第66話 暗黒魔術
赤く火照り、蒸発した大地をのぞき、付近の茂みから10体ーー体と数えてよいものなのかーーにのぼる黒の眷属たちが飛び出してくる。
液体だが、液体でない。
今度の魔物たちは、皆が2メートルにもおよぶ巨人のような上背を誇っており、あいも変わらず流動する体は人型を成してはすぐに崩れていく。
目にも留まらぬ俊足の魔物たち。
戦士でない俺にはこの数と、個体の近接能力の高さはやや厳しい。
だが、
「なんとかするさ」
古典魔術≪
崩壊と再生を繰りかえす邪悪のせまるなか、俺はゆっくりと瞳を閉じた。
肌を撫でる風は次第になりをひそめ、この世のすべてが間延びされた反逆の物理法則に傾倒していく。
密度の薄くなった時の中心。
本来はこんなひらけた空間で使うべきではない魔法、そして使えるわけがない魔法だ。
無理やりの調整と、こじつけの魔力で強引になせているだけの魔術の反動は必ず俺にかえってくる。
だが、それでも数秒あれば十二分。
いちぢるしく「早さ」を失った時間はあらゆる危機を回避できる。
反対魔法、抵抗魔法が発動していないことを確認して、俺は向かってくる化け物たちへ同じ数だけの火炎を用意、
さらにそのうえから重ねるように魔力属性魔力を惜しみなくつかって幕を張る。
魔法ではない。適切な魔法が思いつかなかったゆえの、苦肉の策、杖に大きな負担をかけての純魔力放出とその操作によるものだ。
時間は動きだす。
黒の眷属たちが魔力の球体に閉じ込められながら、そのなかで灼熱によってドロドロに溶かされはじめる。
俺の魔力を吸収しているようだが、それよりも崩壊のほうが早い。
「なるほど、師匠が言っていた魔法が効かないとは魔力を吸収する能力によるものでしたか」
「……っ! な、なにがおこってんでぇ!?」
慌てふためくイチゾウは、魔導書へ驚いた顔をしてかつもくしている。
「ぜ、全滅……おらの悪魔たちが全滅だべか!? そ、そんな、いやだぁ……いやだべよ、おら、死にたくねぇだッ!」
イチゾウは泣きそうな顔で叫び、そして走りだす。
その途端、放り出された魔導書が妖しく光りだした。
魔感覚が知らせてくる感じたことのない、されど本能的にわかる恐ろしき悪しき気配。
「これは、暗黒魔術か……」
魔導書に組みこまれた時限式の魔法が発動。
イチゾウが許された逃走はただの5歩だけ。
彼の体はすぐに地面から染みだすように現れた黒い液体に包まれてしまい、
近くで拘束が解除されつつあるバルマスト帝のごとく、黒のさなぎへと拘束され変えられていってしまう。
「殺してくんでぇェェェエッ!」
懇願するイチゾウの叫び、無力な抵抗をする者へひび割れ壊れかけた短杖をむける。
「馬鹿野郎が……ロクでもないもんに手を出しやがって」
黒に溺れ、もがくイチゾウへ俺は風の槍を撃ちこんだ。
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