第81話 終戦
ふかふか絨毯のしかれた廊下を歩く。
部屋の姿見で再三確認した身だしなみを整えて、いつもの場所へ。
そこは見る人がみれば、高度な魔術についての指南書、ポーション薬学に関しての専門書、
さらには魔法陣と魔術言語に関しての最新の学術論文などがあることに気づくだろう。
魔術大学卒業間近の、主席が使ってそうな工房……そんなお墨付きの熟達された空気をまとう魔術工房の主人には、ここのところ会えていなかった。
ふと廊下で立ちどまり、窓の外へ視線をなげる。
芝の生えそろった美しい庭。
可愛らしい黒髪のメイドが、枝バサミで庭園の木を手入れしているのが見える。
あぁ、昨日まで北方の戦場にいたのが信じられないくらい呑気な光景だ。
肩をほぐし、ここ数日間でもっとリラックスして俺は歩きだした。
ローレシア魔法王国を脅かしたゲオニエス帝国の侵略戦争。
反撃の意思をみせる帝国に対して、ローレシアはクルクマに残されていた魔造兵器ーー実際は精霊の類いと流布したーーを交渉材料に、ゲオニエス帝国に軍をひかせることに成功した。
いいや、成功したというか、交渉は完全なる脅しだったので大成功したと言っていいだろう。
なぜなら「こちらの要求を呑まなければ、いつだって帝国にあの巨人の精霊を放てるんだぞ」といった趣旨の説明、
ほんとうにただの脅しをかけ続けたので、彼らには選択肢などありはしなかったのだ。
バルマスト帝の恨み節は酷い者だった。
いや、俺に対してもそうだが、なによりも協議の場に出てきた魔法省の長老たちに対する罵倒が酷かった。
いわく「なぜ
だって、いまさら言われても困るじゃん?
あぁ、そうそう「歳だけ食ったクソにたかるウジどもめ」とかは、素直に気持ち良かったです、バルマスト帝。
1週間後のローレシア王とバルマスト帝による、会談を経て最終的に終了する……が、実質ほとんど戦争は終結したようなものだ。
ヨルプウィスト人間国とグンタネフ王国が、帝国に圧力をかけるために出張ってきたおかげで、あの国ももう迂闊なことは出来ないだろう。
時間切れというやつである。
ローレシアは国家予算数年分の大量の賠償金と、トールメイズ砦を挟んで、
河の向こう側1000エーカーの森を気持ちばかりの領土として手に入れることが仮約束された。
魔力鉱石が取れたり、なにか貴重な資源があるわけではないが、戦術的価値の高い森だ。
これからはバルマスト帝の戦争欲がでても、簡単には手を出せなくなっただろう。
「あっ! サリィだわー! ちゃんと帝国を滅亡させてきたー?」
「はは、流石にそこまではしませんよ、レティスお嬢様」
ぺろぺろしたい衝動を抑えて、抱きついてくる少女を受けとめる。
さてと、本業に戻るとするか。
第二章 智略の魔術師 〜完〜
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