第103話 ただのいっぺん

 

「いらっしゃい…ここではあらゆる情報に出会えるよ、大英雄サラモンド・ゴルゴンドーラ」


 紹介状を受け取り、なかを軽く確認すると男ーーエンディング・デスプルネットはニタニタと笑い、そう言った。


 背は低く、俺より頭ひとつ小さい。

 それゆえに抱かせる、まるで小鬼のようなイメージが、この男の凶悪な瞳と牙に拍車をかけている。


「はは、話は聞いてるみたいだな。そうさ…オレは吸血鬼さ。血の魔力をまともに使えない壊れ物だが、俺の売りは武力じゃねぇ…情報だ。だから、腕っぷしはいらねぇ。さぁ…どいつにするんだい?」


 吸血鬼の男ーーエンディングは楽しそうに顎をしごき、店内をテクテクと歩く。

 そして、壁中に設置された棚におさまる、紙束やら封筒やらを右から左へとなぞっていった。


「決まっている。エゴスさんの話を聞いているのなら、それが何かは見当がつくんだろう?」


「悪魔…そう、たしか『死の悪魔』とかいったか…な。ずいぶんと物騒な響きだったのを覚えてる」


 男は貼りつくような笑みを浮かべ、棚から手を離して、懐から紙切れを取り出した。


「救国の英雄さまは悪魔にご執心なのかい…?」


「そういうわけじゃないが……ただ、その悪魔のことを今は知らなくてはいけないんだ」


「そうか…いいだろう。金はエゴスから受け取ってる。ほれ、これをくれてやろう」


 エンディングは古びた紙をつまむように渡してくる。



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 〜〜〜〜41年、4月〜〜

 遺跡探索30日目。


 ようやく、奴らから逃げきった。

 仲間たちと合流したら、あれらの名前をつけることにしよう。

 神の墓暴きは危険だとは知っていたが、それでも見合うだけのものは得られたと思う。

 例の石碑の一部に死の悪魔の記載を発見した。これは、やつの存在を先史文明が確認していた証、それどころか奴自身が人間とじかに契約をしていた証拠となる、まこと大発見だ。

 やはり伝承でも、おとぎ話の中の存在でもないんだ。たしかに、私たちの周りいるが、そこにいるとは言えないものなんだと、今なら確信を持って言える。


 もうひとつ発見があった、彼の真名についてだ。

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 だが、嬉しくない事実も確定してしまった。やはり、奴を殺すには神の祝福を受けた、古代の品が必要らしい。仲間のひとりが遺跡の奥に、てかてか光る黒い棺を見つけたとか言っていたが、もしかしたらアレは古代の品なのかも……。

 まぁ、何にせよ、今はそんな物は持っていない。残念だが、まだ私たちには奴のしもべたちを何とかすることは出来なそうだ。


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 パット


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 紙切れに書かれた脈絡のない文章。

 紙自体の劣化がひどく、部分的に読み取れない箇所もいくつかある。


「これは?」


「それが、死の悪魔に関する文献…いや、文献と呼べるかも怪しいか…たぶん、どこかの誰かが書いた探検の記録のようなもの…そのいっぺんだろう。

 オレ様の書棚と人脈をつたってやったが、だーれも、その『死の悪魔』なんていう、物騒な悪魔のことを知らないんだ。それだけが、なんの偶然か、悪魔関連の資料のとこに紛れ込んでたんだ」


「悪魔関連の資料、その資料、ぜひ見させてはくれないか? なにか手掛かりがあるかもしれない」


 せっかくここまで来たのに、こんな訳の分からない紙切れひとつで帰れるわけがない。


 何としてでも、死の悪魔の情報を手に入れてやる。


「おうおう、大英雄さまが燃えてるねぇ。いいぜ、エゴスには恩がある。それに、悪魔の資料なんざ、欲しがるやつは、そうそうにいねぇからな」


 エンディングはそう言うと、「ついて来な」と扉を開けて、おくの部屋へと道を開けてくれた。

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