とかはなりそうなのだから。


 そういうわけで、アヤノの方はたぶん平気だ。


 問題は俺の方にある。


 今回の研修にてはじまりのイベントでもある、ゴルディモア国立魔法大学の入学式、その参列までに個人的な用事、死の悪魔た関する調査、

 を終えようと思ったのに、この国に来てから手に入れた手掛かりは、紙切れ一枚だけで、ほとんど調査なんて進展していないのだから。


 流石に、研修として来ているゴルディモアの図書館を、土足で踏み荒らすわけにはいかないので、

 今日まで、路地裏に居を構える怪しいブローカーたちに会ったりして、

 情報の収集に努めていたのだが、誰もめぼしい話を聞かせてくれることはなかった。


「あら、サリィ、どこへ行くのー?」


「お嬢様、サラモンド殿には仕事が残されているのです。わたくしたちは、さきに会場に行って待つことにしましょう」


 エゴスのフォローを受けて、スムーズに研修団から離脱する。


 俺は寂しそうにするレティスの姿に、心臓をえぐられるような痛みを味わいながら、校舎の横に設置された、おおきな図書館へと足をむけた。


 赤レンガを積み上げて作られた統一感のある、校舎、図書館、学校敷地と外を分かつ洒落た壁に、視線を楽しませながら、芝をさいて敷かれたレンガ道をあるいていく。


 白に金の刺繍がはいった、目立つローブを堂々を着こなして、遠目からこちらを眺めてくる、ゴルディモア国立魔法大学の記念すべき第一期生へと顔をむける。


「あれ、サラモンド・ゴルゴンドーラじゃね……?」


「まさか、本物がこんな場所にいるわけないだろ」


「巧妙な罠を張り、最強の帝国軍をひとりで押しかえし、皇帝を舌戦で負かしたという智略の魔術師……今日は入学式だ、案外、来賓としてくる可能性は、十分にあるぞ」


 小耳に聞こえてくる心地よい噂話に、機嫌よく耳を傾ける。


 ふふふ、どうやら、昨年の戦争での噂はヨルプウィストが首都エールデンフォートでも、しっかりと轟いているらしい。


 俺としては、嬉しい限りなのだが、いかんせん今バレると面倒そうだ。


 生徒たちはローレシアからの研修団が来ていると知らないのだから、ここは静かにしていこうか。


 俺は生徒たちになるべく注視されないように、記念すべき初開館日をむかえた図書館へと、足を踏み入れた。

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