第88話 緋糸のエゴス
「残念だが、サラモンド・ゴルゴンドーラ、貴様は殺してもよいと指示をもらっている、遠慮なく殺させてもらうぞ」
「サリィ! がんばってー!」
アヤノの影からどんな霊薬より効くドーピングをもらい、目の前でイキる刺客を思いきり殴る。
「そんなパンチが……ぶぼへぇあ!?」
たかをくくり背後に避ける刺客へ、石畳みを砕く踏み切りで放った蹴りが直撃。意図せず命中してしまった股間をおさえながら、刺客のひとりが倒れふす。
「わー! サリィ、すごいわー!」
「あはは、こんな奴ら余裕ですよ、余裕……おっと! ≪
舗装された地面をバキバキに破壊しながら、刺客から撃ち込まれてくる魔法を雑に
「≪
せり上がった岩壁を無駄にせず、部分的に縄状にして岩壁のこちら側からは見えない刺客たちを狙い撃つ。
「舐めた攻撃を……っ!」
「まぁ、落ち着け、もう目的は達成した」
「奴を殺すことは任務じゃない、目的を見失うな」
ふむ、声が聞こえてくる限り、ノールックで放った拘束術はさすがに作用しなかったか。
「っ、どわぁあああー!?」
「なんだこの糸は……うぎゃあああ!」
「や、やめ、やめてくれぇぇえ!」
ん? なんだか壮絶な叫び声が聞こえてくる。
「ぇ、なんでしょうか……」
「サリィ、なんだか恐いわ……」
不気味がるアヤノとレティスを岩壁の内側に残して、すっかり静かになった向こう側へ。
「あ、エゴスさん」
「サラモンド殿、ずいぶんと時間が掛かっていたようですな。いらぬとは思いましたが、逃走を図っていたので、拘束させていただきましたぞ」
エゴスはモノクルを直して、指先から伸びる赤い糸を器用に操って気絶した刺客たちから杖を没収していく。
首を横に向ければ、さきほどまでデカい口を叩いていた刺客の中でもリーダー格と思われる2人が、仲良く赤い糸に縛られているのが見えた。
そういえば、ほとんど音がしなかったが、本当に戦っていたのだろうか……? まるでほとんど無抵抗で取り押さえたかのように静かすぎではないか。
「ぐ、グソ……ゴルゴンドーラだけならまだしも、こんな強者がいたなんて、聞いてない……ッ」
「これは、誤算……ですね……」
無気力にうなだれ、抵抗ひとつしやしない刺客たち。
「それじゃ、いろいろ話してもらおうか。いい加減に人がいなくて寂しくなってたところだ」
俺は床に手足をぐるぐるに縛られて、武装解除までされたリーダーと思われる男に近寄る。
フードを完全に取り払ってみると、男の傷だらけの顔があらわになった。
「っ」
歴戦の猛者、まさしくそんな言葉こそがふさわしい顔だちにの男、だが、妙なことにその両眼は真っ黒に染まっており、そこに光が宿っているようには見えなかった。
俺は男と目があった瞬間に、自身の魔感覚がたかが外れたように、致命的な危険をはらんだ魔力の流れを感知した。
この男ーーッ!
「何も残しはしないぃぃいッ!!」
黒一色の瞳から血の涙を流し、男の体はむくむくと膨れあがって巨大肉塊へと変わっていく。
古典魔術≪
「ベントタイム、こんな広い場所で使わせんなよ」
俺は時間密度の希薄になった、空間でレティスを連れて走りだそうとするアヤノと、
そのアヤノたちを庇うように、厚い体を盾にするエゴスを怪腕の力で強引に持ちあげていく。
時間にして8秒、十分な距離を離れたと判断して魔法を解除。
時間が正常に動きだすと同時に、背後で巨大な魔力爆発が巻き起こった。
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