第104話 悪魔についての知見


 エンディングに連れられて入室を許可された倉庫の中には、多くのファイルが整頓されて保管されていた。


 薄暗い倉庫中央、四角い机のうえにろうそくがひとつ立っているだけの、心もとない灯りを頼りに、紐でくくわれた、紙束に目を通していく。


 エンディングの持ってきたファイルは、すべてで10個。


 その多くがある特定の悪魔に関する伝承、目撃例などについて言及しているもので、それら特定の悪魔たちのなかに、死の悪魔の存在はいなかった。


 得られたものは悪魔という種族に対する理解だ。


 彼らは存在そのものが悪性の塊であり、ひとが僅かながらの善性を持っているのに対して、彼らには良心などというものが、ただのひとつまみとして無い。


 その種の多くが、超常的な力を宿しており、人が1000年かけてもけして手の届かない「怪物」らしい。


 伝説上の存在だが、今でも時折、目撃情報などが、ギルドにあがるらしく、たしかにとの事。


 滅するには「聖遺物」とよばれる、神秘の道具が必要だ。もしなければ、退けることは不可能。敵対しないことだ。

 こちらもまた伝説の物質であるため、まず地上には出回っておらず、手にいれるのは困難を極めるとのこと。


 調べてわかったことは、それくらいだ。


「…運悪く、機嫌の最悪な悪魔に出会ったときにゃ、何とかなるんでねぇか…? はは、ただ、そのとき、運良く聖遺物を待ってればの話だけどな、ははははっ」


 エンディングはろうそくの火を揺らしながらファイルを結び直し、奥へと資料たちを戻しにいった。


 やれやれ、もうすこし何かわかると思ったが、ここまで来たのに無駄足だったのか……。


 もらった紙切れに視線をおとす。


 どこかの誰かが、死の悪魔を追っていたのは確か。


 その痕跡を見つけることが出来れば、俺はもっと死の悪魔に近づけるはずなんだ。


 悪魔の痕跡を追うんじゃない。


 それを追った者の足跡を踏み越えていけばいい。


 悪魔は足跡を残さずとも、人なら何か残しているはずだ……この紙切れのように。


「どこか、調べる価値のある場所をここらへんで知らないか。お前が調べものをする場所でもいい」


「あぁ…ひとついい候補地がある。そこは、俺は使ったことないし…まだ解放すらされてないんだがな…」


「どこだ?」


「図書館だ…それも、魔法学校の図書館」


「……まさか、ゴルディモア……?」


 エンディングはパチンっと、指を鳴らす。


「これは眉唾な噂だが、魔法学校の創設時には、その威厳と知識の保管庫には、ために多くの珍しい本や資料が集まるらしい」


 あぁ、どこかの魔術大学で実際にみたアレか。

 

 この春、あたらしく誕生日しようとするゴルディモアの図書館には禁書級の書籍が、たくさん運び込まれている可能性が高い。


 どうやら、調べてみる価値はありそうだ。

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